163話 結衣視点

 ……結局、夢じゃなかった。


 翌日になって眼を覚ましたけど……。


「昨日も説明されたけど、ここは現実の世界じゃない」


 外から見える景色、魔法という不可思議な現象。


「お父さん、お母さん……心配してるだろうなぁ」


 早く帰りたい……でも、今は帰れないのよね。


 その、魔王という者を倒して、邪神を封印するまでは。


 私は昨日の会話を思い出す……。






 ◇


 部屋に案内され、少し休憩した後……また、部屋から連れ出された。


 そして、例のお爺さんと騎士達がいる部屋に通される。


「聖女様、お気分は如何ですかな?」


「……良くはないです」


「お、おい」


「何よ? アンタはいいの?」


「いや……ワクワクするっていうか、運命を感じるじゃん?」


「はい?」


 えっ? もしかして、私との運命ってこと?

 ……勘弁してほしい。


「ほほ、仲がよろしいですな」


 ……どこ見て言ってるのかしら?

 でも、たしかに……今は、この人達に従うしかないよね。

 本当なら泣き叫んでいるところだけど……。

 あの時より——和馬さんが死んだことより、辛かったことなんかないから。


「それで、私達はなんで呼ばれたんですか?」


「そうですな、まずはご説明をいたします。昨日申しました通り、この世界は異世界と呼ばれる存在だと思ってください。このように——」


「わっ!?」


「おおっ!!」


 お爺さんの横にいる人が……手から火を出した!


「魔法と呼ばれるものや、魔物と呼ばれる存在もおります」


「すげぇ! 俺にも使えますか!?」


「ほほ、もちろんですとも。これなんかより、もっと強い魔法が使えます。貴方様は勇者なのですから。そして、聖女様にも……」


「うしっ!」


 ……ほんと、わかってるのかしら?

 つまりは、だって……多分、そういうことでしょ?


「私達は、何をすれば良いのですか? その魔物と戦うのですか? どうすれば——元の世界に帰れますか?」


「ふむ、冷静な判断ですな。ええ、きちんとご説明いたします。魔物と戦うのはもちろんのことです。魔物とは、邪神の使徒ですから。そして、魔王の僕でもある。お二人には、魔王を倒してもらい……最終的に邪神を封印して頂きたいと思います」


「うぉぉ! それっぽい話だな!」


 うるさいわね……いいや、放っておこう。


「どうして、私達が?」


「女神様より召喚されし者だからです。正確には、女神の加護を受けております。邪神を封印するには、その加護が必要なのです」


「な、なるほど……よくわかりませんが、その封印をすれば……帰れますか?」


「ええ、もちろんです。お役目を果たしたことにより、帰れるはずでございます。詳しくは、いずれ女神様よりお伝えする予定でございます」


「えっ? い、いるんですか?」


「ええ、器に憑依し、顕現なされます。今は他国にいる皇子に憑依しております。お二人が生活に慣れたのち、ご案内いたしますね」


「……わかりました」


 隣でテンション上がっている中村君は放っておくとして……。


 元の世界に帰るには、使命とやらを果たさないといけないってことだよね。


 それを鵜呑みにするのはあれだけど……今は信じるしかない。


私の命は和馬さんに頂いた……こんなところで、死ぬわけにはいかない。


 必ず、元の世界に帰ってみせる。

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