外伝~カグラとセレナ~

 あれから一年が過ぎようとしてます。


 自分の仕事机の上、わたしは物思いにふける。


(アレス様……元気かなぁ。早く会いたいなぁ……もうすぐ帰ってくるよね?)


「あららー? どうしましたか、セレナさん」

「うひゃあ!?」

「わー、びっくりしました」

「わ、わたしの台詞ですよ!」


 師匠であり上司であるコルンさんは、相変わらず物凄くお茶目な方です。

 今だって、いきなりおっぱいを揉んでくるんだもん。


「ふふ〜こんなにおっきくなって……」

「あのぅ……手つきがやらしいですよ?」

「そのおっぱいと可愛さで……すっかり、男共を虜にしちゃうし」

「うぅー……」


(ここ一年でおっきくなっちゃった……あと、ただ普通に挨拶やお仕事をしていたら……城にいる男の人達に告白されるようになっちゃって……アレス様がいるって言ってるのに)


「まあ、それだけじゃないけどね。貴女、身分に関係なく誰にでも丁寧で優しいから。もちろん、一部の人からは反感をかってるけど……あんなのは放って置けばいいわ」

「コルン先輩……ありがとうございます。でも、それもアレス様の教えてくれたことです。あの方がしていることを真似たに過ぎないですから」


(そう……本当のわたしは利己的な人間だ。別に仮面を被っているつもりはないけど、どこか頭で計算している自分がいる。それに優しくするのは、嫌われるのが怖いから)


「ふふ、それで良いのよ。色々な意味でね」

「……気づいているんですよね?」

「何のことかしら? まあ、貴女の行動がアレス君の評価に繋がることは確かね」

「ええ、わかっています。だから、そのために頑張ってきましたから」


(そうだ……わたしは、アレス様のお役に立ちたい。そしてあの方の隣に立てるような、きちんとした女性に。そのために厳しいお稽古や、魔法の修行、忙しい仕事を頑張ってきたんだもん)


「ふふ、そうよねー。私も教え甲斐があったわ。自分の得意属性の上級魔法をほぼ習得したし、その先も見えてきたわね」

「はい、実戦経験のおかげです」


 宮廷魔導師の仕事は主に帝都の守りと、高位魔物の討伐にある。

 あとは要人警護、書類などの整理、古文書の解読など多岐にわたる。

 特に私は、魔物退治に志願して実戦経験を積んできました。

 強くなって、アレス様をお守りできるように。

 いざという時に、何事にも尻込みしないように。


(何より、アレス様がくれた古文書を少しだけ解読できた。もし使いこなせれば、アレス様の力になれるはず)


「さて……そんな貴女は、今日で見習いを卒業です!」

「……ふえっ? え、えっと、まだ二年経ってないですけど?」

「上級をマスターした貴女は、もう見習いとは言えないから。仕事も真面目だし、評判も良いし」

「でも、平民なのに……いえ、ありがとうございます」

「そう、それでいいのよ。卑屈になることはないわ、貴女が頑張ったからよ」

「コルン先輩……」

「胸を張って、アレス君に会いなさい。今日から、魔導師を名乗りなさい」

「は、はいっ!」


(魔導師は、見習いと宮廷魔導師の間の身分だ。つまり、これで一歩夢に近づいた!)


 これで、胸を張ってみんなに会える!


 えへへ、早く会いたいなぁ……。







 ◇◇◇◇◇◇



 もう、あれから一年か……。


 旅支度をしながら、拙者はこの一年を思い出す。


(この一年は花嫁修行として、料理や言葉遣いを習っていたが……それよりも、鍛錬を優先してしまったな。最近は魔物の出現率も高く、鍛錬するには事欠かなかったが……それを喜んではいけないな)


「カグラ、準備は出来たか?」

「はい、父上」

「この一年、お前は頑張った。苦手な踊りから料理、礼儀作法など……まあ、身につかないものもあったが、それでも無駄にはならないはずだ」

「父上……ありがとうございます」

「強さに関しては、最早心配はいらない。お前の強さは……すでに、俺に匹敵する」

「えっ!? ち、父上にですか?」


(でも、模擬戦では全然勝てないのに……確かに完敗することはなくなったけど)


「もちろん、単純な強さのみだ。魔力強化にいたっては、一流クラスと遜色ない。だが、まだまだムラがあるし、戦い方も真っ直ぐすぎる。もっと、フェイントや駆け引きを学んでいかなくてはいけない」

「は、はいっ!」

「さて……カグラ、お前はもう自分のために生きて良い」

「えっ?」

「あのバカ息子も見つかったことだし、いずれ帰ってくると約束したそうだ。まったく、我が家はアレス様に頭が上がらないな。どれだけの恩があるか……じゃじゃ馬娘に恋を教え、婚約者にして頂き……あのバカ息子を約束通りに探しだしてくださった……!」

「も、もう! 恋とか言わないでください!」


(い、一年前の自分が恥ずかしい……よくあんなに好意を出せたものだと思う。アレス様の顔を思い出すだけで、身体が熱くなる……)


「なんだ? ようやく年頃か? まあ、良い。わかっているな? 我が家は、アレス様に返しきれない恩がある。もしアレス様に何かあれば……お前は家のことよりアレス様を優先しろ。もちろん、我が家も出来るだけアレス様のお力になるつもりだ」

「ええ、父上はここを守る必要があります。お任せください、拙者はアレス様の一の騎士。ようやく、胸を張って言うことができます」


(今までは家のことがあるから、簡単には言えなかった……ても、兄上が帰ってくるなら問題はなくなった)


「長年、済まなかったな。あのバカ息子が帰ってくるまで、この地は私が意地でも守り抜く。魔物がどれだけ出ようとも、教会の者に頼ることなくな。だから、お前は心配しなくていい。代わりに全てを——アレス様に捧げろ」

「はっ! もちろんですっ!」

「よし……では、行ってこい」

「ええ、行ってきます」





 拙者は荷物も持って、玄関に向かう。


 すると……扉の前で母上が待っていた。


「カグラ」

「母上」

「お父さんに言われてるでしょうから、私から言うことはないわ。ただひとつだけ……何があろうとアレス様の味方に」

「ええ、わかっています。フリューナグ家として、あの方の一の騎士として」

「そして、恋人としてもね?」

「うぅ……が、頑張ります」

「ふふ、昔の方が勢いはあったわね? そんなんじゃ、セレナちゃんに負けちゃうわよ?」

「あぅぅ……」

「とりあえず『なのだ』はなおったから良しとします。じゃあ、いってらっしゃい」

「い、行ってきます!」


(ふふ、ようやく会えるのだ……あっ、出てしまった!)


 ……アレス様に会ったら、拙者どうなるんだろうか?


 嬉しすぎて、どうにかなりそう……。

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