154話 脱出

……まずいな。


あの光が、もう一度くると……防ぎきれるか。


「ミツケタゾ……!」


「ヘイゼル?」


「ジャシンノシトメ……! ソウハサセナイ!」


「……話が通じる相手じゃないか」


おそらく、ヘイゼルではない。


……女神か?


「がァァァ!」


「チッ! やるしかないかっ! 全員! 下がってろ!」


「嫌です!」


「嫌なのだ!」


「やですよー!」


「お、おい!? カイゼル!」


「ここまで来たら聞きませぬよ。どっちしろ……逃げる場所がございません」


……くそ! どうすればいい!?


(ダメ! 逃げて! 今のままじゃ勝てない!)


(クロス? どうすればいい!?)


(あの剣を持ってきて!)


(あの剣を……? カエラが持っているやつか?)


(うんっ! あれには神殺しの力が宿ってるよっ!)


「よくわからないが……カエラ! 剣を!」


「はいっ! アレス様!」


素早く、剣を受け取り……。


(布を解くか?)


(ううん! 今はダメ! 今の兄ちゃんじゃ飲まれちゃうから! 見てて!)


「シネェェぇぇ!」


今まさに、ヘイゼル?が光の光線を放つ!


その瞬間——俺の体の中から、何かが飛び出す!


「がァァァ!?」


「ゴァァァァ!!」


叫び声がし……轟音が響く!


「くっ!?」

「主人殿!あ、あれは?」

「ド、ドラゴン!?」

「ひゃぁ!? あれが噂の!?」


俺が目を開けると……そこには漆黒の龍がいた。


体長は、ゆうに十メートルを超える。


その長い首、大きい翼、大地を踏みしめる四肢。


まさしく、ドラゴンそのものである。


「グア! (パパ! やっと会えたね!)」


「クロスなのか? ……随分と大きくなって……」


「グァ! (うん! それより、早く僕に乗って! 今は吹っ飛ばしたけど……あいつが、女神が……完全に目覚める前に逃げないと!)


「し、しかし! 流石に乗り切れん! それにオルガが!」


すると……。


「アレス様!」


「オルガ! 無事だったか! 奴は?」


「仕留めることはできませんでしたが、退いていきましたよ」


「そうか……強くなったな」


「いえ、油断は禁物です。勝ったわけではないので、味方を連れて向かってくると思われます……ところで、あのドラゴンは……例の?」


「ああ、クロスだ。説明は後にして、まずはここから逃げる」


「わかりました」


しかし、どうする? どこに逃げる?


そもそも、こんなに乗れるのか?


(ちょっときついかも……僕も出てきたばっかりだし)


(そうか……ますますどうするか)


「アレス様」


「カイゼル?」


「ここは、別々に行動すべきかと」


「……理由を聞こう」


「未だ、状況が掴めないこと。敵の正体もよくわかっていないこと。人数が多いと、身動きが取り辛いことなど……あげればキリがございません」


「……しかし、ここに置いてくのは危険だ」


「ええ、わかっております。故に……私が残りましょう」


「それなら、私もお付き合いいたします。情報を集めるのが仕事ですから。何より、老兵ですので。最悪、死んでも平気です」


「サスケ殿……カイゼル」


二人の目は真剣で、俺は止める言葉が見つからない……。



「オルガ!」


「はっ! 師匠!」


「お主の強さは、もはや一流の域に達している! 私に代わり、我が主君のことを頼んだぞ!?」


「——はいっ!!」


「アスナ! 今日からお前が当主だ! だが、最後の命令だっ! 我が主人様を命がけで補佐しろ!」


「——もちろんっ!」


「「主人よ」」


「……わかった。ただし、これは命令だ——必ず生きろ」


「「御意!!」」


そして全員が頷き、素早く行動を開始する。


二人を除く八人で、クロスに乗り込む。


「グァ……(ちょっと重いかも……)」


「頑張ってくれ!」


「グルァァァァ——! (うん! 頑張るよ——!)」


翼をはためかせ、空へと上昇する!


「グァ!(どうするの!?)」


「とりあえず、皇都の外へ!」


「グルァ! (わかった!)」


大空を舞い、俺たちは逃げるように皇都を去る。


これから、一体……どうすればいいのだろうか。




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