151話 窮地と救出

 う、動け! くっ! か、身体が重い……!


「す、すまん……お、俺を父上の元に……」

「は、はいっ!」


 アスナに肩を貸してもらい、何とか父上元に向かい……。


「ち、父上」

「……アレスか? 無事か?」

「こんな時まで人の心配をしないでくださいよ」


 良かった……とりあえず死んでない。

 だが、すぐに治療しないと……。

 くそっ! セレナがいれば……!


「アレス、今すぐ逃げろ。ここには教会の者もいる。お前の闇魔法を見られてしまった……おそらく、ここに向かっているはずだ。今のうちに……皆が混乱している間に逃げろ」

「し、しかし……」


 このまま放っておいたら父上が……。


「ア、アレス……! 言うことを聞け……! そして、俺の家族達を守ってくれ……! このままでは、エリナ達まで巻き込んでしまうやもしれん……」


 そうか……俺を生んだのは母上だ。

 その俺が闇魔法を使えるとなると……妹のエリカもどうなるかわからない。


「いえ、しかし……セレナを連れてこなくては……」

「そ、そんな暇はない……! すぐに、あの子達も追われる身となってしまうだろう……」


 すると……。


「ライル様がいらしたぞー!」

「皇帝陛下ー!? 何処にいらっしゃいますか!?」


 ゼトさん達の声だ……仕方ない、彼らに任せるしかないか。


「わ、わかりました」

「そう……それでいい。必ず生き残れ……」

「父上もですよ」

「ああ……任せておけ」


 とりあえずライル兄上が無事らしい。

 これなら、あとで話し合いも可能かもしれない。

 とりあえず今は、ここを逃げ出すことだ。






 瓦礫の山を越えて、通路を歩いていく。


 もちろん、闇魔法で姿を隠している。


 これなら、バレることはないが……そう上手くはいかないか。


「そこまでですよ」


 建物を出て、ひと気のない場所を歩いていたが……ある一人の男が立ちふさがる。

 しかも、奴は……俺が手を切断した相手だ。

 ……なぜ、手がある? あれを治せる者がいるということか……。


「他の者は誤魔化せても、私にはわかりますよ——シャイニング!」


 光が俺たちを照らす!


 すると……俺の闇のマントが解除される!


「ちっ! そんなこともできるのか!」

「ふふふ、光魔法ですからね。そして、お久しぶりです——異教徒さん」

「ハロルドとか言ったか……くっ」


 やはり、身体が重い……まずい、血を流しすぎたな。


「ふふふ……随分と弱ってますねぇ」

「……さあな」

「さて……死んでもらいますよ? 貴方には、酷い目に遭わされましたから。本当はいたぶって殺したいですが……命令では仕方ありませんね」

「さ、させません!」


 アスナが前に出て、俺を守ろうとしている。

 しかし、俺の体は……動かない。

 どうする? アスナでは、あいつには勝てない。


「貴様ごときが、私に勝てると……ん?」


 その時——閃光が走り抜ける!


 槍を構え、俺たちの目の前に現れたのは……。


「我が主君である方に何をしている?」

「オ、オルガ!」


 そこには、成長して逞しくなったオルガの姿があった。

 身長は俺を超え、身体も一回り大きくなっている。

 声も低くなり、見違えるようだ。

 その姿は……何故か、カイゼルと重なって見えた。


「アレス様、遅れて申し訳ありません」

「いや、来てくれて感謝する——友よ」

「話は後にいたしましょう——こいつを始末します」

「舐めた口をっ!」

「待て! オル——ほう?」

「な、何!?」


 オルガが一瞬で間合いを詰め、連続で突きを放つ!


「素早いですね」

「くっ! こんな奴がいるとは聞いてませんがねぇ!」


 その槍捌きは見事で、奴を近づけさせない。

 ……強くなったな。


「アスナさん! 今のうちに!」

「は、はいっ!」

「お、オルガは!?」

「僕のことは気にせずに——必ず、貴方の元に参ります」


 その目は、俺の知るオルガではなかった。

 少し弱気だったところがあったが……微塵も感じられない。


「……わかった。必ず生き残れ!」

「ええっ!」

「行かせるとでも?」

「こっちのセリフです!」


 槍と剣がぶつかる音を背にして、俺たちは歩き出す。






 学校の校門の外は……喧騒にまみれていた。


「何がどうなってる!?」

「わかりません!」

「陛下は!?」

「皇太子は!?」


 兵士達が状況が分からず、混乱している様子……。


 そんな中、闇のマントを展開しつつ、俺とアスナは家へと向かうのだった。





 ◇



 良かった!


 これで主君である彼の方を死なせていたら……。


 僕は、一生後悔するところだった。


「ちっ! 面倒な相手ですねっ!」

「ここは通しません」


 この相手は、多分僕より強い。

 でも、僕が負けることはない。

 そういう戦い方を極めようと、これまで頑張ってきたからだ。


「……隙がありませんねぇ」

「それはどうも」


 トドメを刺したり、派手に動くのはカグラさんがいる。

 回復や攻撃魔法で補佐するセレナさんがいる。

 遊撃役兼、魔法使いとして幅広い役割を担うアレス様がいる。


 じゃあ、僕は?

 何もかも、三人に劣る僕ができること……。

 それは、


 アレス様の魔法が完成する時間。

 怪我をした人をセレナさんが回復させる時間。

 カグラさんがとどめの一撃を食らわすための時間。

 それらを、僕が作ればいい。


「……ここで聖光気を使うわけにはいきませんし」

「使ってもいいですよ」

「……このガキがァァァ!」


 剣が迫るけど——カイゼルさんより遅い!

 相手が近づく前に、槍を突き出す!


「くっ!」

「そんなものですか、教会の聖騎士とは……」

「オ、オノレェェ!!」


 よし、噂通りだ。


 理由はわからないけど、教会騎士は精神が不安定と聞いていた。


 これで時間が稼げる。


 あとは、頼りになる彼女に任せればいい。


任せたよ——ライバルカグラ


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