125話 修羅場?

 父上との話し合いを終えたら、真っ直ぐに家に帰る。


 流石に、これ以上は動きたくないし。


 早く帰って、家でゴロゴロしたいよなぁ。








 と、思っていたんですけどね。


「「アレス様!」」

「はい、ごめんなさい」

「ふふ〜良いじゃないですか〜二人も三人も変わらないですよ?」

「むぅ……しかし……」

「むぅ〜! いつの間に……」

「はぁ……」


 俺は帰るなり、カグラとセレナに捕まり……。

 リビングに行くと、アスナが待っていた。

 そして……俺の婚約者になりますと二人に宣言したらしい。

 俺は正座して、二人から叱られてるわけだ。

 特に悪いことはしてないけど、こういう時は逆らってはいけない。


(俺、もう眠いんですけどね……もう一踏ん張りしますか)


「お母さん! どうしてお兄ちゃんは怒られてるの!?」

「師匠はモテモテなのじゃ!」

「あらあら〜色男は辛いわねー」

「クク……そういうところも先帝そっくりだ」


 その様子を縁側でお茶をしながら、四人が眺めている。


(援軍は来ないね……さて、まずは)


「アスナ。とりあえず、説明をしてくれるかい?」

「はいはい、わかりましたよー」

「こ、こんな子でしたっけ? そういえば、姿も……」

「拙者が最後に会った時とも違う……」

「ああ、それも含めて説明しなくてはいけないか」


 まずは実家から指令で、俺を見極めるために偽りの姿で過ごしていたこと。

 結果的に家ごと、俺や皇帝陛下の味方についたこと。

 それらを簡潔に説明する。


「で、お前は家に帰ったわけだが……何があった?」

「まずはですねー、私の家が完全に皇帝派になりましたね。何というか、対外的にも」

「なるほど、今までは公にはしてなかったが……それは、この家が襲われたことにも関係するか?」

「あっ、知ってたんですね。私も、さっき聞きましたー。まあ、そういうことです」


(そうだった、まずは肝心なことを伝えてなかった)


「俺もだ、さっき父上から聞いた。セレナ、ありがとう。俺の家族を守ってくれて」

「い、いえ! 私なんて、大したこと出来なくて……」

「そんなことないのだっ! 私からも礼を言わせてほしい」

「そうですよ、セレナちゃん」

「うむ……良き使い手になった。情けを捨て、相手の急所に魔法を当てていた」

「お姉ちゃん、かっこよかった!」

「……エヘヘ」


(……カイゼルが認めるほどか。こりゃ、俺も負けてられないね)


「コホン! まあ、その時に我が家も参戦しまして……これが決定的なものになりましたね。皇帝派というかアレス派というか……まあ、私の手紙も影響してますけど」

「なるほど……それで、お前という存在を俺にあてがうと? 側近としてだけではなく、女性としても?」

「ええ、そうですねー。私、こう見えて一族の中では優良株ですから」


(うーむ……相変わらず、この辺りの話には慣れないないなぁ。もちろん、理屈としては理解できるが……)


「あっ、別に愛人でも良いですからね?」

「俺はそういうのは好かん。ひとまず、それは置いておく。当主殿に、後日改めて挨拶に行くと伝えてくれ」

「まあ、そうなりますよねー」


 すると、二人がアスナの両脇を掴む。


「セレナ!」

「カグラちゃん!」

「わひぁ!? 殺さないで〜!」

「そんなことしませんってば!」

「良いから来るのだっ!」

「ご、御主人様〜!」

「はいはい、ほどほどにな。俺は疲れたから寝る」


 と思い、俺が玄関に向かうと……。


「あ、あのぅ……」

「こんにちは……」


 見覚えのある二人が現れる。


(そういや、離れで一緒に暮らしてるんだったな)


「ネルソン殿、ライラさん」

「……もうすっかり大人になりましたな」

「ほんと……あの子も苦労しそうだわ」

「もっと楽にしてくださいよ。義理とはいえ、親子になるのですから」

「そ、そうですな……でもまずは——ありがとうございました!」

「ありがとうございます!」

「俺が父上に頼んだことならお気になさらないでください。セレナのためでもありますし」

「それでもです」

「ええ、そうですわ」

「まあ……どういたしましてと言っておきますね」


 それだけ言って、二人は離れに戻っていった。

 俺はそれを見届けて、家に戻ろうとしたが……何か違和感を感じ——。


「……誰だ?」

「これは失礼いたしました。流石は、我が娘が見込んだ方です」


 木の上から、全身黒ずくめで細身の男が降りてくる。

 その顔すらも隠れていて、目だけが見える状態だ。


「なるほど、貴方がルーン家の当主ですか」

「お初目にかかります。私の名は、サスケ-ルーンと申します」

「まんまですね」

「はい?」


(おっと、いけない。つい、和馬の記憶が……)


「いや、こっちの話です。それで、どうしたのですか?」

「ご挨拶に伺おうと思い、参上した次第で御座います」

「それは、わざわざすみません。俺からいこうと思ったのですが……」

「実は娘からそう聞きまして……それでは、仕える家としてはよろしくありません」

「……そうですね。すみません、俺の配慮が足りませんでしたね」

「……娘の言う通りですな。王族特有の傲慢さもなく、謙虚な姿勢……しかし、その姿は堂々たるもの……どうやら、良き主人のようですな」

「別に普通のことですよ。褒められようなものではないですから。それより、ありがとうございました。家族を守ってくれたそうで」

「それも信頼を得るためです……それでは、これにて失礼させて頂きます。お疲れのところ、申しわけありませんでした」

「いえいえ。以後も、よろしくお願いしますね」

「はっ、畏まりました。娘のこともよろしくお願いいたします」

「あっ——それについては……いないし」


 あの一瞬で、木から木に飛び移ってしまった。

 流石と言うべきなのか……。


「はぁ……もう良いや。全部、あとで考えよう」


 俺は部屋のベッドに行き、すぐに意識を手放すのだった。

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