124話 明かされる事実
……なんだ?
真っ黒い空間で何も見えない……。
はっ……これは、以前にも見たことがある。
「誰かいるのか?」
「………モウスグダ」
聞き取り辛い声がするが、相変わらず姿は見えない。
だが、以前ほど取り乱したりはしない。
冷静に……出来るだけ情報を。
「何が、もうすぐなんだ?」
「……メザメノトキダ」
「誰が?」
「……オヌシニアズケタ」
「クロスのことか?」
「……ヤツノチカラモマシテイル」
「奴とは?」
「……メガミノナヲカタルモノ……キヲツケルガイイ……ヤツニキヅカレテハイケナイ」
「女神? 名を騙る? 気をつける? なにを?」
「我が選んだ依り代よ……時は近い、聖女と勇者を呼ぶ者たちに気をつけろ。奴らは女神を名乗るモノのしもべだ」
そこだけはっきりと聞こえ……眩い光に包まれる!
「っ——!!」
俺はガバッと起き上がる。
「ハァ、ハァ……」
「平気か?」
「……父上? 何故、ここに?」
「おいおい、お前を呼んだのは俺だろうに」
(そうだ……謁見の間の後に部屋に案内されて……うたた寝をしていたのか)
「すみません、少し夢見が悪かったようで……」
「ふむ……話してみるといい。今は二人だけで、外にはゼノしかおらん」
「ではお耳を……」
父上に夢の内容を伝える。
「なるほど……以前より鮮明ということだな?」
「ええ、そうですね」
「女神を騙る……気になる言い方だな……まるで偽物とでも言うように」
「はい、そう思います」
「もうすぐという言葉……最近、魔物の出現率が高いことも関係してそうだな」
「やはり、そう思いますか」
「うむ……さらに勇者と聖女を呼ぶ者——教会か。やはり、奴らは何らかの企みがあると思って間違いないな……我が国も含めて」
(俺を狙う理由もそこにあるかもしれない。だが、俺が闇魔法を使えることは漏れていないはず……では、なんだ? 何をもって、俺やロナードを狙う?)
「そういえば、ライル兄上が父上から話を聞けと……」
「そうか、奴にも会ったか。どうだ? お前の目から見て」
「立派になったかと。傲慢さもありますが、よく言えば威厳があるとも言いますし。あとは、周りに緩和剤のような方がいれば上手くいくのでは? そうですね……優しくて人を惹きつけるような」
「なるほど、俺と同意見か。ならば安心だな」
「父上、俺は子供ですよ?」
「くく、俺には通用せんぞ?」
「参りましたね……」
(でも、この感じ……懐かしくて、楽しいなぁ)
「さて……本当ならもっと楽しい話をしたかったが……そうもいかんのだ」
「そうですね。それは、そのうち訪れるように努力しましょう」
「うむ、そうだな。結論から言うと——宰相が死んだ」
「……何ですって?」
「冗談でも何でもなく、これは紛れも無い事実だ」
「そうですか……」
(つまり、国の内政をまとめる者が死んだということか)
「おそらく、宰相は教会の者だったのだろう」
「……グロリア王国と同じですね」
「ああ、時期はこっちの方が早かったがな」
「何をして発覚したのですか?」
「……エリナやエリカを殺そうとした」
「なっ——!? 俺は聞いていませんよ!?」
「落ち着け! お前はもう会っているだろう? つまり、全員無事ということもな」
「そ、そうですけど……」
(カグラやセレナの手紙にも、一切書いてなかったし……帰った時も、誰もその話をしなかったじゃないか)
「すまんが、お前には黙るように言っておいた。だから、責めないでやってくれるか? 俺なら、いくらでも殴っていい」
「そういうことですか……まあ、そんなことはしませんけど」
「もちろん、お前に心配や負担をかけないためでもある。これには、みんなが賛成した」
(確かに、その話を聞いていたら……俺は何が何でも国に帰っていたかもしれない。無事だとわかっても尚、実際に見るまで不安は消えなかったはずだ)
「……わかりました。それで、何がどうなったのですか?」
「うむ。奴は暗殺者に加えて、ならず者まで雇っていた。そして、それをあの家に差し向けたということだ」
「なるほど……よく防げましたね? カイゼルがいるとはいえ、多勢に無勢では?」
「オルガもいないし、カグラもいなかったが……セレナがいたからな」
「セレナが?」
「ああ、凄かったらしいぞ? 師匠であり上司であるコルンと共に……」
「ま、待ってください。コルン……先生がなんで?」
「そういえば、お前は知らなかったか」
そこで俺は、初めて知った。
コルン先生が、俺たちの皇族のお守りをしていたこと。
それが俺で終わり、その後本職である宮廷魔導師に戻ったこと。
そして、セレナの師匠兼上司になっていたこと。
父上の命令で、俺の家族を守っていたとなどを……。
「そうだったんですね……俺たちは知らないところで守られていたんですね」
「当たり前だ。お前を含めて、大事な子供達だ」
「父上……ええ、そうですね。とりあえず、理由はわかりました」
「さらには、アスナの実家が手伝ってくれた。忠誠心を示す絶好の機会だと言ってな。おかげで、暗殺者共に遅れを取らなかったということだ」
「そうですか……」
(どうやら、嘘ではなかったということか。それにしても、これからも気をつけなくてはいけないな……俺の全てをかけて守ってみせる)
「おい、アレス」
いつのまにか、父上が俺の目の前に来て……俺の顔を軽く叩く。
「な、なにを?」
「そんな怖い顔をして思い詰めるな。言っておくが、お前は心配しすぎだ。お前がいなくとも、みんな成長しているし、俺たちとて無能ではない」
「わ、わかってますが……」
「もっと周りを頼れ。セレナもカグラも、お前に頼られたいと思って今日まで頑張ってきたはずだ。もちろん、オルガやカエラもな。話は聞いただろ?」
「……はい」
そうだ、ここに来る前に言われた。
俺の力になるためにと……俺は馬鹿だ。
「まあ……お前の強くなろうとする意志、守ろうとする意志は立派だ。しかし、周りもそう思っていることを忘れるな」
「はいっ!」
「うむ、良い顔だ……おっと、肝心なことを言ってなかったな」
「えっ?」
「アレス、よく無事に帰ってきた。成長したお前の姿を見れて、父として嬉しく思う」
そう言って、父上が頭を撫でてくる。
その姿、言動は……俺の尊敬する男そのものだった。
俺は気恥ずかしくも、大人しく撫でられるのだった……。
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