134話 洞窟内にて
その後、アスナに頼んで他に人質がいないか確認する。
「これで全部だそうです。ここにいない人は……そういうことですね」
「チッ、下衆どもめ……」
俺が、もっと早く覚悟を決めていたら……己の不甲斐なさに腹がたつ……!
「ひぃ!?」
「きゃっ!?」
「御主人様、抑えてください。人が来ちゃいますから」
どうやら、殺気がもれてしまったらしい。
本当に……まだまだ未熟だな。
「すまなかった。さて、人質はこれで全部なら……アスナ、予定変更だ。お前はこの子達を連れて、洞窟から出てくれ。そして、こっちにカグラを送ってくれ」
「了解でーす。この子達を守ってれば良いんですねー?」
「ああ、男の俺はいない方が良い。洞窟の入り口にセレナを置けば……何人たりとも、脱出することは出来ないだろう」
( 今のセレナなら、安心して任せることができる。
できることなら、俺が全てやりたいが……。
何でもかんでも、一人で出来るなど傲慢だ。
人質を連れたアスナを見送ったあと……。
俺はきた通路を戻り、敵が来ないか見張りをする。
「主人殿」
「きたか。カグラ、思ったより数が多い。君の力を貸してくれ。幸い、この先の広場は広い空間になっている」
「拙者にお任せを……!」
「ああ、頼りにしてる——成果を見せてもらうぞ」
「っ〜!」
歓喜の声を抑えつつ、力強く頷いた。
へぇ……単純なことだけど、随分とコントロール出来るようになってきたな。
以前のカグラなら、この状況でも声を上げてたかも。
カグラと共に闇のマントを纏い、賊共を確認しつつ広場の奥に向かう。
やはり、数が多い……軽く五十人はいる。
やはり、後ろにいるのは伯爵クラスか……。
名前はわかっているが、確実な証拠と証言が欲しいところだ。
「がははっ! うめぇ!」
「お頭! 女に手を出して良いっすか!?」
「ばかやろ! あれは売りもんだ! そんなことしたら、伯爵の野郎に殺されちまう!」
「そ、そうっすね!」
広場の中央にいるのがお頭か……伯爵の名前も出たし、あいつがターゲットだ。
しかし警戒心が強いのか、奴は周りをぐるっと手下で囲んでいる。
……先手必勝だな。
この洞窟内では炎の魔法は使えない。
空気はもちろんのこと、崩れてもしたら大変だ。
俺はカグラと目を合わせ……。
「ハァァァァ——!!」
「ヤァァァ——!」
闇のマントを解除し、二人で特攻をかける!
「ギァァァ!?」
「ひい!?」
「な、なんダァ!?」
二人で並んで剣を振るう!
こんな状況だというのに、懐かしさを感じている。
示し合わせなくとも、それぞれ背中合わせになって、敵を始末していく。
「アハハッ! 拙者は、これを待ってたのだ!」
「血に酔うなよ……と言いたいところだが、気持ちはわかる」
カグラが隣にいる、この安心感……これはアスナでは感じられないものだ。
「ど、どうしてここに!?」
「いつのまに!?」
「静まれい! 敵は二人だ!囲んでやっちまえ!」
どうやら、お頭と呼ばれるだけはあるようだ。
敵が一気に落ち着いていく……が、問題ない。
「や、やろう!」
「わ、若い娘と小僧だ! やっちまえ!」
「ヘヘッ! 良い体してんじゃねえか」
ならず者が、一斉に襲いかかるが……。
「なっ!?」
「剣を素手で!?」
「剣が通らないだと!?」
「痴れ者どもガァァァ!」
肉体強化した腕で剣を止め、その膂力でもって——三人まとめて粉砕する。
相変わらずの馬鹿力だな……そして、頑丈さだ。
本人には言えないけど……。
意外と、乙女の部分があるからなぁ……それが魅力でもあるけどね。
「何をぼさっとしてやがる!」
「してないさ——」
「がはっ!?」
「は、はえぇ!」
刀を一閃し……俺は迫り来る敵を、確実に一体一体仕留める。
カグラが大剣を振るえば人が飛び、俺が刀を一閃すれば人が倒れる。
「ばかやろ! 何やってやがる!」
「お、お頭! 俺達を口封じする刺客じゃ!?」
「そ、そうだ! そうに決まってる!」
「お、俺は嫌だって言ったんだァァァ!」
何人か逃げ出したか……まあ、心配あるまい。
「さて……お前の部下はいなくなったぞ?」
「ふ、ふざけるな! オォォォ——!」
「主人には指一本触れさせない——ヤァ!」
剣を振りかぶる奴を……カグラの一振りが、剣ごと粉砕した。
「ゴハッ!? がは……ばかな……」
「おい、カグラ」
「平気です、手加減しましたから」
……手加減して、この威力か。
二メートル近い大男を、鎧や剣ごと粉砕してるし。
どうやら、身体強化魔法は極めの段階にまで達しているらしい。
ますます、頼もしいことだ。
「まあ、良い……さて、話す気はあるか?」
「そ、その顔……銀髪……ア、アレス皇子?」
「正解だ。人攫いの首魁はお前か?」
「ち、違うんだ! 俺は依頼されただけだ! それに、俺なんて下っ端も良いところだ!」
この規模の賊のお頭が下っ端?
……やはり、一筋縄ではいかないか。
「その依頼主は? 他の仲間の居場所は?」
「い、命だけは!」
「わかった。俺は殺さないと約束しよう」
「は、話す! 話すから!」
「じゃあ、大人しくしてろ。カグラ、こいつを連行してくれ」
「はっ、主人殿」
……さて、本当に大変なのはこれからだ。
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