122話 帰還の日

 そして、日にちが経ち……。

 いよいよ、帰る日を迎える。

 見送りには、ロナードと護衛のガロン殿だけにしてもらった。

 もちろん、後ろには数名の近衛騎士がいるけど。


(正直言って、俺の人気は高い。ロナードを救ったことも知れ渡っているし、民を守ったことも知られている。でも、良いことばかりじゃない。他国の皇子が人気だと、ロナードも困るし……本国の連中もうるさいしね)


 というわけで、こっそりと帰ることにする。

 人はすぐに忘れる生き物だから、いなくなれば鎮火するだろうし。



「ロナード、お世話になりました」

「何言うか、世話になったのは俺の台詞だ。レナ、しっかり言うことを聞くんだぞ?」

「はいっ! お兄様の言う通りに師匠を支えますわっ!」

「ロナード?」

「なに、気にするな」

「……わかりました。それより、本当にこれをもらっても?」


 カモフラージュのために、俺に褒美を与えると言っていたが……。

 クレイモアタイプ大剣で、無骨な感じだが……おそらく、ただの剣じゃないな。


「宝物庫で眠らせていても仕方ないのでな。然るべき者に使ってもらった方がいい」

「いや、宝物庫って……」

「大丈夫だ、それの許可はすぐに下りた。存在すら忘れていたものらしい。何故なら、なにも斬れないなまくらだという話だが……なのを俺は知っている。書物で確認したからな」


 最後だけ、小声で伝えてくる。

(なるほど……それならそれで使い用はあるな。俺は使えないけど、あの子なら……)


「では、有り難く頂戴しますね」

「ああ、そうしてくれ。使い道はお主に任せる。ほれ、お前も言うことがあるだろう」


 ロナードがガロン殿の背中を押して、俺の前に立たせる。

 その間にロナードは、レナに何かを伝えている。


「う、うむ……ブリューナグ家には行くのか?」

「ええ、もちろんです。まずは帝都に帰って、父上に報告してからですけど」

「俺のことはどうする?」

「ひとまず、皇帝陛下にだけは伝えておきます。なので、ご安心下さい」

「助かる……父と母に、よろしく伝えてくれ。時間はかかるが、必ず帰ると」

「わかりました、必ず伝えますね」

「それと……カグラにもよろしく頼む。そして、妹を頼む」

「ええ、もちろんです。では、義兄さんもお元気で。俺が言うのもなんですが、友であるロナードをよろしくお願いします」

「ああ、任せておけ。借りた恩は忘れない。きっちり返してから、帰るとしよう」





 そして、先に乗り込んでいるアスナがいる馬車に乗り込む。


「では、お世話になりましたっ! ロナード! また会えるのを楽しみしてますねっ!」

「お兄様〜! わたし、頑張りますからっ!」

「二人共! 元気でな! また会おう!」


 こうして、俺たちは一年という滞在を終え、国へと帰ることになった。


 しかし、この時の俺は知る由もなかった。


 その裏側では——悪意が蠢いていることを。









 ◇◇◇◇◇


 ~ハロルド視点~



 ……さて、どう言い訳をすれば良いですかね?


 帰還した私は教皇様に呼ばれて、すぐに向かわなくてはいけない。


「団長、どうします?」


 副官であり、右腕であるギレンが心配そうにみてきますが……。


「多分、平気ですよ。出来たらという指令でしたし、ひとまず証拠を残さずに生きて帰ってきたことを喜びましょう。貴方も、相当苦戦したようですし?」


(あの男がイレギュラーでしたね。たかだか、闘技場のチャンピオンだと侮っていましたね。あの男がいなければ、ギレンがロナードを仕留められたのですが……)


「す、すみません! あの野郎、俺と力比べで退かなかった……チッ、何者だ」


(ナンバーズではないが、聖騎士ではあるギレンと互角の男……ふむ、詳しく調べる必要がありますね)


「いえ、人のことをどうこう言える立場ではないので。まさか、右腕を犠牲にするとは思ってませんでしたし」

「あのクソガキ、団長の聖光気を突き破りやがった……どれだけの魔力量を込めたんだ?」

「私の油断でしたね……やれやれ、世界は広い。さて、行きますよ」






 私達が、教皇様の部屋に通されると……。


 教皇様は空を見上げて、なにやら考え事をしている。


 その姿は白髪で、すでに還暦過ぎているが、遠目からでも覇気に満ちている。


「おや? ナンバー10のハロルドですか。それと、聖騎士ギレンですね」

「教皇様、申し訳ありません」

「も、申し訳ありません!」

「ホホ、謝ることはないですよ——どうやら、神敵の可能性がありそうです」

「「なっ——!?」」


(神敵……それは女神様の敵にして、異教徒を意味しますね。それならば、油断していたといえ、限られた者しか使えない聖光気を破ったことも理解できる)


「といっても、まだ仮定の話ですが。なにせ、神託が降りませんので」


(唯一、教皇様のみが聞けるという神託……邪神の復活や、聖女召喚が近くなると降るという……そして、召喚するには信仰心が不可欠であるらしいが)


「かの者がいるところの流れがおかしいと……色々と不安を煽る手を使ってますが、それが潰されていますし……ターレスからの報告もありましたしね」

「そうなのですね」

「ですが、女神様とて万能ではありません。我々のために邪神を抑えてくださってますし、下界に干渉することも難しいと聞きます」

「なるほど……それで、私達は?」

「ひとまず、罰はなしにしましょう。こちらもイレギュラーが多かったので、きちんと命令を出来ませんでしたから」


 ギレンと視線を合わせ、ひとまず安心する。

 この方がその気になれば、私達など消し炭することは容易いからだ。

それに、この方の恐ろしさは……もっと別にある。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「ほほ……しかし、腕がないのは不便ですね——では」


 教皇様の杖が光り……それが収まった時——。


「おおっ! 団長の腕が治った!」

「教皇様、ありがとうございます」


(ナンバーズの中に使える者もいますが、出来れば頼りたくなったので助かりましたね)


「いえ、貴方には期待していますからね。大体血の濃い者は精神に疾患を抱えていますが、貴方はマシな方ですから。これからも、頼みますよ?」

「はっ、畏まりました」

「さて……グロリア王国に送っていた者は居なくなりましたね。まあ、弱体化には成功しましたし、ひとまず良しとします。これで、民の不安を煽ぐことが出来るでしょう」

「……ところで、宰相は?」

「あの役立たずは消しましたよ、のこのこと帰ってきて言い訳しかしなかったので。エミリアも帰ってこないということは……そういうことです」


(あのエミリアが……暗殺部隊でも凄腕の一人だった……なるほど、神敵ということに真実味が帯びてきましたね)


「このあと、我々はどういたしますか?」

「ひとまず、休んでください。また命令をしますので」





 そこで話は終わり、私は自室に戻る。


「クク……そうですか、神敵ですか」


(私の腕は治りましたが、斬られた感覚は覚えています。しかし、あの真っ直ぐな目……気に食わないですねぇ——あれを絶望で染め上げたい……!)


「ひひ……ヒーヒッヒ!」


(次会えるのが楽しみですねぇ……)

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