165話 ライル視点
くそ……何もできん。
我が国で、教皇が偉そうにしているのに……!
しかも、俺のことなど……まるで眼中にない。
「では、そういう流れでお願いしましょう」
「ええ、もちろんです。では、そのように」
混乱する帝国の中、それを立て直したのは……皮肉なことにターレスお爺様だ。
適切に判断し、行動して……民と貴族の信を得てしまった。
まるで、事前に知っていたかのような行動力だ。
いくら、お爺様とはいえ……おかし過ぎる。
そもそも、表に出る人ではなかったのに……今は宰相の椅子に座っている。
「では、皇帝陛下。それで、よろしいかな?」
「……ああ」
くそ!! 我ながらなんと情けない!
お爺様の呪縛を逃れたと思っていたが……。
その目で見られると、恐怖で体が震えてきそうだ。
「では、聖女様、勇者様、参りましょう。そろそろ、女神様がお目覚めになるかもしれません」
「え、ええ……」
「へへ、いよいよだな」
この二人は異世界人という話だが……聖女と勇者か。
伝承によって知ってはいたが、まさか本当にいるとは。
「その必要はないですよ」
っ!! 出たか……ヘイゼル……いや、女神が。
その姿は以前のヘイゼルではなく、妙齢の女性の姿になっている。
黄金の髪に整った顔立ち……まさしく人を超えている……気持ち悪いくらいに。
いまも、神器アスカロンを携え、偉そうに玉座の間に入ってくる。
大半の人が、それを大歓迎して喜んでいる。
相手はこの世界の神であり、我が国にアスカロンを授けた方だ。
本来なら、俺も従うべきなのだが……どうにも、そういう気分にはなれない。
「これはマリア様! わざわざご足労を……」
「構いません、我が敬虔なる使徒よ。それに、理由があります。この身体に宿れる時間はあまりに少ない。故に、こうしてやってきたのです」
こいつが現れてから、ヘイゼルの意識は消えた。
ずっと眠っているか、こうしてたまに起きてくる。
本当に、これが女神と呼ばれる存在なのか?
俺には、アレスは邪神の使いと呼ぶこの存在が……邪悪に見える。
そして、そう思っているのは俺だけではない。
「なるほど、そうでしたか。では、お話くださいませ」
「ええ、そうさせてもらいます。じゃあ——そこを退いてもらえる?」
「……俺にか?」
「はい、私が座るので」
……ここは退いておくか。
玉座に座るのは皇帝だけが許されるが、今は耐えるしかあるまい。
大人しく玉座を譲り、俺は自室に戻る。
あそこにいては気分が悪くなる。
他の奴らは、女神に信奉している。
なぜだ? 俺には、そこまでは思えない。
「お疲れ様です」
「カイゼルか……」
あの後、カイゼルが俺の元にやってきた。
どうやら、アレスに頼まれたらしい。
全く……生意気な弟だ。
だが、お陰で俺は安心して寝ることができている。
「あれが女神ですか……そうは思えませんな」
「カイゼルもか? その違いは何だろうか?」
「わかりませぬ。ただ……もしや、主人との関係が関わっているのではと」
「……なるほど。確かに、ブリューナグ家全体でアレスの味方をすると通達があったな。この皇都では、そこまでのことになっていないのに」
「無論、カグラ様のおかげでもあると思います」
「全く、いい伴侶を見つけたものだ。さて……聖女と勇者についてはどうする?」
「今、サスケ殿が動いています。女神との関係性、その人柄、主人と敵対するのは間違いなさそうですが」
「お前たちはどうする?」
「ひとまず静観の構えかと。今は耐えるべきです。ここにはいられない主人に変わって、代わりにここにいる大事なものを守る、それが私の仕事です」
「……あいつが羨ましい。忠臣がいるというのは」
……だが、今は感謝する。
しかし、俺にもプライドはある。
チャンスがあれば……そのときは。
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