175話 すれ違い

 ……間違いない……結衣だ。


 俺の中の結衣より、大分大人びている。


 だが、あの子のことを……俺が見間違えるわけがない。


 ……何より、学生服を着ているし。


「結衣! どうしてここに……聖女か!」


「気安く名前で呼ばないで! 和馬さんの偽物のくせに!」


「何を言っている? 落ち着け、お前の悪い癖だ。そうして、思いこんだら」


「っ〜!! その口調で、あの人みたいなことを言わないで!」


「お、おい! 前に出るなよ!」


「聖女様、ひとまず下がりましょう。今日は様子見と言ったでしょうに」


 横にいるのはハロルドと……学生服を着た男子。

 あの男、何処かで見たような……そうだ! 夢で見た男だ!


「でも! あそこに魔王が——私の世界で一番大事な人を奪った奴が!」


「結衣! きちんと説明しろ! おじさんは!? おばさんは!?」


「うるさい! 和馬さんみたいなこと言っても騙されないんだから!」


 そして、ハロルドに先導され去っていく。


「……相変わらず、思い込んだら一直線か」


 会えて嬉しくないと言ったら嘘になるが……それは、こんな形ではない。

 おじさんとおばさんはどうしてる?

 こっちの世界にいるってことは、あっちでは行方不明ということか?


「殿……主人殿!」


「カグラ?」


 振り返ると、皆が不思議そうな顔をしている。

 カグラとセレナは、何やら落ち込んで見える。


「アレス? 知り合いなの? お姉ちゃんは、浮気は許さないわよ?」


「ち、違いますよ! カグラ、セレナ、違うからな?」


「わ、わかってるのだ」


「う、うん……でも、あの人がそうなのかな……」


 ァァァ! 二人が不安な顔してるじゃないか!

 しかし、俺とて……この状況に、頭が追いつかない。


「アレス様、ひとまず僕達も下がりましょう。敵も、あらかた片付いたようですから」


「そうですねー、御主人様も混乱してる様子ですし」


「そ、そうだな」


 ……結衣、まさかとは思っていたが……。


 それに、あの男……。


 俺がお前の夢を見てたことも、何か関係があるのだろうか?


 そして、聖女がお前で……俺が魔王であることも。






 ◇



 ……びっくりした。


 あの子……ううん、あいつが魔王だなんて。


 あいつは、夢で見てた男の子だった。


 可愛い女の子を侍らせて、楽しそうに過ごしてた。


「あいつが、和馬さんのわけがない」


 私の知ってる和馬さんは、何人も女の子を連れてたりしないもん。


「やっぱり、偽物なんだ。魂だけは和馬さんだけど……」


 許せない……和馬さんを汚して。


「魔王アレス……貴方を殺して、和馬さんの魂を解放してみせるから」


 和馬さん……待っててね。



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