128話 任命され、認められる

 それから数日が過ぎ……。


「ロックブラスト!」

「そうです! 出す前にどこを狙うか、的との距離はどんなかを意識してください」

「おっ、今のはいいな。あとは、もっと圧縮して放つといい」

「はいっ! 師匠!」


 庭にて、レナの魔法の鍛錬を行っている。

 日々の日課に取り入れ、俺とセレナが指導にあたる。

 自分で言うのもあれだが……贅沢な話だ。




 そのまま続けていると……見覚えのある人が庭に入ってくる。

 カイゼルと一言二言話してから、こちらに向かってくる。


「あら〜! なんか、良い感じの子がいるわね!」

「誰なのじゃ!?」

「コルンさんだよ!」

「お二人とも、拙者と少し遊びましょう」


 カグラがそう言い、二人を部屋へと連れて行く。


(へぇ……そういう気配りもできるようになったのか)


 ちなみに、アスナはカエラに変わって家事などをこなしている。

 母上の話し相手になったり……正直言って、めちゃくちゃ助かっている。


「コルン先輩! こんにちは!」

「こんにちは、セレナさん。ふふ、良かったわね? 愛しのアレス君に会えて」

「あぅぅ……はぃ」

「どうも先生、お久しぶりです。どうやら、色々とお世話になったようで……」

「アレス君、もう先生じゃないからねー」

「確かに……コルンさんと呼ばせていただきますね」


(……それにしても、見た目が全く変わっていないのだが? 相変わらず小さいし、いつの間にか見下ろしてるし)


「むっ! 今、小さいと思いましたね!?」

「い、いえ! 滅相もない!」

「別に良いですよ……私なんて、このまま一人で生きていくのよ……アレス君は三人も婚約者がいるのに……グスッ」

「せ、先輩! 泣かないでくださいよぉ〜! きっと良い人いますから!」

「ええいっ! 何を言うか! このおっぱいめ!」


 素早い動きでセレナの後ろに回り……胸を揉みしだいている。


「キャァァァ!」

「へへへ、こうか? こうが良いのか?」

「や、やめてください! ア、アレス様がいるのに〜!」

「ふふふ、アレス君だって見たいでしょ?」


(……すごいな、あんなに形が変わるのか……おっと、いかんいかん)


「先生……見たいし触りたいのは否定しませんが——そろそろ、怒りますよ?」

「ふえっ〜!?」

「……良い顔になったわね〜。ますます、ラグナに似てきたわ」

「そうですかね? 顔は母上譲りな気がしますけど……」

「雰囲気というか……さて、私も遊びに来たわけじゃないの」

「いや、それはそうでしょうね」


(仮にも、宮廷魔導師なんだし……見た目は子供だけど)


「何か?」

「いえ、何も。それで?」

「えっと……これね、はい」


 何やら封筒を手渡される。


「見ても良いですか?」

「ええ、平気よ」


 封筒を開けて、紙を開いてみると……。


「なになに……其方を特務隊隊長に任命する……?」


(聞いたことない役職だな……)


 我が国は、大将をトップとした分かりやすい階級制だ。

 大将、中将、少将、大佐、中佐……という感じに。


「これは?」

「皇帝陛下が新しく作った役職よ。既存の軍に組み込むと、色々と問題があるからって。例えば、大臣達が煩かったり……軍上層部が自分の立場を脅かすと思ったりとか。この役職には昇格もないし、彼らに命令することもできないから」


(なるほど……軍内部を変えることはできないが、これはこれでありだな)


「という建前で、大臣達を説得したんですね?」

「ふふ、そういうことね」

「ふえっ? どういう意味ですか?」

「つまりは……俺は誰にも命令出来ないし、昇格することもない。そのかわりに、誰の命令も聞く必要がないってことだ——任命した皇帝陛下以外には」

「……あっ! そういうことですね! 皇帝陛下直属の特殊部隊ってことですよね?」

「ええ、それで合ってるわね」


(父上……中々考えましたね。これなら、渋々ながら大臣達や将軍達も認めるだろう)


 彼らは自分たちの役職さえ脅かさなければ、それで良いというスタンスだから。


「じゃあ、これで自由に動けるってことですね! 魔物討伐なんかでも、やっぱり上下関係が邪魔することもありますし……」

「うん、それもあるよね。しかも……おそらく、本来の狙いはそれじゃない」

「へぇ? わかるのね?」


 コルンさんの目つきが変わる……。


(やっぱり、そっち側の人間だったのか。全く、全然気づかなかったなぁ……いかに、俺達が子供だったってことだな)


「これで、炙り出せってことですね? ……腐った者達を——それこそ、貴女のように」

「あら? それにも気づいたの?」

「ええ、貴女が父上の命令を受けて学校にいたということは……そもそも、直属の部下ってことですよね?」


(つまり、今の俺と変わらないってことは……)


「ええ、そうね」

「俺たちを見守るという任務に嘘はないと思いますけど……何気ない会話から、子供達の性格ももちろんのこと……その親とかも知ろうとしたのでは?」

「どうして、そう思うの?」

「だって……

「ふえっ? ……あっ——そっか、皇族の方々がいたから……先輩は学校に……でも、一番年下であるアレス様だけになっても……先輩はいました」


(そう……俺を守るだけという理由だけでは弱い)


「ふふ……合格ね。いや〜昔から頭が良いとは思ってだけど……これなら、仕事仲間としてやれそうだわ」

「……それも含めての会話だった?」

「それも正解ね。私も——命をかけてるし」


 その目はいつものお調子者ではなく、威厳のある大人の姿だった。


 どうやら俺も、大人に近い者として……。


 背中を預ける者として、認められたようだ。

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