135話 結末

 アレス様とカグラちゃん、平気かなぁ。


 いや、私だけ二人きりになれないとか嫉妬してるわけじゃなくて……。


 少しは思うけど……まあ、戦闘の相性があるから仕方ないよね。


「はい、これで平気ですよ」

「あ、ありがとうございます!」

「回復魔法をかけて頂けるなんて……」

「ですが、私達には返せるものが……」


 仕事をするようになって気づいたけど……。

 全身の傷を癒せるほどの使い手は限られています。

 教会の光もどき魔法使い達は、多額のお金を要求するみたいですし。

 なので、彼女たちが恐縮するもの仕方ないよね。


「いえ、お代は結構ですから。そして、ここであったことは忘れてください。それが、貴女達のためですから」

「「「は、はい……」」」


 これで良しと……正体を知られたら困るもんね。

 アレス様の評判をあげて欲しいけど、まだ周りに知られるわけにはいかない。

 もっと力をつけて、押し返せるくらいになったら……攻勢に出れば良いもん。


「セレスさん、足音が聞こえてきましたよー」

「そっか……じゃあ、わたしの出番だね」

「私はどうしますかー?」

「女性の方達をお願いします。こっちを見ないようにしてください——少し酷いことになるので」

「ふふ、その顔良いですね〜」


 うーん……やっぱり、この子はやり辛いなぁ。


「どんな顔ですか?」

「いつものポワンとした顔じゃなくて、鋭い目つきと殺す覚悟……ふふ、貴女とは色々な意味で仲良くできそうですねー。お互い、腹に一物抱えてますし」


 そうなんですよね……わたしは、自分が腹黒いことを自覚してます。

 でも、それを表に出すことはありません。

 この子は、あえて出していくタイプなんですよね。


「わたしは、貴女がアレス様の役に立つなら良いです。もし裏切ったり、足を引っ張ると思ったら……覚悟してくださいね?」


 これはわたしの仕事だ。

 本当の意味で優しくて、真っ直ぐなカグラちゃんには任せられない。

 アレス様も、ああ見えて甘いところがあるし……そんなところが好きなんですけどね。


「あらら〜……怖いですね。やっぱり、貴女が手強そうですねー」


 その言葉には返事せずに、精神を集中させます。

 何故なら、わたしにも気配が……。


「はぁ! はぁ! 出口だ!」

「お、おい! 誰かいるぞ!?」

「同じ仮面をつけた奴らだ!」


 洞窟から、まとめて出てきたところを……。


「ウインドプレッシャー!」

「「「ギァァァアァァァ——」」」


 真上から風の圧力で押し潰します。

 残ったのは……四肢を折られた死体のみ。


「うわぁ……私、気をつけないと」

「こんな酷いことしませんよ! ちょっと、脅すだけです!」


 すると……。


「おっ、終わってるな」

「むむっ……相変わらず、とんでもない魔法なのだ」

「二人とも!」


 わたしが、近づいていくと……。


「セレナ、良くやってくれた……平気か?」


 そう言って、わたしを気遣う視線をくれます。

 人を殺したりするのは辛いけど……これさえあれば平気です。

 だってわたしは……そのために強くなったんだから。




 ◇




 ……やれやれ、すっかり成長して。


 人を殺して平然としているのが、成長というわけではない。


 痛みを堪えてても、実行できることが成長だということだ。


 自分の中で折り合いをつけ、精神状態を維持する。


 カイゼルも言っていたが、それが出来ない者はいずれ歪んでいくと。


 だから快楽に逃げてもいけないし、溺れてもいけない。


 常に自分というモノを持って、それに臨まないといけない。



「さて……後は俺の仕事だな」


 洞窟の中の敵同様、炎で燃やすつくす。


「ひ、ひぃ!?」

「お前も、こうなりたくないなら大人しくしてるんだな」

「わ、わかっだ! 知ってることは全部はなすがら!」


 鼻水を垂らしながら、ガストンという賊が必死の表情をする。

 まあ、これなら吐かせるのは楽だな。


「主人殿、こっからどうするのだ?」

「二手に分かれよう。カグラとセレナは女性達を城まで送り届けてくれ、俺はアスナの父親に会わないといけない」


 そいつを、猿ぐつわと目隠しをして……その場を去る。






 そして……指定の場所へと移動する。


「主人殿、ご苦労様です」

「サスケ殿、そちらこそ」


 そこでは、黒装束をまとったサスケ-ルーンが待っていた。


「後は我々にお任せください」

「ああ、そうさせてもらうよ。こういうのは、プロに任せた方が良いし」

「ええ、そのために研鑽を積んで参りましたから。ところで……我が娘のアスナは役に立ってますかな?」


 後ろでアスナがビクッとしたのが気配でわかる。

 この二人も、関係が複雑みたいだね。


「ええ、もちろんです。俺がいなくとも、きっちり仕事をしてくれましたよ」

「そうですか……それならば良かった。アスナ、しっかりお仕えしろ。国の腐敗を取り除くという、真っ当な仕事ができることを自覚してな」

「は、はい!」

「うむ、それでは——失礼いたします」


 そして、ガストンを軽く担いで……闇に消えていく。


 こうして……俺の初仕事が終わりを迎えた。


 さて……引き続き、始末屋稼業といこうか。



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