143話 異形との戦い

 アレはなんだ?


 異形としか言いようがない姿は……。


 全身が黒く染まり、二メートルを超える体躯を持つ。


 長い手足と爪、何やら尻尾のようなものまである。


 目はなく、大きい口は裂け、よだれが出ていた。


「あ、主人殿……なんなのだ?」

「み、見たことないです」

「私も知りませんね〜……人間がバケモノになるなんて」

「わからん……が、倒すしかあるまい」


 おそらく、弱いということはありえない。

 だが……負けるわけにはいかない!


「主人様!」

「サスケ殿たちはみんなを連れて避難を! そして周辺の人払いをお願いします!」

「畏まりました! ご武運を!」


 そして、手際よく連れて行ってくれた。

 よし、これで人質のことは気にしないで良い。



「アレス様! 動きます!」

「グキァァアァ——!!」

「「「っ〜!!」」」

「チッ! 耳鳴りがする!」


 甲高い声が俺たちの耳を襲う!


「グァァァ!」

「く、くるのだ!」


 その隙をついて、奴が迫ってくる!


「フレイムランス!」

「ウ、ウインドアロー!」


 俺は咄嗟に炎の槍を、少し遅れてセレナが風の矢を放つ!


「グギャァァァ!」

「何!? 叫び声で魔法をかき消した!?」


 どんな声だよ!? あの声には、魔力があるとでも!?


「でも、一瞬だけ止まったのだ! 拙者が参ります!」


 態勢を立て直したカグラが駆け出していく!


「私が援護しますねー!」

「任せた! セレナ! 俺たちは奴を倒せるだけの魔力を練る! 生半可な魔法は奴には効かなそうだ!」

「はいっ! わかりました!」


 そして……すぐに激戦が始まる。


「ヤァァ!」

「ゴァァァァ!」


 大剣と爪が激突し、轟音が鳴り響く。


「グカァ!」

「やらせません!」


 バケモノが尻尾でカグラを狙うが、それをアスナが小太刀で的確に弾いていく。

 少し焦っていたが……これなら心配なさそうだ。


「ふっ……良い連携だ」

「そうですね。大きい動きのカグラちゃんを、小さい動きのアスナちゃんが上手くフォローしてます。まあ、二人で訓練もしてたみたいですよ?」


 どうやら、俺の知らないところで上手くやってるようだな。


 俺は眼前の光景から目を逸らさず、魔力を高めていく……。




 ◇



 不謹慎にも、拙者の心は踊っていた。


 主人殿が……愛しき彼の方が、拙者を頼ってくれたのだ。


 強敵を前にしても、自分が前に出ず……拙者に任せると。


 拙者を大事に思ってくれること、それでも拙者の心を汲んでくれること……。


「これで燃えない方がおかしい!」

「グァァァ!?」


 迫り来る爪を、力を込めた大剣で叩き折る!

 その隙をついて、奴が尻尾を繰り出すが……。


「危ないですって!」


 後ろにいるアスナが、的確に弾いてくれる。


「お主がいるから平気なのだっ!」

「おや〜、ということは御主人様の愛人として認めてくれます?」

「それとこれとは——話が別なのだっ!」


 軽口を叩きつつも、それぞれが補うように戦う。

 悔しいが……物凄く戦いやすい。

 多分、戦い方が主人殿に近いからだろう。


「え〜! 仕方ない——役に立つとしますかね!」

「グァァァ!?」


 腰を深く落とした一閃により……尻尾を切断した!


「ハァァァァ!」

「グカァ!?」


 その隙をついて、胴体に大剣を叩き込む!

 バケモノが轟音を立てて、壁に激突する。

 そして……瓦礫の山に埋もれた。


「ふっ、主人の手を煩わすまでもない」

「どうです?」

「……悔しいが、主人殿にお主は必要だ」


 主人殿に近い戦い方、同じような武器……。

 これで臨機応変な対応ができ、こういう時に主人殿は魔法に専念できる。


「あれー?」

「仕事も出来るし、拙者と違い気配りもできる。お主が本気で主人に仕えるというのなら……背中を預ける友にはなれる」

「カグラさん……えへへ〜」

「こ、こらっ! 抱きつくな!」

「平気ですよ! あいつは……あれ?」


 急に声色が変わり、アスナが臨戦態勢に入る。


「どうし……何?」


 瓦礫の山が揺れ……。


「グァァァ!」

「生きていたか……待て、拙者とお主がつけた傷が……」

「消えてますね〜」


 やれやれ……まだ力が足りないか。


「仕方ない。主人殿とセレナの魔法が完成するまで時間を稼ぐぞ」

「そうですね、やりますか〜」


 今はまだ弱い……でも、必ず——もっと強くなってみせる!




 ◇



 あのまま、カグラが倒してしまうかと思ったが……。


「セレナ」

「わかってます。再生が出来ないほどの威力ですね?」

「ああ、今の俺達が放てる最大の魔法をぶつけるぞ」

「はいっ!」


 奴の再生を見て、改めて魔力を高めていく。


「……いけるか?」

「……はい」

「よし……すまないが、俺と魔力を合わせてくれ」

「はいっ!」


 魔力の扱いが上手いセレナが、俺に合わせてくれる。


「カグラ! アスナ! もう少し時間を稼いでくれ!」

「承知!」

「あいさー!」


 二人が、再びバケモノを攻め立てる!


「ガァァァ!!」

「行かせるか!」

「邪魔はさせません!」


 本能で危険を感じたのか、俺達の方に向かってくるが……。

 それを、二人が防いでくれる。


「アレス様……いけます!」

「よし! 二人とも……やれやれ、頼りになる奴らだ」


 俺が言う前に、二人は下がっていた。

 しかも、バケモノを吹き飛ばした後で。


「 我が炎よ! 敵を焼き尽くせ!」

「風よ! 敵を切り刻め!」

「「ファイアーストーム!!」

「グキャァァ!?」


 バケモノが炎に焼かれ、風に切り刻まれ……。


「ガァ……ガ……ァァァァ……」


 再生が追いつかず……真っ黒になり地に伏せた。


 


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