青年期~中編~

123話 皇太子と再会

 覚悟を決めた俺は、父上の元に挨拶に向かう。


 そして、城への橋を渡っていると……。


「おい、アレス」

「あ、兄上?」


 そこには護衛を連れた皇太子がいた。

 その姿は、もはや子供ではない。

 威風堂々たる立ち姿、成長した肉体と大人びた顔。

 それもそうだ、すでに成人を迎えているはずだ。

 俺は参加していないが、儀式も行なったと手紙には書いてあった。

 つまり……正式に皇太子ということだ。



「おい、お前たち。俺はアレスと話がある。人払いをしろ」

「はっ!」


 護衛達が、俺とライル兄上だけの空間を作る。


「さて……色々と大暴れをしたらしいな?」

「まあ……半分は成り行きというか」

「ふん、どうせお人好しのお前のことだ。その第二王子に肩入れしたのだろう?」

「間違ってはないですね」

「大臣共が、戦々恐々としてたぞ? 自らが皇位に就くために、あちらの国王を味方につけたのではないかと。さらには、姉上とその旦那と手を組んだと」


(……やっぱり、そう思われてるか)


「そんなつもりはないんですけどね」

「ふっ、わかっている。しかし、あいつらは自分の考えていることが正しいと思い込んでいる。この後、どうするつもりだ?」

「兄上は?」

「質問に質問で返すな……と言いたいところだが、許すとしよう。俺は正式に皇太子になった。そして、これから国の内部へ入り込む。腐った者どもを排除しつつ、皇帝としての道筋を示すつもりだ」

「そうですか」

「今はうちの国も色々あってな……」

「えっ?」

「いや、これは父上から聞くといい。で、お前は?」


(……なんだ? 何かあったのか? ……まあ、いい)


「では、俺は強くなります」

「ほう?」

「たとえ、何があろうとも大事な人達を守れる強さを」

「……貴様らしいな。しかし、皇帝の器ではない」

「そうかもしれませんね。では、それは兄上にお願いします」

「ははっ! ……ああ、任せておけ。では、お前は外側で頑張るということだな?」

「ええ、魔物退治につくかと思います」

「そうか、ならば良い。俺のために役立ててやる。では、行くといい」


 それたけ言って、兄上は城に戻っていった。


(別に一緒に行けばいいのに……まあ、馴れ合うつもりはないってことだね)


 俺としても、それで構わない。


 兄上がきちんと国を治めてくれるなら、それに越したことはないしね。




 そして、城に入ると……。


「ゼノさん」

「お久しぶりでございます、アレス様。随分とご成長されましたね」

「ありがとうございます。ええ、研鑽を積んできました」

「……どうやら、留学して正解だったようですね」

「えっ?」

「顔つきが違いますから。迷いは晴れましたか?」

「どうでしょう……でも、俺の大切な人達に恥じない自分になろうと思います」

「そうでございますか……おっと、失礼いたしました。皇帝陛下がお待ちしておりますので、私についてきてください」

「はい、お願いします」


(……なんで、わざわざゼトさんが待っていたのかはわからないが。まあ、ついていけばわかることだな)






 その後、城の中を歩いていると……。


「お、おい、アレス様か?」

「随分と大きくなって……まるで銀髪の貴公子のようだ」

「我らがアイドルの婚約者……悔しいが、お似合いだ」


(アイドル? なんのことだ?)





 気になるが、そのままついていくと……。


 普段の私室ではなく、謁見の間に到着する。


(なるほど……つまりは、皇帝陛下と皇子という立場ってことだ。そのために、ゼノさんを迎えに寄越したってことか)


 俺は意識を切り替え、意識的に背筋を伸ばす。


「アレス様、武器をお預かりいたします。そして、このままお進みください」

「はい、わかりました。案内、ありがとうございます」


 俺は武器を手渡し、謁見の間を進んでいく。

 皇子である俺は下を向く必要はないので……。

 あえて、堂々と歩いていく。



 そして、居並ぶ大臣達の視線を感じつつ、皇帝陛下に膝をつく。


「アレス、立ち上がり話をすることを許可する」

「はっ、皇帝陛下。第三皇子アレス、ただ今帰還いたしました」

「うむ……第三皇子アレスよ、よくぞ帰った。元気そうで何よりだ……それに、随分と逞しくなった」

「ありがとうございます。皇帝陛下もお変わりなくお元気そうで何よりです」

「他国でのお主の話は聞いている。大活躍だったそうだな?」

「いえ、私など大したことはしておりません。しかし、この国のために全力で対応いたしました」

「そうだ。もし、あのまま第一王子が王位についていたら、我が国まで混乱に巻き込まれる可能性もあった。さて……褒美をやらねばならんな。何が良い?」

「そうですね……戦う機会があればと」

「ほう? 国の内政には興味ないと?」

「はい、そうですね。それは皇太子にお任せいたします」


 その瞬間——大臣達の顔色が変わる。


(ん? 何かまずいこと言ったか?)


「そうか、わかった。それを聞いて余も安心だ。皇子として、皇太子を支えてやってくれ」

「畏まりました」

「では、役職は追って知らせる。ひとまず、下がるといい」


 俺は一礼をして、謁見の間から退出する。






「ふぅ……」

「お疲れ様でした。大変ご立派だったかと」

「ゼノさん、ありがとうございます」

「それでは、案内するのでついてきてください」

「あれ? まだ何かあるんですか?」

「ふふ、皇帝陛下の相手をしてあげてください。ずっと、待っていましたから」

「そういうことですか。仕方ない父上ですね。ええ、わかりました」

「素直じゃないところなんかは、相変わらずそっくりですね」

「……そうですかね」

「照れ屋なところもですね」






 その後、皇族と近衛騎士のみが入れる場所へと案内される。


「では、少し部屋でお休みください。後ほど陛下が来ますので」

「わかりました。では、少し休ませていただきますね」



 俺は部屋に入り、ソファーに腰をかける。


「ふぅ……流石に疲れたな」


 帰ってきてから、ここまで休み無しだし。


(ゼトさんが見張りにつくなら安心だし、少し休ませてもらうか)


 俺はソファーに身を委ね、微睡みの中へ沈んでいく……。




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