131話 新たな仕事

 それから一週間後……。


 俺はいつものように、庭でレナとエリカの相手をしていた。


「師匠! ゴーレムができたのじゃ!」

「わぁ……! お姉ちゃん凄い!」

「ふふふ、これが我が力なのじゃ!」


 そこには、一メートルくらいの土人形がいる。


(いやぁ……実に微笑ましい光景だなぁ……予想通りに、エリカの良き遊び相手になってくれたし……レナも女の子の友達はいないし……良かった良かった)


「お兄ちゃん!」

「師匠!」


(おっと、いかん。きちんと師匠らしいことしないと)


「ふんふん」


 手で叩いてみて……。


「ハアッ!」


 ただの拳で殴るが……。


「おっ、壊れない」


 以前は、これだけで壊れていたのに……。

 やはり、伸び代がありそうだな。


「ふふん! どうなのじゃ!」

「じゃあ、俺を殴ってみろ」

「うむ! 行くのじゃ!」


 レナの声に反応して、ゴーレムが殴りかかってくる。


「ふむふむ、遅いな」

「くっ!」


(でも、始めたばかりにしては上等だな)


「でも——ファイアボール」


 火の玉をぶつけると……粉々になる。


「あぁー!?」

「まだまだ色々と足りないな」

「むぅ! もっと大きくてカッコいいゴーレムが作りたいのじゃ!」

「レナ。それは基礎をしっかり作ってからだ。まずは、この大きさで強度と動きを極めろ」

「うぅ……」


(ふむ……厳しすぎるのもあれか。この子が頼れるのは俺だけだしな)


「それができたら、何かご褒美をあげよう」

「ほんと!?」

「ずるい! わたしも!」

「わかったよ。じゃあ、エリカは……母上のお手伝いが出来たらな」

「「はいっ!!」」


 二人が元気よく返事をして、庭を駆け回る。


(そうだ、この光景を守るためにも……俺はやらなければならない)


 俺は父上から受け取った指令を思い出し……拳を強く握る。






 その日の夜……。


 俺は、一人で屋敷から出て行く。


「……やっぱり、ダメか」


 そこには、三人が待ち構えていた。


「アレス様、どこに行くんですか?」

「主人よ、拙者を置いて行くつもりで?」

「ご主人様〜私くらいは連れて行かないと!」

「しかし……これからやる仕事は、汚れ仕事だ」

「「「だからこそです!」」」


 三人は強い意志で、俺を見つめてくる。


「……そうか、俺が悪かったな。では、手伝ってくれるか?」

「「「はいっ!」」」


(俺は良い仲間を持ったな……)







 そして作戦会議をして動きだし……。


 ……ここか?


 闇魔法を駆使して、何とかたどり着いたが……。


 俺とカグラとセレナは気配を殺しつつ……森の中にある廃墟に近づく。


 そして、隙間から中を覗きみる。


「おい、誰にもつけられてないだろうな?」

「へい、もちろんでさ」

「それで、ぶつは?」

「こちらに……へへ、旦那もお好きですなぁ……」

「むぅ〜!!??」


 そこには腹の出た中年の男と、痩せ型の腰の低い男がいた。

 男が差し出したのは、年若い女の子だ。


(クズめ……平民なら何をして良いと思ってやがる)


 だが、まだだ……ここで出るわけにはいかない。

 確実なルートを割りださないと……。


「余計なことを言うと寿命が減るぞ?」

「す、すいやせん!」

「ほら、報酬だ」

「……確かに」

「次はどんな娘にするか……たまには貴族の娘も良いかもしれん。先方も、それを望んでいるしな。平民は泣いてばかりでつまらんかから、今度は高飛車な女を屈服させたいと」


 俺は二人の手を強く握る!

 その瞳には怒りがあふれていて、今にも飛び出しそうだが……。

 俺は目線で伝える……今は堪えてくれと。

 すると、二人が渋々頷く。


「旦那、そいつは難しいですぜ……」

「報酬は弾むぞ?」

「……わかりやした。帰って、頭に相談してみやす」

「うむ、男爵辺りなら揉み消せるから心配するなと伝えておけ」

「へい。それじゃ、あっしはこれで……」


 そう言い、痩せ型の男が去っていく。


(さて……護衛は三人か)


 痩せ型の方はアスナに任せれば良い。

 アスナなら、俺の闇魔法がなくとも平気だろう。

 あの程度の男に気づかれるような未熟者ではない。

 俺は二人合図を送って……。


「さて、引き上げるぞ」

「はっ! おい、行く——」

「ウインドカッター!」

「カハッ!?」


 魔法を使ったことで、闇のマントが解除される。

 この魔法は姿を隠すことができるが、魔法を使ったり……。

 俺に触れてなかったり、何か激しい行動を起こすと解除されることが判明した。


「な、何!? ——ゴフッ!?」

「ハァ!」


 カグラの大剣が鎧ごと敵を斬り裂く!


「き、貴様ら! 何処から——」

「火炎刃!」

「グホッ!?」


 真ん中にいる隊長格を、俺が仕留める!


「な、なっ——!?」


 尻餅をついて狼狽えている奴に、俺が刀を突きつける。


「さて、大人しくしてもらおうか」

「何処から!? いつの間に!?」

「そんなことはどうでも良い。俺の質問に答えろ」

「わ、私を誰だと思ってる!? 子爵家当主のリード-ドズルだぞ!?」

「ああ、知っている。二人とも、見張りを頼む」


 俺の言葉に頷き、つけた二人が廃墟の外に出る。

 そして、俺自身は黒い騎士服を身につけ……仮面を取る。


「さて、俺の顔は知っているか?」

「な、な、なぜ!? アレス様が!?」

「皇帝直属特殊部隊——ブラックブレッド黒い弾丸だ」


(まるで厨二みたいだが……父上の命令じゃ仕方ないよなぁ)


「も、もしや……貴族を排除するために?」

「そういうことだ。厳密いうと……お前みたいなクソ貴族限定だけどな」

「お、お前は政治に介入しないと約束したはず! こんなことがばれたら、大臣達が黙ってないぞ!?」

「大丈夫だ、バレないから」

「……はっ?」


 俺は無言で——奴の脚に刀を突き刺す!


「ぎゃァァァ!?」

「さて……お前の主人は誰だ?」

「い、イダィィ!? は、早く治療をォォォ!」

「早く答えないと——死ぬぞ?」


 そのままグリグリと刀を動かす。


「わ、わかっだ! ゴダえるから!」

「さあ——言え」


 刀を抜いて、鞘にしまう。


「ブ、ブライ伯爵ガァ!」

「なるほど、ブライ伯爵ね……では、眠ると良い」

「へっ——?」


 俺の抜刀により、奴の首が宙に舞う。

 奴の首から鮮血が溢れるが、俺の刀には血の一滴も付いていない。


「相変わらず、凄い斬れ味だな。そして……我ながら、この仕事が向き過ぎている」


 闇魔法で姿を隠し、強力な戦力である二人を連れ……。

 警戒役としてアスナを配置する。

 隠密行動のフォーメーションとしては完璧に近い。


「何も、主人殿がしなくても……拙者が」

「いや、これだけはやらせてくれ。俺が父上に頼んだ仕事だ。ただでさえ、君達の親御さんには言えないようなことをしているんだから」

「父上は理解してくれます。綺麗事だけじゃやっていけないのだ」

「わたしのお家もです。なんたって商人の家ですから」

「そうか……だが、俺のわがままを聞いてくれ」


(もちろん、俺の自己満足なのはわかってる)


 それでも、できるだけ汚い仕事は——俺がやる。


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