144話決着

 ……動く気配、回復する兆しはないか。


 俺はゆっくりと、そいつに近づいていく……。


「ガ……」

「あの魔法をくらって生きているか……とんでもないな」


 おそらく、超級以上の威力があったはず。

 屋敷は半壊し、天井には大きな穴が空いているくらいだ。

 普通の生き物なら、原形すら残らない。


「グガッ……オ、オレハ……」

「……ザガンか?」

「……ソウカ……オレハマケタノカ」

「そうだ。お前は類稀なる才能を持ちながら、それを磨くことを怠った。さらには、それをよくない方向に向けていった……残念だよ」


 こいつの才能は、ガクラにも劣っていない。

 きっと真面目に鍛えていれば、もっと色々な人の言葉に耳を傾けていれば……。

 今頃、強き者になっていたに違いない……中身はともかく。


「ク、クソガ……ナンテザマダ……オマエタチノセイデ、オレノジンセイハダイナシダ」

「それは違う。いくらでも道はあった。それを塞いだのは……他でもないお前自身だ。もし……もし、お前が……まともに生きようとしたならば、俺が拒むことはなかった。共に切磋琢磨し、卒業して……あんなこともあったと笑いあえた未来もあったはず」


 俺とて、最初の頃はそれを願っていた。

 だから、何度も忠告もした……が、それを突っぱねたのは……。


「……クソクラエダ、キサマタチトナド……」

「そうか、それなら仕方ない」

「クク……アマチャンダツタノニ、スイブントカワッタナ……コレガ、スゴシテキタジカンノサトイウヤツカ……」

「そうだな。俺自身も、甘さについては未だに迷っている。だが、それで良いと思っている。迷い続け模索して……生きていくしかない」

「……アァ……」


 徐々に身体が崩れていっている……もう……。


「最後に、何か言い残すことはあるか?」

「オレニクスリヲワタシノハ……ターレス……ダ……コレヲノメバツヨクナレルト……クソォ……サイゴマデ、オレヲリヨウシヤガツテ……」


 その目からは……涙がこぼれ落ちる。

 こいつのしたことは許されることではない。

 しかし、ターレスによって狂わされたのも事実だろう。


「わかった。ターレスは……責任持って俺が殺す。今は無理でも——必ず」

「……キヲツケロ…アノヒトハ、ムカシカラエタイガシレナイ……」

「まさか、お前に心配されるとはな」

「ククク……ァァァァ……」

「ん? どうした?」


 俺は最後の言葉に耳を傾ける……。


「ソウダ………ア、アイツモ……ウラギリモノダツタ」

「……何? それはどういう……ダメか」


 俺が見つめる中……ザガンだったものが塵と化していく……。


 さらばだ……ザガン-ゲイボルグよ。


 それにしても……最後の言葉はどういう意味だったんだ?


 裏切り者か……調べてみる必要があるな。







 その後、事後処理を他の方々に任せ、家にへと帰還する。


「ふぅ……疲れたな……みんなもお疲れさん」

「いえ、まだまだ元気なのだ」

「わたしはヘトヘトですぅ〜」

「私もですねー」


 なんと……さすがはカグラだ。

 ここで、体力馬鹿とか言ってはいけないことは確かだ。


「けど、なんだったのだ? あれ……少し怖かったのだ。強いこともそうですが……何やら、本能が恐れていたというか」

「あっ、実はわたしもです。アレス様がいなければ、腰が抜けちゃうところでした」

「アレー? みんなもですか? 実は、私もなんですよね……こう、潜在的な恐怖……そんな感じでした。身体が震えてきましたけど……御主人の側にいると不思議と収まったような気が……」

「なに? 確かにバケモノではあったが……俺は特に何も感じなかったぞ?」


 なんだ? カグラたちは修羅場をくぐっているし、これまで経験を積んできた。

 奴が強く醜かったとはいえ……恐怖するような相手ではないはず。

 ……俺の側にいると平気だった?

 そして、俺だけが何も感じていない……どうしてだ?

 ……ただの偶然だろうが、何だか気になるな。


「確かに、アレス様は平気そうでしたね。わたしは魔法撃つときも、一瞬遅れてしまいました……」

「確かに戸惑っていたな」

「ごめんなさい……」


 落ち込むセレナの頭に、優しくポンポンする。


「ふえっ!?」

「気にするな。サイクロンといい、俺に魔法を合わせたこと……そのどれもが、セレナでなければ出来ないことだ。それに、みんなを指揮するのがリーダーである俺の役目だ。何より、俺がいることで安心出来るなら……頼ってくれ」

「は、はぃ……」


 セレナが顔を真っ赤にして俯く……うん、可愛い。

 ある意味で、普通の一番女の子らしいからなぁ。


「ずるいのだっ!」

「ずるいですよ〜!」

「い、良いじゃないですか! わたしのターンです!」


 何やら、三人で言い争いを始める。


「おいおい、落ち着けって……」

「大体、セレナはあざといのだっ!」

「そうですよー! 腹黒のくせに!」

「あぁー! 言いましたね! それをいうなら……」


 ……だめだ、聞いちゃいない。


 はぁ……自業自得なのはわかっているが……。


 ハーレムってやつも大変だなぁ……。


 ……ほんと、結衣に会わす顔がない。



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