青年期~後編~

140話 嵐の前の静けさ

 あれから、三ヶ月ほどが経ち……。


 俺も表の仕事と、裏の仕事にも慣れてきた。


 昼間は魔物退治、夜は貴族達の悪事を暴く生活だ。


 そんな日々を過ごす中……俺は十四歳の誕生日を迎える。






 その日は我が家に皆が集まり、盛大なお祝いをしてくれる。


『おめでとうございます!』

「みんな……ありがとう」


 皆の声に、少し照れながら答える。

 その後、皆が気を使い……母上と二人きりでソファーに座る。

 少し気恥ずかしいが……これも、大事な時間だ。

 親孝行なんて、生きてるうちにしかできないのだから。


「ふふ、去年は祝えなかったから。もう十四歳か……大きくなったわね。また、身長も伸びて……若い頃のラグナに似てきたわ」

「そうですか? 俺としては、母上に似ていると思うのですが」


 確かに身長は伸びて、百七十センチを超えてきた。

 体格や背格好だけで言えば、もう大人と変わりはなくなってきている。

 でも顔は、まだ少し幼い気がするし……少し女顔なのが実は嬉しい。

 なにせ、前世ではゴツイタイプの男だったからなぁ。


「うーん……雰囲気かしら? ふと見せる表情とか、仕草とか」

「なるほど……そういうものですか」

「その……頭を撫でてもいいかしら?」

「え、ええ……どうぞ」

「ふふ。ごめんなさいね。もう嫌でしょうけど……」


 俺を撫でながら、そんなことを言うが……答え辛い質問だ。

 嫌というわけではないが、やはり気恥ずかしいものだ。

 でも……悪い気はしない。


「い、いえ……」

「今日だけは許してね、アレス。貴方が生まれた日だもの……立派になって」

「母上、泣かないでくださいよ。まだ成人もしていないですから」

「そ、そうよね……やだわ、歳をとると涙もろくなって」

「大丈夫です、まだまだ若くてお綺麗ですから」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」


 母上は三十歳半ばになっているが、実際には二十代後半にしか見えない。

 と言うか、俺が生まれた頃からあんまり変わってないかもしれない。


「いえ、実際にお変わりないですからね」

「もう! その手口で三人もお嫁さんを連れてきたのね!」

「手口って……と言うか、アスナは別に……」

「ダメよ、アレス。あんなに、貴方に尽くしてあげてるんだから。それに、あの子達一家のおかけで、私たちは安心して生活ができるようになったわ。それに、私にしっかりと挨拶もしてくれたし」


 ……何という手口だ。

 どっちかというと、あいつが恐ろしい。

 そして……噂をすれば何とやらだ。


「呼びましたか!?」

「呼んでない」

「ひどい!?」

「あらあら、仲良いわね」

「えへへ〜、お義母さん!ありがとうございます!」

「おい?」


 俺はともかく……後ろの二人が。


「アスナさん?」

「拙者達だって、邪魔をしないように我慢してたのに!」

「戦略的撤退です!」

「待つのだ!」

「ふふ……ちょっと、お話しましょうね?」


 そう言い、逃げるアスナを追いかけていく。


「ほんと……良い子達ね」

「まあ……俺には勿体ないくらいの女性達ですね」


 皆、俺の裏の仕事を手伝ってくれている。

 決して、誰からも賞賛されない仕事だ。

 何より、危険を伴う。

 もしバレたなら……他の貴族達が狙ってくるに違いない。

 そういえば……ターレスが動かないのが不気味なところだ。


「あら、そんなことないわよ。貴方は、自慢の息子よ。家族思いで仲間思いで……優しい子に育ってくれたわ」

「そ、そうですか……」


 すると……天使がやってくる。

 どうやら、アスナ達を見て我慢の限界を超えたらしい。


「お話終わった!?」


 エリカがそう言い、ソファーに座る俺の膝に乗ってくる。


「いや、どうだろう?」

「ふふ、平気よ。ありがとね、エリカ。お兄ちゃんを独占させてくれて」

「ふふ〜ん! 私は偉いもん!」

「そうだな、偉いぞ」


 そう言い、頭を撫でてあげる。


「えへへ〜、パパに似てきたね!」

「そうか?」

「うん! あったかくておっきな手をしてるの!」

「なるほど……そうか」


 俺は、さっきからずっと気になってることがあるが……。

 うむ……この場合は、どうすればいいか。


「……ほら! レナお姉ちゃんも!」

「ふえっ!?」


 そう……レナが、さっきからずっと俺を見ている。

 ただ、その理由がわからない。


「お兄ちゃんの膝に乗るの!」

「し、しかし……」


 視線を泳がして、オロオロしている。

 なるほど……そういうことか。

 ロナードの代わりを務めなくてはな。


「レナ、おいで」

「うぅ……し、失礼するのじゃ」


 恐る恐る近づいてきて……俺の左膝に乗る。


「し、師匠! お、重くないですか?」

「ああ、平気さ」

「ふふ〜、お兄ちゃんがおっきくなったからできるね!」

「エリカちゃん……ありがとう」

「ううん! 友達だもん!」


 その姿を見て……母上と微笑み合う。


 言わなくともわかる。


 きっと……自分の気持ちより、人の気持ちを考える子になってくれたことが嬉しいと。







 その日の夜……俺は気配を感じ、静かに家を出る。


「サスケ殿」

「さすがはアレス様。すっかり、気づかれるようになってしまいましたな」

「全く……貴方が、いつも気配を消して近づくからですよ」


 そのおかげで、こちらも鍛錬になるから良いけど。


「アレス様は、暗殺者としても一流になれましたな」

「一応、褒め言葉として受け取っておくよ……それで?」

「とある情報を得ました——実は……」


 その内容を聞き……。


「そうか……ご苦労だった」

「いえ。しかし……罠の可能性も」

「それならそれで良い。罠があるとわかっているなら……それごと粉砕するまでだ」

「御意。では、私は準備に入ります」

「ああ、よろしく頼む」


 サスケ殿が去った後、満月を空を見上げ……。


「静かな夜だ」


 だが……そろそろ、終わりにしようか。




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