150話襲来

 ヘイゼルが神器アスカロンを手に取った瞬間——。


 視界を眩い光が覆い尽くす。


「くぁ!?」

「な、なんだ!?」


 その光の中……俺の頭に声が聞こえる!


(早く! 女神の攻撃が来る!)

(……君は、クロス?)

(いいから! 早く! みんな死んじゃう!)

(……どうすればいい?)

(闇魔法を! 全力で!)

(しかし、そんなことをすれば……いや、そうしないとみんな死ぬんだな?)

(そうだよっ! 奴は自制がきかなくなってる! 早く! 今は時間止まってるけど、すぐに動き出しちゃう!)


 理由はわからないが、不思議と疑うという気持ちはなかった。


 その言葉が真実だと、自分の心が言っていた。


 おそらく……俺の積み上げてきたものは……これで壊れる。


 だが……皆が死ぬというのなら話は別だ。


 大切な人達を守るためならば……俺はどうなってもいい!





 ◇



 次の瞬間——時が動き出した。


 視線を横に向けると、ゼトさん達近衛がすでに動き出している。


 流石だな……あとは、俺の覚悟だけか。


「父上! 兄上! 後のことは任せます! 父上! もしもの時が来たようです!」

「アレス!?」

「なんだ!? 何が起こっている!?」


 眩い光で状況はわからないが、直感的にわかった。


 アレが俺に向けられているということが。


 そして、まともに着弾すれば……皇都は半壊すると。


 そして、この方角には……俺の家がある。


「御主人様! 何をすれば!?」


 状況を把握していないにもかかわらず、アスナが俺に視線を向ける。


 こんな状況だが……頼りになる奴だ。


「俺の背中を支えてくれ!」

「承知!」


 アスナが背中に回った時、一瞬だけ光が収まり……。


「ぁぁぁァァァ!」


 アスカロンを振りかぶったヘイゼルの姿があった。


「ぉ——オォォォ!!」


 全魔力を放出し、闇のバリアを発動させる!


「くっ!?」

「ひゃあ!?」


 バリバリ!と、激しい衝突音が鳴り響く!


 このままでは……打ち負ける!


「さ、させるかァァァ!」


俺はとっさに刀に魔力を纏わせ——居合切りを放つ!


その瞬間——目の前が弾けた。









 ……な、何が起きた?


 俺は……そうだ、光の槍を防ごうとして……。


 打ち負けた? か、刀が折れてしまったか……。


「ど、どうなった? ゴフッ……!」


 く、口から血が……。


「ご、御主人様! しっかりして!」


 目の前には、傷だらけのアスナの姿があった。


「へ、平気か?」

「う、うん! 御主人がかばってくれたから!」

「そ、そうか、良かった」

「よ、良くないですよ! 道具を庇うなんて……」

「ど、道具なんていうな。大事な仲間だ」

「御主人様……」


 そこで気づく。


 潤んだ瞳のアスナの、向こうにある光景に。








 そこには……全身から血を流している父上の姿があった。











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