145話 ターレス視点

 ……失敗したか。


 まあ、良い。


 奴らの強さが知れただけ、良しとしよう。


「レイス、お前の目から見てどうだ?」

「はっ、ターレス様。そうですね……戦闘力は、すでに一流の域かと存じます。あの状態のザガンに勝てるほどですから」

「ふむ。確かに、あの薬を飲んだサガンを倒すのは普通の人間には無理だな」

「ええ、そうですね。もっとも失敗作ですから、自我がなく頭が悪いです。もう少し自我を保ってくれると思いましたが……ほんと、役立たずでしたね」

「ああ、そうだな」


 教皇様から送られてきた薬……正確には血の結晶か。

 アレを飲むことで、

 バケモノの姿になるのは、そいつの器がなかったということだ。

 完全にコントロール出来た者は——


「して、これからのご予定は?」

「特に急ぐことはない。ザガンの父親も息子のせいで大きな動きはできまい」

「あの人は、野心に溢れてますからね」

「ああ、自分が当主になろうと奮闘していたな。だが、私は嫌いではない」

「ターレス様は相変わらずですね。従わせるくせに、従うだけの人間は嫌いですね」

「くく……従う奴ばかりではつまらんではないか」


 レイスの言う通り……。

 分家であるザガン親子が、私の地位を狙っていることには気づいていた。

 しかし、それをあえて放置していた。

 その方が面白いからだ。

 何より、野心のある者は嫌いじゃない。


「ふふ、それもそうですね。では、宰相の座や大臣に関しても関与しないので?」

「ふむ……ザガンの父であるダオスは脱落……ハデス-レイガンは死亡……新たに加わったのは皇帝の手駒か……」

「法務大臣であるグングニル-モーリスは如何します?」

「奴は放っておけ。堅物だし、脅しには屈しまい。誠実で実直といえば聞こえはいいが、言われたことをやるだけのつまらん男だ。宰相になっても、大したことはできまい」


 日和見主義の奴などつまらん。

 あの程度なら、すぐにでも排除できる。


「では、どうなさるので?」

「引き続き、アレス達の様子を見ておけ。何か面白いことになるなら、私に報告しろ」

「御意」

「何もなければ、第二皇子ヘイゼルの成人の儀まで何もすることはない」

「……では、いよいよですか?」

「ああ……それまでに皇帝が何らかの手立てを講じていなければ……アレス達が、私の予想を上回ることをしなければ……」

「畏まりました——ゲームですね?」


 私は、レイスの言葉に静かに頷く。


 そう……これはゲームだ。


 猶予期間は与えてやったぞ?


 ラグナ、アレスよ……タイムリミットは近い。


 フフフ……精々足掻いてみるがいい。

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