136話 追跡

 次の日の夜……。


 俺は単身で闇に紛れ……とある屋敷の前で待機していた。


 今回は素早い動きが必要になるので、三人には待機してもらった。


 もちろん、すぐに動けるように手配はしてあるが……。


 何より、すでに犯人の名前はわかっている。


 俺は待っている間に、父上との話を思い出しておく……。



 ◇



 翌朝、父上の私室に呼ばれ……。


「父上、お疲れ様です」

「アレスこそ、ご苦労だったな」

「それで、どうですか?」

「ああ、知っていることはサスケが吐かせた」


 できれば、俺も見たかったが……父上とサスケが許してくれなかった。

 それだけは、皇族にやらせるわけにはいかないと。

 俺としては甘い気もするし、その気持ちが嬉しくもあり……複雑である。


「それで……やはり?」

「ああ、ブライ伯爵で間違いない。そして、後ろには……ハデス伯爵がいる」


 ハデス伯爵……ロレンソの父親か。

 あいつも、絡んでいるのか?


「では、確実な証拠がないと捕らえられませんよね?」


 前の世界でもそうだったが……やはり、証拠がないと厳しいらしい。

 まあ、他人の証言だけで逮捕してたら何でもありになってしまうし。


「ああ、そうだ。そして、あの頭領はそこそこの情報を持っていた。というより、情報の照らし合わせと言ったところだ。これで、信憑性が増した」


 俺たちの仕事は人質救出と、敵の殲滅がメインだった。

 その他の調べ物や雑事は、サスケ殿が受け持ってくれる。

 今回の廃墟だって、サスケ殿が探し当ててくれたし。

 いやはや、心強い人が仲間になってくれたよ。


「まあ、いきなり捕まえるわけにはいかないですしね」

「それは仕方あるまい。それで、お前にはブライ伯爵の後をつけてほしい」

「なるほど……子飼いの賊が捕まったので、慌てて動き出すと?」

「ああ、そうだ。そいつの後を追って欲しい。もちろん、犯人の目星は付いているが……確実な証拠が必要だ。そのためには、皇族であるお前の証言が必要だ」


 出来損ないとはいえ……皇族の俺が証拠を掴んだら、流石に言い逃れはできないからな。

 闇魔法といい、どう考えても……俺が適任だろう。


「わかりました。その任務……遂行しましょう」


 そう言うと、父上が頭を下げ……。


「すまぬ……」

「父……

「っ!!」

「この任務、私が適任かと存じます」

「……アレスよ、余の命令だ。無事に任務を終えて帰ってくるのだ」

「はっ! 必ずや!」


 俺は膝をつき、臣下の立場をとる。


 汚れ仕事をやらせたくない気持ちは嬉しい。


 その気持ちさえあれば……俺は平気ですから。


 何より、もう——覚悟はできてる。





 ◇



 すると……だれかの気配がする。


「は、早く行かないと……!」


 ブライ伯爵本人が、慌てて屋敷から出て来て……。


「わ、私は、このままでは破滅だ……!」


 ブツブツ言いながら、馬車に乗り込む。


 どうやら、子飼いの賊が捕まったことを知ったらしい、

 まあ……奴にだけ、こちらから情報を流したんだけどな。

 そうすれば、ある程度行動を操る事ができる。






 その馬車についていくと……。


 とある建物の前で止まっていた。


「あの建物は……やはり、奴の別荘か」

「主人様」

「サスケ殿」


 いつのまにか、横にサスケ殿が横にいた。

 相変わらず、凄腕の忍びみたいな人だ。


「ご主人様〜」

「アスナもきたか」

「では、この三人でまいりましょう。私について来てください」


 二人も闇のマントで包み、木の上を登り、屋根を伝って……


 高い位置にある窓に到着する。


「すでに、ここを開けるように指示しております」

「なるほど、何から何まで感謝する」

「い、いえ……容易いことです」

「ふふ、父上が照れてますね」

「無駄口を叩くな……行きますよ」


 そして、空いてる窓から潜入する。





 そこから、サスケ殿の指示で動き……。


 とある部屋の前に到着する。


「な、何しに来た!?」

「な、何って……子飼いの賊が捕まったと! 私はどうしたら!?」


 その部屋から、声が聞こえてくる。

 どうやら、二人とも興奮しているようだ。

 俺たちは気づかれぬように、ドアの隙間から部屋に侵入する。


「し、知らん! 私は知らん! 私には関係ない!」

「そ、そんな! 貴方が指示したことじゃないですか! それに何かあっても、大臣の力でもみ消すと……そして、いつか宰相になったら、私を大臣に任命してくれると!」


 なるほど、見えてきたな……。

 同じ階級なのに、変だと思っていたが……。

 ハデス伯爵が、大臣のポストを餌に操っていたわけか。


「そ、それは……ええい! いいから帰れ! このままでは、私まで疑われてしまう!」

「そ、そんな! 見捨てるのですか!?」

「ふふ、運が悪かったな。お前さえいなければ、私のことがバレることはない」

「な、何を?」

「いや、むしろ来てくれて助かったよ。ここで始末さえすれば……そして私が、一連の事件の犯人として——皇帝陛下に、貴様を差し出せばいい。そうすれば、宰相へ道が……クク」


 そう言って、剣を抜く。


「ヒィ!? や、やめてくれ!」

「すぐに楽にしてやる」


 もう十分だと思い、俺達が動き出そうとすると……。


「待ってください!」


 扉を開けて、誰が入ってくる。


 それは……全身痣だらけの、ロレンソの姿だった。

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