129話 仕事内容

あれから、早くも1ヶ月が経過した。


俺は日々の鍛錬や、レナへの魔法の指導……。


束の間の休息の時間には、婚約者とデートしたり……。


とても充実した日々を過ごしていた。






もちろん……重大な仕事をしながら。


「キャァ!?」

「だ、だれかぁ!?」

「ゴブッ!」

「ゴァァ!」


村の中に、ゴブリンが入ろうとするが……。


「消え失せろ——」

「ゴァ!?」

「ゴ、ガ……」


刀を一閃……敵が煙と化す。


「あ、ありがとうございます!」

「いえ、これも皇族の務めですから」

「な、なんと……どうやら、噂は本当だったのか」


(ふむ……やはり、皇族や貴族のイメージが下がっているか)


誰かが、意図的に何かをしているのだろう……。

さて、どうするべきか……。


「アレス様! 魔物の大群が!」


警戒役であるアスナの声に反応して、見てみると……。

今まさに、瘴気が溢れるところだった。


「チッ! 本当に最近多いなっ! カグラ! 寄ってくる敵を倒して時間を稼いでくれ!」

「はっ! お任せを!」


大剣を振り回して、カグラが迫り来る魔物を一刀両断していく。


「セレナ! 俺に合わせろ!」

「はいっ!」


古代魔法の一部を解読し、俺達は新たな力を手に入れた。

俺とセレナは手を繋ぎ……互いの魔力を同調させる。


「「荒れ狂う炎の風よ! 全てを焼き尽くせ——ファイアーストーム炎の竜巻」」


魔物の中心地点から、炎の竜巻が発生し——全てを飲み込む。

逃げようとする者も、風に引き寄せられて焼かれていく。

そして……収まった時、もう何も残ってはいなかった。


「ふぅ……やはり、魔力を相当使うね」

「ふえっ? そうですか?」


(やっぱり、魔力総量はセレナが圧倒的に上か。おそらく、俺の倍くらいはありそうだ)


この合わせ技も、宮廷魔導師クラスでないと使用出来ないものだ。

そもそも、相性が良くないと同調すらできまい。


「すごいのだっ!」

「凄いですねー。やっぱり、魔法は戦局を変えますねー」

「いやいや、溜めるのは時間かかるし……前衛や遊撃があってこそだ」

「そうですよ!」


この四人で任務をしているが、バランスは悪くない。

アスナがいるおかけで、俺が魔法に集中できる。

ここにオルガがいれば、カグラの負担が減るのだが……。

まだ、こちらに帰ってくることはできないらしい。




その後、年老いた男性の村長から話を聞く。


「最近、魔物が多くて……そのせいか、行方不明になる者も……」

「そうですか……申し訳ない」

「い、いえ! アレス様は私達を体を張って救ってくださいました!」

「ですが本来なら、この地の貴族が守るべきなのです」


そう……この地を治めているクソ貴族が兵士などを出し渋っている。

それぞれに領地があり、いくら皇帝でも下手には手が出せない。

それもあって、俺を特殊部隊に任命したのだろう。


「お噂は聞いております……何やら不穏な世の中だと……貴族様は好き勝手にし……魔物は溢れ……教会の者が幅をきかせていると……」

「ええ……残念ながら」

「ですが、アレス様が民に寄り添う方というのは知っております。ましてや、聖女様を婚約者にしております。我々は、貴方を信じております」

「ありがとうございます……! 必ずや、この霧を晴らしてみせましょう」





その後、御礼を言われつつ……皇都へと帰還する。


俺は父上に、セレナはコルンさんに呼ばれたので……。


一緒に、城へと歩いていく。


「しかし……聖女だったり、アイドルだったり忙しいな?」

「あぅぅ……わたしは何もしてないのにぃ……」


(どうやら、平民の間では絶大な人気を誇っているらしい)


誰にでも優しく、怪我人を発見したら無償で治療をし……。

その可憐な容姿で微笑み……次々と骨抜きにしていくと。


「俺も、何回決闘を申し込まれたか……」

「ご、ごめんなさい……」

「良いさ——君を誰にも渡すつもりはないし」

「は、はぅ!?」


プシューと煙が出るように、みるみるうちに赤くなっていく。


(いや、可愛いよなぁ……最近、ブレーキが効かなくなりそうで怖いくらいだ)


だが、少なくとも十五歳になるまでは手を出さないと決めている。


……頑張れ、俺。






城の途中で分かれて、俺は父上の私室に向かう。


「ゼノさん、こんにちは」

「ええ、こんにちは。では、お入りください」

「はい、失礼します」


中に入り、父上と対面する。


「よう、アレス」

「お疲れ様です、父上」

「お前こそな。まあ、まずは座ってくれ」


ソファーに座り、お茶を飲む。


「まずは報告をしますね。無事に魔物討伐を終えました」

「うむ、ご苦労だった。やはり、出現率が上がっているか……」

「ええ、そうですね。それに民の不安も高まっています」

「そこだな……こっちも大臣共が醜い争いばかりで、色々と手が回らない」

「新しい宰相を決めることで?」


未だに空白のままだが……国の内政のトップが不在では、進むものも進まないだろう。


「ああ、あのバカ共め……互いに足を引っ張りおって。だが、一番の馬鹿は俺か……それを知りつつ、手が出せんとは」

「何か、問題があったのですか?」

「うむ……実はな、行方不明になる者が続出しているのだ。今は、そっちの問題を抱えていてな」

「なるほど……そういえば、村でも聞きましたね」


すると……父上の表情が変わる。


「……どう思う?」

「少しきな臭いですね」

「やはり、そう思うか」

「行方不明者の、性別や年齢の統計はありますか?」

「それが……わずかに若い娘が多いことがわかった」


(それはまた……何ともきな臭くなってきたね)


「誰がが、意図的に攫っていると?」

「ああ、しかも……魔物に襲われたことにしてな」

「なるほど……そうすれば、言い訳は幾らでも出来ますね」

「そうなのだ……確固たる証拠がないと、奴らを罰することはできない」


(うむ……これは考えていたことを実行に移す時が来たかな)


ずっと迷っていた……この力を使うことに。

そして……綺麗事ではない仕事になることがわかっていたから。


「父上、提案があります」

「何? ……言ってみろ」


俺は父上に、とある提案をする。


「な、何!? 反対だ! 危険が過ぎる!」

「しかし、確実に証拠は掴めます」

「そ、それは……しかし、それはもはや皇族の仕事ではない」

「これも、民の為です。父上、俺に——


俺は覚悟を決めて、父上を見つめるのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る