170話 人と人の繋がり

 その後、義兄さんとエラルド殿だけ先に部屋に入り……。


 疲労したセレナとカエラを、カグラとアスナが部屋に送っていき……。


 その後、少し待って……俺たちも部屋に入る。


「わぁ……! 可愛い!」


「可愛いのじゃ!」


「ああ、そうだな。姉さん、お疲れ様」


 ヒルダ姉さんの隣には、小さな命が眠っている。

 どうやら、男の子らしい。


「ふふ……ありがとう、アレス……貴方が生まれた時を思い出すわ」


「そ、そうですか」


「そうよー。アレスったら可愛くてね」


「母上!」


「あらー、いいじゃない。今は婚約者達もいないし」


「いや、妹がいますし……」


「お兄ちゃんも、こんなだったの?」


「そうよ、エリカ。小さくて可愛くて……あれほど嬉しかったことはないわ」


「……そりゃ、どうも」


「師匠、照れてるのじゃ!」


 俺は黙って、レナの両ほっぺを伸ばす。


「なにひゅるのじゃー!?」


「そういうことは突っ込んではいけません」


「むぅ……」


「ふふ……ほら、エリカにレナ。もっとこっちに来て、この子を見てあげて」


 姉さんがそう言うと、二人が恐る恐る近づいていく。


「ほら、触ってちょうだい」


「「い、いいの?」」


「ええ、もちろんよ。貴方達の弟だもの」


「弟……えへへ! 」


「ふえっ!? わ、私は他人だし……」


「関係ないわ。アレスの弟子なら身内も同然だし。何より、私が決めたわ」


「ひ、ヒルダさん……」


 ……もしや、俺が姉さんに話したからかもしれない。

 彼女の事情を……母親もいない、信頼していたメイドに裏切られたことを。


「あら、ダメじゃない。きちんと、姉さんって言わないと。あっ、でもアレね。きちんとお兄さんに許可を取らないとね」


「平気ですよ、ヒルダ。ロナード殿は気にしないかと。ねっ、アレス殿」


「ええ、義兄さん。あの人は器の大きい方ですから」


 俺に代わって妹を守って欲しいと、年下の俺に頭を下げてきた男だ。

 そして、国を救ってくれた恩を返すと。

 そして、今回……俺の味方になってくれると言ってくれた。


「じゃあ、わたしのお姉ちゃんだね!」


「エリカ……ありがとぅ……えっと、ヒルダお姉ちゃん……」


「レナ、よろしくね。この子のこともね。カイルって呼んであげて」


「う、うん! カイル……」


「カイルかぁ〜えへへ! よろしくね!」


 俺は、その光景を見ながら涙が出そうになる。


 それを堪えつつ……。


「二人とも、そろそろ部屋に帰ろう。姉さんも疲れてるし、二人もとっくに寝る時間だ」


「「うん!」」


 二人を母上に任せ……。


 その後、エラルド殿や義兄さんも部屋を出て行く。


 体力が残っている俺は部屋に一人残り、今日は寝ずの番をすることになっている。


 お付きのメイド達もいるが、姉さんが俺にいて欲しいと願ったからだ。





 そして、それから数時間後……夜が明けてきた。


「アレス? 」


「姉さん? どうしたの?」


「ふふ、いてくれたのね。もっと、こっちにこれる?」


 俺は赤子を起こさないように、静かに近づく。


「どうしたのですか?」


「ううん、顔が見たかっただけ」


「そうですか……姉さん、ありがとうございます。レナやエリカのこと」


「……だって、私が嬉しかったから」


「えっ?」


「エリカが生まれた時……貴方が私に言ってくれたわ。この子のお姉ちゃんになってくれませんかって……私、あの時ほど嬉しくて泣いたことない」


「姉さん……」


「あら、ちょっと語弊があるかも。そうね、今日と同じくらい嬉しかった」


 そう言い、赤子をそっと撫でる。


「だからエリカはもちろん、可愛がってるレナにも同じようにしてあげたかったのよ。エレナ様には本当の娘のように可愛がってもらって、同い年のカエラも沢山遊んでくれて……私が、そうしてもらって……救われたから。私には、血が濃くなくても家族がいるんだって」


「…………」


「ふふ、どうしてアレスが泣くのよ?」


「す、すみません……」


「仕方ない子ね。良いわ、頭を撫でてあげる」


 俺は姉上に撫でられながら思う。


 貴方に救われたのは、俺の方ですと……。

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