148話 変わりゆく立場

 屋敷を出た俺とアスナは、馬車に乗る。


 もちろん、ダインさんが御者を務めている。


「どういう予定なんですかー?」

「そうだな……俺についてきたから、お前もライル兄上の成人式は見てないのか」

「そうですねー」

「まあ、俺自身も経験ないからあれだが……神器アスカロンは知ってるな?」

「はい、それはもう。女神から授かったと言われる、我が国に伝わる神器ですから」


 そう、神器の槍アスカロン……。

 邪神に対抗するため、そして魔物の軍勢を駆逐するための武器らしい。

 聖痕がなければ、まず触れることもできない。

 そして、その槍に選ばれし者は、異世界からくる勇者と聖女……。

 その二人のお伴として、邪神討伐を行うと言われている。

 それが、我が国の役目だとされている。





 そういった内容を確認すると……。


「だから、あんまり教会に強く言えないんですよねー?」

「それもある。あちらは世界を救うとされている、聖女と勇者を呼び寄せるからな。我が国は、主に戦力にて補佐する形となる。そして、グロリア王国が物資を補佐する形だな」

「でも、協力できますかね?」

「今の状態では難しいな……人間とは忘れる生き物だ」


 百年以上も経つと、時代が変わる。

 その間に生き証人は亡くなり、人々は教訓を忘れていく。

 そして、いざという時に気づき……もう、手遅れになる。


「何のためにですかね?」

「なに?」

「えっと〜……もっと封印の間隔を短くすれば良いのにって」

「……面白い事を考えるな」


 なるほど……そうすれば人々も忘れないし、生き証人もいる。

 そうすれば共通の敵もできて、国家間の争いも減るはずだ。

 ……


「へへ〜褒められましたね」

「ああ、良い意見だった。少し考察をして——」

「アレス様! まもなく会場に到着いたします!」


 御者から、ダインさんの声が聞こえる。


「あらあら、時間はありませんね」

「ああ、そのようだな。仕方ない、後々考えるとしよう」


 ……この世界は、誰にとって都合のいい世界になっている?


 その辺りが鍵になりそうな気がする……。







 使う会場は、俺達の卒業試験にも使われた場所だ。


 お披露目という意味合いもあり、国のお偉いさんや各国から重役が集まる。


 ここなら四方を結界に覆われてるし、安全性が高い。


 何より、観客席から神器を見ることができる。


「どうします? 皇族専用スペースに行きますか?」

「……そうだな、今回はそうするか」


 母上やエリカはいないし、俺とアスナだけならなにを言われようと構うまい。


 それに、俺の評判も上がってきているし、大臣が変わったことで風通しも良くなった。


 そうと決めた俺達は、父上が待つ皇族専用スペースに向かうことにする。





 中に入ると……。


「おおっ、来たか」

「はい、父上……ライル兄上も、おはようございます」

「フン……貴様がこの部屋に来るとはな」


 どうやら、父上と皇太子であるライル兄上が話しているタイミングで入ったらしい。

 その近くには、ゼトさんを含めた近衛騎士達がいる。


「ええ、大分居心地の良い環境に変わったので」

「俺を目の前してそれを言うとは……相変わらず、生意気な奴だ。しかし……否定は出来ん」


 前までは、ここにライル兄上の母親がいた。

 ヘイゼルの母もいたし、俺を嫌っている宰相もいた。

 しかし、今はもういない。

 兄上との関係性がマシになった今、ここには俺に敵意を向ける者はいない。


「くく……不器用な奴だ」

「ち、父上!」

「ライルは、アレスが来れるように席を用意していたというのに」

「そ、それは……」


 ……ライル兄上が……そうなのか。

 何だろ、この感じ……少しむず痒い感じがする。


「ありがとうございます、ライル兄上」

「……勘違いするな。皇太子である俺が、お前と険悪ではないと示すためだ。でないと、ブリューナグ家や下級貴族共がうるさい」

「ブリューナク家はともかく……下級貴族ですか?」

「セレナとか言ったか? あれが絶大な人気があってな」

「ああ、そういうことですか」


 一部の間では、聖女とか言われてるらしい。

 誰にでも分け隔てなく回復魔法を施し、謝礼も断っているとか。

 あの容姿と相まって、人気ということだろう。


「しかし……本人は計算尽くというやつだろう」

「……へぇ? わかるんですね?」


 そう、セレナは見かけほど聖女ではない。

 良い子ではあるが、計算高いところがある。

 きっとそうした方が、後々のためになると思って行動しているのだろう。


「舐めてるのか?」

「いえ、本心からです。人を見る目を養うことは必要ですからね」

「フン……やはり、貴様は好かん」

「それはお互い様ですね」

「おいおい、お前達……まあ、これくらいならいいか。ほら、さっさと座れ。他の連中が緊張で倒れてしまうぞ?」


 ふと周りを見ると……近衛騎士や文官達が固唾を飲んで見守っていた。

 まあ、計算通りだ。

 これで、兄上と険悪ではないことをアピール出来ただろう。

 もちろん、兄上も分かった上で発言をしているはずだ。


「ええ、わかりました」

「はい、父上」

「うむ、両隣に座るといい」


 その言葉に従い、真ん中に父上、左に俺、右にライル兄上と並んで座る。


 まさか、俺が皇族専用席から見ることになるとは……。


 このまま、色々と良くなっていけば良いが……。

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