幕間~その1~

 グロリア王国を出た俺たちは、無事にフラムベルク侯爵領に到着する。


 すると……あの人が待ち構えていた。


「アレス!」

「おっと……姉上、相変わらずですね」


 飛び出してきた姉上をしっかりと受け止める。


「あら……大きくなったわねっ! もう目線が違うわ!」

「まあ、俺も十四歳になりますから」

「……あっという間に大きくなって。もう子供扱いはできないわね」

「いえ、して頂けると嬉しいですけどね。ヒルダ姉さんにとっては、俺はいつまでも可愛い弟のつもりですから」

「ホント!? やったわ! ……ところで、その可愛い子は誰?」

「は、初めまして! レナ-グロリアと申します!」


 レナはガチガチに緊張しているようだ。

 無理もない、見ず知らずの土地に一人で来たんだしな。


「姉さん、この子は俺の弟子になったんだ。これから一年ほど預かる予定なんだ」

「そうなのね……ヒルダ-フラムベルクよ、よろしくね」

「は、はいっ! か、カッコいいですねっ!」

「あら! 良い子じゃない!」

「うひゃあ!?」

「姉さん、抱きしめるのはほどほどにね……」


 すると……あの方も歩いてくる。


「ロンド義兄さん、お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりですね。アレス殿もお元気そうで。それにしても、成長しましたね」

「自分ではあまりわからないですけどね」

「身体や見た目は当然として……立ち姿が違いますね。何か成果がありましたか?」

「ええ、まあ……少し人払いはできますか?」

「ふむ……わかりました。一応、事の顛末はロナード殿から聞いていますが、アレス殿からもお聞かせください」

「アスナ、ダインさん」

「はーい、お任せを〜」

「ええ、我々が見張りをします」


 後ろにいた二人に見張りを頼み、大きな木の下で三人で密談をする。


「ヒルダ、この上に」

「あら、ありがとう」


 ごく自然に、ロンド義兄さんがヒルダ姉さんが座る場所に布をひく。


へぇ……自然な空気感だし、仲も良さそうだ。

本当に良かった……それに、父上にも良い報告ができそうだね。


「姉さん、もしかして……?」

「あら、気づかれたわね。そうなの……子供ができたわ」

「お、おめでとうございます!」


やっぱり、そうだったか。

少し空気が柔らかくなったし、二人の雰囲気も違ったし。


「あ、ありがとう……私に育てられるかな?」

「ええ、出来ますよ」

「でも、私も母上みたいに……」

「平気ですよ、姉さん。貴女なら立派な母親になれます。俺が保証しますよ」

「アレス……うん! 頑張るわ! アレスが言うんだもの!」

「すみません、アレス殿。本来なら、私の役目なのですが……」

「いえ、こちらこそ出しゃばって申し訳ない」

「いえいえ、本当に助かります。生まれてくる子も、可愛がってくれますか?」

「ええ、もちろんです」

「ふふ、良かった」

「ええ、本当に」


そっか……子供がいるんだ。

こりゃ、無茶しないように釘を刺しておかないとね。


「それでは、本題に入りましょう」

「ええ、こちら側では……」


 一連の流れと、ロナードにも話した推察を伝える。


「なるほど……この世界がおかしいと思う人が増えたのは嬉しいことです。それが、ブリューナグ家の嫡男なら尚更のこと。そして、ロナード殿が王位にですね。いや、望んではいましたが……こういう形になるとは」

「ええ、俺としても色々と驚きがあります」

「教会……やはり、何かしらの考えがあるということですね。そして、我が家に関係するかもしれない話ですね?」

「ええ、歴史は教会によって捻じ曲げられてきたのではないかと」

「……ふむ、それが我が家が皇位を継承する家だと主張する理由なのかもしれないと」

「あくまでも推測の域でしかありませんが……」

「いえ、貴重なご意見でした」


 その後も色々推測はするが、答えが出るわけではないので……。


「それは、ひとまず置いときまして……我々の方も、少しずつ前に進んでいます」

「あのねっ! ロンドにも味方が増えてきたの!」

「いえいえ、それもヒルダのおかげですよ。街の者や、領地で働いてる役人や兵士にも大人気ですからね」

「はは、相変わらずですか。姉さんは、昔から人気者でしたからね」

「むぅ……私は、別に普通にしてるだけよ」

「姉さん、それが難しいんですよ」

「ええ、全くです」

「二人して……まあ、仲良しならいいわ」


 俺とロンド義兄さんは、顔を見合わせて……微笑む。

 きっと、似たような気持ちなのだろう。


「なるほど……それでは、後継に近づいたと?」

「ええ、一応ですがね。いち早く子供も出来たことで、父上の関心が向きましたね。どうやら、ヒルダのことも気に入った様子で……これは驚きましたね」

「何をしたんです?」

「普通よ? お庭で剣をふるっていたから、思い切ってお相手をお願いしたわ。そしたら、笑ってくださったわ」

「ははっ! それはそうですよね!」


まさか、相手も皇女が剣を振るうとは思うまい。

いくら噂で色々聞いているといえ……相変わらず、型破りな人だ。


「父上に言われましたよ……『お前には戦う力はない。しかし、それを補う頭脳がある。そして、良い妻を迎えたな。強く、気高く、人を惹きつける……お前に足りなかったものだ』と。ヒルダを選んだのは間違いじゃなかった」

「ふふ〜そうでしょ?」

「ええ、ありがとうございます」


うん、継承云々はさておき……姉さんが幸せそうで良かった。俺にとっては、それだけで充分だ。つぎは……俺自身の立場を考えていかないとね。





 



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