幕間~その2~

 無事に、フラムベルク領を通り抜け……。


 懐かしの皇都が見えてくる。


「……帰ってきたか」

「なんだか、あっという間でしたねー」

「なんとか、生きて帰ってこれましたね」

「うわぁ〜! すごいのじゃ! 王都よりもおっきいのじゃ!」


(確かに、あっという間だったし、よく生きて帰ってこれたな……)


 俺はこれまでの旅を思い出そうとして……やめた。


 いずれにせよ、みんなに話す必要があるし……。


 一刻も早く、みんなに会いたいから。







 受付の門に到着すると……。


 俺は馬車の中から、御者の方に移動する。


「こ、これは! アレス様!」

「すぐにご案内しろ!」

「はっ! アレス様! 先導するのでついてきてください!」


(うん? 何やら大げさだな? 何かあるのか?)


「わかった。ダインさん、言う通りお願いします」

「はい、アレス様」


 その後、都市を進んでいくと……。


「おおっ! アレス様だっ!」

「なんでも、グロリア家の王位継承に一役買ったそうだ!」

「民の間で人気のロナード殿下が王位についたって話だ!」

「流石は、セレナ様の婚約者だ!」

「それを言うなら、カグラ様の婚約者だぜ!」


 都市の人が馬車の周りを囲んでいる。

 おそらく、そのために兵士が先導しているのだろう。


「なんだ?」

「どうやら、我々のやったことが広まっているようですね」

「ああ、それはわかる。しかし、カグラとセレナか……」


(何をやったかわからないが……どうやら、あの二人も頑張っていたようだな)




 ある程度進むと……。


「では、アレス様。私は、一度実家に帰ってみますねー」

「ああ、わかった。そのうち挨拶に行くと伝えてくれ」

「いえ、こちらから行きたいって言われると思いますよー」

「まあ、どちらでも良い。とりあえず、よろしく伝えてくれ」

「はいはーい」


 馬車から飛び降り、颯爽と人波を駆け抜けていく。







 人々に手を振りつつ、我が家の前に到着すると……。


「「アレス様!」」


 見違えるように綺麗になった二人の婚約者が駆け出してくる。

 俺も馬車から飛び降り、同じように駆け出し——強く抱きしめる。


「ひゃあ!?」

「きゃっ!?」

「おいおい、悲鳴をあげるなんて酷いな」

「で、で、ですが……」

「あ、あわわ……」


 二人共ガチガチになってるので、仕方ないので離れる。

 そして、その姿を眺める。


「カグラ、綺麗になったな」

「ひゃい!? あぅぅ……あ、ありがとうございます」


 カグラの目線の高さは、ほとんど俺と一緒だ。

 抜かされていなくて、少しホッとしてる自分がいる。

 トレードマークである紅髪は相変わらずポニーテールのままだ。

 もしかしたら、俺が好きだと言ったのを覚えていたのかもしれない。

 顔は以前より大人びて、可愛さより美人度が増している。

 男性用の青い騎士服を着て、手足はすらっと伸び、まるでモデルさんのようだ。


「セレナ、一段と可愛くなったな」

「にゃい!? はぅ……ありがとうございます」


 セレナの身長は、俺の頭一個分くらい下にある。

 どうやら、身長は伸びなかったようだが……胸がどえらいことになってる、

 ゆったりとした緑のローブを着ているが、それでも隠しきれていない。

 顔は愛らしいままに、少しだけ大人へと変わっていた。

 トレードマークの青い髪は、サイドテールになっており、可憐さが増した気がする。


「おっと、肝心なことを忘れてたね——ただいま、二人共」

「「おかえりなさい!!」」


 その笑顔を見て……つい、それぞれの頬に軽くキスをする。


「「あぅぅ……」」

「あらあら、随分と男が上がって」

「お兄ちゃん!」

「おおっ! エリカ! 大きくなったな!」


 家から飛び出してきたお姫様を抱き上げる。

 そうすると、頭でグリグリとされる。


「えへへ! お兄ちゃんもカッコいいよ!」

「おおー! そうかぁ! お前は可愛いなぁ〜!」

「きゃはー」


 一年経って、舌足らずな感じがなくなったかも。

 それが嬉しくもあり、少し寂しくもある。

 でも、ここは喜ぶところだと言い聞かせる。


 そしてその後を追って、母上が歩いてくる。

 その後ろには、カイゼルがいる。

 カイゼルは軽く視線だけ合わせると、庭の中へと戻っていく。


(相変わらずだなぁ……まあ、カイゼルらしいか)


「アレス、お帰りなさい」

「母上、ただいま戻りました」

「ふふ……すっかり男の人になって……あら、私より背が高い……本当に大きくなったわ」

「俺も、もうすぐ十四歳になりますからね」

「そうよね……あら、やだ……ごめんなさい」

「お母さん? どっか痛いの?」

「ううん、嬉しいのよ」

「母上、ご心配をおかけしました」

「ううん、いいのよ。無事に帰ってきてさえくれれば」


 俺と家族がそんなやり取りをしていると……。


「やれやれ、相変わらずエリナ様には敵わないのだ」

「えへへ、仕方ないよ。もっと言えば、エリカちゃんにも」

「負けられないのだ」

「うん! そうだね!」

「二人にも、お兄ちゃんは渡さないもん!」

「おいおい、困ったなぁ……」

「ふふ、楽しいわね」


 そこで俺は、ずっと気になってたことを聞く。


「母上、カエラは?」

「それが……とりあえず、中に入りましょう。後ろの子も、紹介してほしいし」

「そうだった。レナ、こっちに来てくれるか?」


 ダインさんと一緒に、恐る恐るレナが近づいてくる。


「あ、あの!」

「まあ! 可愛らしい子ね!」

「むぅ……お兄ちゃん、誰?」

「ああ、きちんと紹介するから。レナ、挨拶は入ってからにしよう」


 俺たちは、ひとまず懐かしの我が家へ入るのだった。



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