幕間~オルガ~

 アレス様は、お元気だろうか?


 あれから、一年以上が過ぎてしまったが……。


「オルガ君?」

「カエラさん」

「どうしたの?」


 今では、すっかり口調も砕けて……。

 うちの両親とも、上手く付き合ってくれている。

 それが嬉しくもあり、むず痒くもあるかな。


「いや、アレス様のことを考えていたのです」

「そっか……アレス様、成長してるんだろうなぁ」


 ……ダメだな、僕は。

 いまだに、少しだけ嫉妬心が残っている。

 カエラさんと付き合えたのは、アレス様のおかげだっていうのに……。


「ええ、そうですね」

「あっ——前も言ったけど、アレス様は弟というか……」

「はい、わかってますよ」

「ちゃんと、オルガ君のこと……好きだからね?」

「は、はい!」


 本当にダメだなぁ……見抜かれてる。


 俺にとってアレス様は……恩人であり、尊敬に値する人であるが……。


 少し、複雑な感情を抱いてしまう方でもある。


 そう……出会った頃から、今日までずっと……。





 ◇



 ……はぁ、いよいよ学校かぁ。


 父上の命令により、故郷から遠くにきたけど……。


 こんなところで、友達なんかできるかな?


 僕はしがない男爵家の者だし……もちろん、僕自身は誇りに思っている。


 でも、周りからは色々と言われてることは知ってる。


 貧乏くじを引かされたやら、男爵の分際で辺境を治めてるとか……。


「父上だって、好きで治めてるわけじゃないのに」


 もちろん、領主としての仕事を誇りに思っているけど。

 誰もやりたがらないから、男爵である父上がトップにいるだけだ。

 それなのに……好き勝手いう人たちがいる。


「皇都にいる貴族や、高位貴族たちだよね」


 僕が子供だと思って、理解してないと思っているのか……。

 こっちに来ると、みんなが色々と言ってくる。


「はぁ……そんな人達がいる学校で上手くやれるかなぁ?」


 そんな不安を抱えつつ……僕は学校に向かう。






 結果から言うと……僕の考えは杞憂だった。


 確かに平民や下位貴族を見下す者もいた。


 でも、それ以上に……そうでない人もいた。


 それが、アレス様やカグラさんだ。


 二人共、僕なんかより偉いのに……僕を見下したことなんかない。


 それに、平民のセレナさんと普通に接している。


 そして、僕のことを友達だと思ってるって……嬉しかった。


 父上の言う通りだった。


 きっと、その中には良い人もいると……。


 僕は期待してなかった場所で、大切な三人の友達が出来たんだ。








 そんな楽しい日々を過ごす中……僕は父上に送る手紙に、日々の内容を書いていく。


「セレナさんは平民だけど、すごい才能の持ち主です。魔法を二種類使いこなすし、地頭だって良いんです。カグラさんも凄いです。剣の腕前も一流で、身体強化の魔法なんか群を抜いています。特にアレス様は、とてつもないです。舞うような剣技、多様な火属性魔法の数々。それでいて、驕ることなく研鑽を積んでおります」


 ……それなのに、僕は弱いままだ。

 みんな、僕を置いてどんどん先に行ってしまう。

 このままじゃ、僕は足手まといになる。

 大切な友達の足枷になんかなりたくない。


「強くならなきゃ……こんな僕を、対等な友人だと認めてくれる人達のために」







 そんな僕の気持ちとは裏腹に……差は開いていく。


 セレナさんには近づけずに、魔法で狙い撃ちにされ……。


 カグラさんには、パワーで押し切られ……。


 アレス様には、素早い剣技と隙を突く魔法で翻弄される。


 僕だけが、模擬戦で勝つことが出来ない。





 そんな時は笑顔で誤魔化して……一人、帰り道を歩くのが決まりだ。


「どうして? 僕だけが……」


 あんなに毎日鍛錬してるのに……。

 それも、槍を一筋……他の三人は、二つの得意なことを極めようとしている。


「でも、僕は器用じゃないし……そんな才能もない」


 でも……このままで、良いんだろうか?






 そして、決定的な出来事が起きる。


 あれから僕は、寝る間も惜しんで稽古に明け暮れた。


 もう、これ以上は無理というくらいに。


 それでも……卒業試験で、負けてしまった。


 でも……アレス様は、そんな僕を馬鹿にしたりしなかった。


 僕の頑張りを知ってくれていて……認めていると。


 さらには、カイゼル様に稽古をつけてもらえるように頼んだと。


「僕は馬鹿だ……」


 カエラさんに勝手に一目惚れして……。


 仲のいいアレス様に、嫉妬心を抱いていたのに……。


 ましてや、どうして僕だけがなんて……暗い感情を持っていたのに。


「でも……決めた——もう迷わない」


 あの方のために、僕の全てを賭けよう。


 友と言ってくれるアレス様のために。


 カエラさんの大事な人であるアレス様のために。


 何より……僕にとって大切な方であるアレス様のために。





 ◇




 ……そうだ、その思いだけは変わっていない。


未だに、嫉妬心がないとは言えないけどね。


でも、必ずや追いついてみせる。


「オルガ君……そろそろ、刀できるかな?」

「ええ、多分出来ますよ」

「これで、アレス様の力になれるね。私も、何も返してあげてないから。アレス様は、私を家族だと……姉だと言ってくれた方ですから」

「僕もですよ。大恩あるアレス様に、何も返していません。ですが……これからは違います。あの方が何かを成すのなら……この身を捧げる覚悟です」


 アレス様、待っていてください。


 必ずや、あなたの力になりに……馳せ参ずることをお約束いたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る