幕間~その3~

 ひとまず、家に入り……。


 レナに、それぞれ自己紹介をする。


「師匠の母上様と、師匠の妹君……師匠の師匠と、師匠の婚約者……覚えたのじゃ!」

「あと何人かいるけど、ひとまずはそんな感じ。レナ、今度は君が挨拶しなさい」

「はいっ! コホン……我が名はレナ-グロリア! グロリア王国の王女なのじゃ! そ、その……よろしくお願いします」

「おいおい、偉そうにしろとは言わないが……一定してくれ」

「うぅ……難しいのじゃ」

「あらあら〜可愛い子ね」

「少し人見知りなので……まあ、慣れるまでは許してやってください」


 すると……エリカがトコトコ歩いてくる。

 そして、俺の膝に乗ってくる。

 しかも、顔を膨らませている。

 ヤダ、なにこれ——可愛い。


「お兄ちゃん!」

「うん?」

「お兄ちゃんの妹はわたしなの!」

「そうだな」

「その女はなによ!」

「おいおい、ヒルダ姉さんみたいなこと言って……エリカ、この子にも兄がいるんだ」

「ふえっ?」

「でもな、 今は会うことができないんだ」

「……わたしみたいに?」

「ああ、そうだ。にいちゃんは、エリカに仲良くして欲しいと思ってる」

「むぅ〜……わたし、お兄ちゃんに会えなくて寂しかった」

「ああ、俺もだな。そしてこの子と、その兄も同じだ」


 俺がエリカの頭を撫でてあげると……。

 エリカがひょいっと、膝から降りて……。


「えっと……いくつですか?」

「へっ? は、八歳なのじゃ!」

「わたし、エリカ! 五歳なの! 貴方がお姉さんね!」

「えっ?」

「遊ぶの! いこ!」

「わぁ!?」


 エリカに引っ張っられ、レナは庭へと連れ出される。


「カイゼル! レナお姉さんと遊ぶの!」

「御意。では、お守りしましょう」

「よ、よろしくなのじゃ」


 カイゼルがいるなら安心だ。

 それにしても……。


「成長したなぁ……気配りまで覚えて、人の痛みをわかる子になって……」

「ふふ、そうでしょ? お兄ちゃんに、褒めてもらうんだって頑張ってたわ」

「そうなんですよ。私にも、勉強教えてって」

「拙者がくるたびに、戦いを教えてと言われましたね」

「そっか……後で、もう一度褒めるとしよう。さて……それで?」


 肝心なことを、まだ聞いていない。

 ただ空気感からいって、深刻な様子はなさそうだ。


「実は、オルガ君がカエラを連れて領地に行ったんだけど……」

「結婚の挨拶ですか?」

「その前の段階ね。まずはお付き合いの許可と、顔見せね」

「なるほど……」

「それで上手くいって……『アレス様にいい報告が出来ます』って、二人して喜んでいたんだけど……」

「……なにがあったのです?」

「2回目の挨拶の時に、カエラちゃんの親戚の方が現れて……どうやら、アラドヴァル家に代々仕える鍛治職人だったらしいの」


(確か、カエラは父親と二人きりで過ごしていて……ならず者に父親は殺され、カエラは彷徨っているところを母さんに拾われたんだったな)


「それはいい事なのでは?」

「ええ、相手も悪い方ではなかったみたいで。ただ、魔剣はどうした?って」

「魔剣……確か、カエラの父親は神を殺す刀を作るとか言ってたらしいけど」

「ええ、今ある刀はアレスにあげたでしょ?」

「ええ、俺が持っていますね」


(一本は俺が、もう一本はアスナにあげている)


「それは、まだ未完成らしいの。それで、完成品を作成したいって言われたらしく……」

「それをカエラが知っていると?」

「……実はね、あの子には火傷の跡があるの」

「……そうだったのですか。それが……いや、暗号?」

「ええ、そうらしいの。でも、カエラもお年頃でしょ? 男性に背中を見せるのもアレですし……ただ、最近色々ときな臭いらしいの。教会もそうだし、魔物の出現率が高かったり……アレス様に必要になるかと思うって」

「そうですか……」


(確かに、色々ときな臭い。不確定要素もある。武器に頼るつもりもないが……あの教会騎士を斬るのは、全魔力を注いでやっとだった。もう一度戦うとなると……)


「だから、引き受けることにしたって。その代わりにオルガ君がいる時だけ、その暗号解読をして良いってことで」

「なるほど、それが二人がいない理由ですか」

「ええ、二人とも貴方のためになるならって……」


(カエラ、オルガ……俺のために)


「わかりました。では、俺はその期待に応えられる人間になりましょう」

「えっ? ア、アレス?」

「皇位継承に絡むつもりは毛頭ありません。しかし、皆に誇れる自分でありたいと思っています。新しい友、新しい命、これまで出会った大切な人達のために」

「アレス……そうなのね、何かを決めたのね。ええ、わかったわ。私達のことは気にしないで、自分の好きにやりなさい」


 すると、カグラとセレナが顔を見合わせて……俺の前で膝を折る。


「アレス様! その言葉をお待ちしておりました! 我が剣は貴方だけのために! 如何様にもお使いください!」

「私もです! そのために魔道士になったんです! アレス様の力になりたいから!」

「そうか……ああ、では頼らせてもらおう。可愛い婚約者よ」

「はぅ……」

「あぅぅ……」

「あらあら〜、すっかり声も低くなって……骨抜きね」


 そうだ……俺は大人しく過ごすつもりだった。


 しかし、どうやら俺を狙う者がいる……。


 俺が死ねば、悲しむ者がたくさんいる。


 大切な人を悲しませないためには……それしかあるまい。


 ならば……良いだろう。


 かかってくるというなら来い。


 最強を目指し、その全てを——粉砕する!







 ◇◇◇◇◇◇



 ……久々に見たなぁ。


 教室の窓際の席で、今日の内容を思い出そうとする。


(あのアレスって子……大きくなってた)


 それにしても、チャラい感じよね。

 二人の婚約者がいるのに、愛人候補と幼女までいるなんて。

和馬さんだったら、ひとりの女性を愛してくれるのに……なにを言ってるんだろ。

あの子は夢の子だし、和馬さんと比べても意味ないよね。


 すると……中村将吾が近づいてくる。


「結衣、どうした?」

「別に何でもない。というか、名前で呼ばないで」

「そ、そんなこと言うなよ。なんか、最近変な夢を見てさ……」

「えっ?」

「なんか……女神みたいな美女が出てきて……質問をされてさ……」


……私とおんなじ? いや、そんなわけないよね。


「そう……大変ね」

「おいおい、俺は真面目にだな……」


 それを聞き流していると……いきなり、胸が痛くなる。


な、なに!?


 そして……一瞬だけ、何かが聞こえた。


……時は近い? 何のこと?


 何だろ? 妙な胸騒ぎを感じる……。





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