127話 色々と変化

その後は、魔法の鍛錬をする。


以前作った特殊な小屋に入り、セレナと対峙する。


危ないので、俺とセレナの二人だけである。


「次は私の番です!」

「ああ、いつでも良いよ。まずは、先手を譲ろう」

「わかりました……スゥ」


それぞれ集中して……。


「ウォーターブレス!」

「ファイアーウォール」


水のブレスを、炎の壁が防ぐ。


「なるほど……詠唱スピードは互角か。では——フレイムウェイブ」

「アクアウォール!」


水の壁に炎の波が当たり……。


「もっと強くするぞ?」

「わわっ!?」


魔力を送り込み、水の壁を押し込んでいく。


「さて、どうす……ん?」


セレナは深呼吸をして、慌てず冷静に杖を構えている。


(へぇ……模擬戦とはいえ、炎が目の前に迫っているのに……これっぽっちも慌てる様子がないか)


セレナは見習い宮廷魔導師として、魔物討伐に出ていたと聞く。

これも、実戦経験の賜物ってことだろう。


「どれ……何か出てくるかね」


俺は手加減することなく、魔力をさらに高める。


「スゥ——水よ! その形を変えろ! 凍てつく氷——ブリザード!」

「なっ!?」


氷の吹雪が、俺の炎とぶつかり——弾ける!


「きゃっ!?」

「くっ——シャドウワープ!」


俺は咄嗟に闇魔法を使い……セレナを受け止める!


「ぐへぇ!?」

「ふえっ!?」


思ったより衝撃があり、俺はうつ伏せで倒れ込んでしまう。


「いてて……」

「ご、ごめんなさい!」

「い、いや……おお……」

「アレス様?」


(なんか柔らかいものが当たってると思ったら……)


俺の胸あたりでグニャンとなっているモノがある。

随分とまあ……立派になって。


(……いかんいかん、これでは変態みたいではないか)


「なんだか、懐かしいですね」

「ん? ああ、前にもあったな」

「でも、前と違うのは……あ、あのぅ……アレス様も好きなんですか?」

「へっ?」

「その……男の人がよく見てくるんです……」

「……まあ、魅力的だというのは否定できない」

「……エヘヘ、アレス様だったら嫌じゃないですよ?」


(……なんつー殺し文句を……恐ろしい子だね)


「アハハ……」

「さ、触ってみます?」

「い、いや、それは……」

「顔真っ赤ですよ? アレス様に見てもらえるように、頑張ったんですよ?」

「そ、そう……」


(……セレナが魔性の女になっとる! いや、嫌いじゃないけど!)


「平気なのだ!?」


ドアを開けて、カグラがやってくる。


「あちゃー来ちゃいましたね」

「ァァァ! セレナ! 抜け駆けなのだ!?」

「ふふ〜早い者勝ちです!」

「むぅ……やるのだ……拙者も頑張らないと!」


二人は笑い合いながら、言い合いをしている。


(……危なかった。つい触りそうになったし)


……でも、そうか。

俺も、もうすぐ十四歳か……。

そろそろ、そういう欲が出てきても変じゃないんだよなぁ。


(これから、二人と住むんだよな? 俺の理性は……保つだろうか?)





ひとまず、庭にて……。


「さて……古代魔法だな?」

「はいっ! アレス様のおかげです!」


どうやら、俺があげた古文書を解読したらしい。

自分の仕事をしながらなので、その努力が伺えるというものだ。


「いや、俺は何もしていないよ。それはセレナの努力の賜物だ。それにしても……氷魔法か……俺の炎を相殺するとはね」

「あと、他にもいくつか覚えました!」

「そうか——頑張ったな」

「えへへ〜その言葉が欲しかったんです」


先程の妖艶さは何処へやら、今度は子供みたいにはしゃいでいる。


(まあ、どっちのセレナも魅力的なことに変わりはないけどね)


「むぅ……ずるいのだ」

「カグラ?」

「拙者は、何も貰ってないのに……」


いじけてるカグラは、見た目は大人っぽいのに子供っぽい。


(これはこれで、カグラの魅力でもあるよなぁ……二人ともギャップってやつか)


「クク……」

「な、なんで笑うのですか?」

「いや、可愛いと思ったから」

「へっ? ……っ〜!!」

「アレス様……わたしは?」

「もちろん、可愛いよ」

「えへへ〜嬉しいです!」

「あぅぅ……」


(どうやら、色々と変化があるみたいだね)


「カグラ、ちょっと待っててね」


俺は部屋に戻り、布に包まれたモノを持ってくる。


「そ、それは?」

「まあまあ、開けてみてよ」


カグラが布を取ると……無骨な大剣が現れる。


「こ、これは……?」

「俺がグロリア王国から頂いたものだ。ロナードの王位継承を手助けしたお礼としてな」

「そ、そんな大事なもの……拙者には使えません!」

「ああ、大事なものだ。俺の大事な友から頂いたからな」

「で、では……」

「だからこそだ……大事なものだからこそ、他でもない君に使って欲しい——言わなくても意味はわかるな?」

「は、はぃ……」


カグラは大剣を抱くように、ギュと縮こまる。


「えへへ、よかったね」

「セレナ……拙者はお主を羨ましいと思ってたのに……」

「そんなのはお互い様だもん」

「ふふ……そういえばそうだったな」


(どうやら、関係性は良いままのようだな……正直助かるよ)


「二人とも」

「はい」

「なんでしょうか?」

「昨日も少し話したが……俺は、これから正式に任務につくと思われる。二人には、俺を助けて欲しい」

「っ〜! その言葉をお待ちしておりました!」

「はいっ! そのために頑張ったんです!」

「はいはーい! 私も手伝いますよ〜!」

「そうだな、よろしく頼む」


さて、問題は山積みだが……。


この子達がいれば、何とかなるって思える。


そう思える相手がいるって……幸せなことだよな。

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