133話 アジトに潜入

(さて、証拠隠滅をしておくか)


 並んで置いてある死体に向けて……。


「蒼き炎よ、敵を燃やし尽くせ——クリムゾン」


 死体を蒼き炎が包み込み……灰となる。

 死体が焼ける匂いなどしないほどに、一瞬で消える。


「す、すごい密度の高い魔法ですね……」

「拙者にはわからないが……そうなのか?」

「ええ! 生身で食らったら……カグラちゃんでも、ただでは済まないです」

「まあ、俺だって遊んでいたわけじゃないしな」


 俺には、セレナほどの魔力量はない。

 だから、精度と威力をあげることに重点を置いて鍛錬してきた。


「では、どうするのだ?」

「アスナと合流しよう。二人とも、俺に触れろ」


 闇のマントを纏い、再び夜の闇へと消えていく。





 ◇



 移動を開始して、三十分後……。


「アレス様」

「おっ、わかってきたな?」

「ええ、大分慣れてきましたねー」


 アスナは訓練により、俺が闇のマントをしていても気づくようになった。

 気づくというよりは、違和感を感じるが正しいらしいが。


(己の力を過信するのが最も危険だからな。色々と実験しておいて良かった)


「つまりは、知っている人からしたら気づく可能性があるってことだ」

「むむっ……拙者は、未だにわからないのに」

「わたしもですよ〜」

「ふふふ、これでも隠密ですからねー。それに、父上辺りなら気づきますよー」

「それが知れて良かったよ。それで、首尾は?」


 アスナには、アジトの捜索を命じていたが……。


「もうバッチリですよー」

「よし、良くやった」

「えへへ、やりましたね」

「「むぅ……」」


(……やり辛い。いや、しかし……褒めないのは主人としてどうかと思うし)


「さ、さあ! 行こうか」

「仕方ないのだ。あとで、きっちり話をつけるのだ」

「まだ、決着は付いてませんからね?」

「ふふ、一歩リードですねー」


(なんの勝負をしているんだ? ……多分、聞かない方が良さそうだ)




 その後、アスナも含めて闇のマントを纏い……。


 人里離れた、山のふもとにある洞窟に案内される。


「ここが?」

「はい、洞窟にアジトがあるみたいですよー。ここならひと気もありませんし、隠すにはもってこいですし」

「そうだな……中で何が行われていても、それも漏れることがないか」


(だが、好都合だ。あちらも、逃げ場がないということだ)


「どうするのだ?」

「二手に分かれるか……逃げ出してきた者を仕留める者と、中で救出や戦闘をする者と」

「では、拙者が残ります。大剣では、中では活躍できないのだ。何より……未熟ながら、怒りを抑えることが無理そうです」


(まあ、十中八九……ろくでもないことになっているだろうな)


「じゃあ、わたしが残ります。連携も含めて、カグラちゃんと一緒が良いかと」

「ではでは、突入は私ですねー。二人の愛のパワーで頑張りましょー」

「むぅ……やっぱり、わたしが……」

「いや、拙者が……」

「はいはい、アスナにするよ。どう考えても適任だ」


 二人にデートの約束をして、何とか説得する。


(緊張感がないが……いや、勘違いをするな。アスナと俺がおかしいだけだ。成長したとはいえ、彼女達はまだ子供だ。まだ感情をコントロールするのは難しいだろう。それに、リラックス効果はあるしな)





 リラックスをして、俺とアスナはアジトに潜入する。


(見張りがいないので、中には入るまでは半信半疑だったが……)


 大人二人分くらいの通路を進んでいき、三つの道に分かれている。


 ひとまず、真ん中を進んでいくと……大きな広場に出る。


「がははっ!」

「うめぇ!」

「たまんねえな! 平民の女を攫うだけで大儲けだ!」

「いなくなっても教会や魔物の所為にもできるしな!」

「最悪、貴族様が揉み消してくれらぁ!」


 男たちが、酒や食事をしながら宴をしている。

 二人で顔を見合わせて……少し、後ろに下がる。


「どうだ? 人質は?」

「見えませんでしたね」

「じゃあ、他の二つを見よう」


 引き返して左にいくと……倉庫のようだ。

 武器や財宝が置いてある。


「見張りもいないのですねー」

「おそらく……必要がないのだろう。貴族という後ろ盾があるし、ここには誰も来ない」




 そして、右側にいくと……。


「だ、誰かァァァ!」

「助けてぇぇ!」

「バカが! 誰も来るわけねえだろうが!」

「おら! 大人しくしてろや!」

「おい、商品なんだから一応丁寧に扱え」


 牢屋に若い女性達が閉じ込められている。

 その前には、三人の見張りがいる。


(しかも、一人は子爵と話していた痩せ男か……生かしておかないとな)


 俺は無言でアスナに合図を送り……行動を起こす。


「シッ!」

「カハ?」


 俺の居合で、一人が死んだことも気づかず……血を流す。


「な、なんだ——ゲフッ」

「あと一人ですねー」


 アスナが敵の頸動脈を、小太刀で斬る。


「さて、後はお前だけだ」

「だ、誰」


 剣先を相手に突きつけ……。


「黙れ——今すぐ死にたくないならな」

「ひぃ……」

「人質はこれだけか?」

「あ、ああ……こ、殺さないでくれ」


(何を今更……そう言ってきた人を、何人殺してきた?)


「それは返答次第だ。雇い主は?」

「し、知らない、それを知ってるのはお頭だけだ」

「なるほど、お前は連絡員と引き渡し要員か」

「そ、そうだ、だから——かへ?」


 再び命乞いをする前に、首を斬り落とす。


「やはり、お頭という奴に話を聞く必要があるな」

「どうします?」

「人質はいないなら、遠慮することはない」

「御主人様……震えてる?」


 俺は怒りで身体を震えそうになる。


 どうして、こんな理不尽な真似ができる?


 自分達さえ良ければ、それで良いのか?


 ……ふざけるな。


 そんな世の中なら——壊してやる。

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