137話 決着したが……

その姿を確認した時、奴が剣を一度ひいた。


なので、俺も視線で二人を制し……。


少しの間、様子を伺うことにする。



「ロレンソ……何しにきた? いや、どうやって? お前は、部屋に閉じ込めていたはず」

「そんなことはどうでも良いのです! もうおやめください! これ以上、ハデス家の名を汚すのは!」

「ふざけるな! 元はと言えば、貴様のせいだろうが! 魔法の才能があるから目をかけてやったというのに……アレス皇子ならまだしも、平民の女に負けるなど……おかげで、わしがどれだけ苦労したか。お前を宮廷魔導師に入れるのに、いくら金を使ったと思う?」

「お、俺がいつ頼んだのですか!?」


ふむ……コネで入ったとは思っていたが、それはロレンソの意思ではなかったのか。


「そんなことは関係ない。お前は、わしの役に立つ義務がある。それが息子という物だ。上の皇子達や、ヒルダ皇女に近づけと命令したのに……それすらも、満足に出来ないとは思わなかったが」

「っ……! お、俺は、そんなことのために……!」

「お前の意思は関係ないと言っただろう。宮廷魔導師に入れれば、少しはマシになるかと思っていたが……セレナという平民にすら、負け続ける日々」

「だ、だから言ったんだ! 俺には無理だって! それを、貴方が無理矢理!」


そういう流れか……。

ゲイボルグ家に取り入るため、ザガンの取り巻きになり……。

いずれ、ヒルダ姉さんやライル兄上に近づこうと……。

それが無理になったから、今度は宮廷魔導師として出世の道具にしようとしたと。


「ふん、親の言うことを聞くのは当たり前だろう。出来損ないの息子を持つと、親は苦労するものだ。そもそもだ……お前がしっかりしていれば、わしだって……こんな手を使わずに済んだというのに」

「だ、だからといって! 罪もない女性達を捕まえて、他の貴族に売ることはないでしょう!? その見返りとして金を集めて……たとえ、大臣になれたとしても」


見えてきたな……。

ゲイボルグ家についていたが、このままでは上に行けないと思い……。

見切りをつけ、他の貴族達を味方につけて大臣になった。

そのための人攫いであり……これから宰相になるために続けているということか。

……怒りで、身体が燃えそうだ。


「偉そうな口を利くな! お前は黙って、わしの言うことを聞いていれば良い! それに逆らうから、酷い目に合うことを忘れたのか!?」

「お、俺は貴方の道具ではない! もう嫌なんだ! 偽って生きるのは!」


ロレンソ……そうか、そうだったのか。

お前自身は変わろうとしていたが……環境が許さなかったのか。

そして、俺は……そのことに気づけなかった。


「いいや、お前は道具だ。しかし、もう役に立たない屑だかな」

「なっ——!?」

「もう良い、お前も死ね。最後に父の役に立たせてやろう。人攫いのアジトに潜入して、首謀者を捕らえたが……そこで、名誉の死を遂げたとしよう」


奴が、再び剣を構える。

その瞬間、俺は二人に目線を送り……怒りを解放する。


「クズは、貴様だ。子供は、親の道具などではない」

「なっ——!? だ、誰だ!? あ、熱い!?」


俺の体から、溢れんばかりの炎が舞い上がる。

まるで、俺の怒りに呼応しているかのように……。


「へっ? そ、その声、その炎は……くっ!?」

「ロレンソ、すまない。だが、今は大人しくしてくれ」


アスナがロレンソを、気絶しているブライ伯爵をサスケ殿が拘束する。


「炎……ア、アレス皇子か!?」


俺は仮面を外し……。


「ああ、そうだ」

「い、いつから!?」

「そんなことはどうでも良い。話は全て聞いていた。もう、言い逃れは出来ないぞ? 仮にも、皇族の前で発言したのだからな」

「ち、近寄るなァァァ! あ、アツィィ!?」


舞い踊る火の粉が、奴に降り注ぐ。


「お前は——楽には死なせないから覚悟しろ」

「ひぃ!? ち、違うのです! 息子とブライ伯爵に嵌められたのです!」

「屑め……息子をなんだと思ってやがる……!」

「ァァァ! 熱いィィ!?」


奴の顔面を鷲掴みすると……。


「御主人様!」

「主人!」


二人の声で我に返り……手を離す。


「アァァァ! わしの顔がァァァ! ロレンソ! 早く治せェェェェ——!」

「都合のいい時だけ、息子頼りか……」


心底、救えない奴だ。

……子供は親を選べないとは言うが……これでは、あまりにも……。


「ロレンソォォ!!」

「ち、父上……」

「ロレンソ、耳を貸す必要はない」

「なぜだァァァ! 衛兵は何をしている!?」

「衛兵は来ない。何故なら……」


扉が開かれ……二人がやってくる。


「主人殿! 制圧できたのだ!」

「こっちもです! 証拠もありました! 地下には女の子達も!」

「そうか、ご苦労だった。セレナ、すまないがこいつの傷を癒してくれ」

「は、はい……ヒール」


ハデス伯爵の火傷が癒えていく……。

ロレンソにやらせるのは、流石に可哀想だ。


「さて、見下してきた平民に救われた気分はどうだ?」

「くっ!? で、出来損ないの分際で! わ、わしに手を出したら、ターレス殿が黙っていないぞ!?」

「ほう? 良い名前を聞いたな。さあ、お前には色々と吐いてもらわないといけない」

「ち、近づくなアァァァ!」

「今すぐには殺さない——眠っておけ」

「カッ……」


手刀を叩き込み、気絶させる。


ロレンソとブライ伯爵も、同じように……。


これにて、ひとまず解決したが……。


俺の心は、晴れやかとは程遠いものだった……。

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