120話推察する

 ……レナを俺が預かるか。


 ロナードの目は真剣で、真っ直ぐに俺を見つめている。


 つまりは……ある程度のリスクがわかった上でということか。


「言っておくけど、俺の立場は弱いですよ? 今でこそ暗殺はこないですが、これから先もそうとは限らないですし」


「ああ、わかっている。しかし、こちらよりは良いと判断した。俺は忙しくなり、とてもレナの相手をする時間もなくなるだろう。そして心配になり、色々なことが疎かになる可能性もある……もはや、たった一人の家族なのだ」


「その……いや、すみません」


「いや、お主の疑問はもっともだ。あの場にいたのだからな。もしかしたら、ライトは兄ですらなかったのかもしれない。確証もないし、レナは父上の面影を残しているしな……まあ、どうでも良い。レナが俺にとって可愛い妹であるという事実は変わらない」


「ええ、その通りかと。血よりも、過ごした時間が家族になるのだと思います」


(俺も前世の記憶があるから、最初は父上と母上の存在に戸惑ってた。しかし、愛情を注いでもらい、共に過ごす中で本当の意味で親子になったのだと思う)


「そうだな……レナが、母親の死にそこまで落ち込まなかったのも含めてな」


「ええ、だから愛情を注いでくれたロナードを慕っているのでしょう……もちろん、俺は構いませんが……それこぞ、本人の意思は?」


「お主の了承を得たので、あとできちんと説明をするつもりだ。幸い、お主にも懐いているし、魔法を引き続き教えて欲しいと思っている。そうすれば、いずれは己の身は自分で守れるようになるかもしれん。何より恥ずかしい話だが、我が国の魔法は遅れている。ここでは、レナを教えられる者がいない」


(なるほど……レナの属性は、地属性だ。才能がある彼女なら、我が国に開花する可能性は高い)


「そうですね……極めれば強力なゴーレムを作れますからね。裏切ることのない強い護衛を得られます」


「ああ、そうなってくれれば良い。しかし我が国にいたら、魔法を覚えるどころではない。貴族どもは、王女であり女であるレナには必要ないと言うに決まってる」


「まあ、そうなりますかね。では、逆に留学という形で?」


「うむ、お主が来たようにな」


「わかりました。では、父上に手紙を送っておきます。まず拒否されることはないです」


「感謝する! これまでの借りは必ず返す。お主が目指すべきものが定まったなら、俺が必ず力になろう」


「ええ、その時は頼らせてもらいますね」


(俺が目指すものか……ドラゴンや闇魔法のこと、教会のこと……それらがある程度わかってからの話だな)









 そして、数日後……。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「ええ、お気をつけて」

「今日は休みにするから、アスナもダインさんもゆっくりしてね」

「ええ、ありがとうございます」

「じゃあ、レナちゃんと買い物でも行ってきますねー」

「わぁ……! 嬉しいのじゃ!」

「レナ、アスナの言うことを聞けよ?」

「わ、わかってるのじゃ!」


 レナは意外とあっさりと、ロナードの提案を受け入れた。

 なんでも、自分が足かせになりたくないと……。

 俺に頭を下げて、お願いをしてきた……親は違うが、よく似た兄妹だ。

 あとは、父上の返事を待つだけだな。




 城についた俺は、ロナードに案内され、国王専用の私室に通される。


「ここが、俺の私室になったが……大変だったぞ」

「えっと……?」

「俺は本当に王になるつもりもなかった。故に、王としての仕事などさっぱりだった。宰相もいないし、多くの大臣たちは敵に回った。終いには、国王にだけ伝わる口伝も聞いていない。幸い、その書物は発見されたがな……まあ、何が言いたいかというと」


 そう言い、椅子の裏にある壁をロナードが触り始める。


「……これでよし」


 すると……壁がへこみ、横へとスライドする。


「隠し部屋ですか……見せても良かったので?」


 何やら手を右に三回、左に二回、下にも二回って感じにやってたけど……。

 多分、特殊な開け方じゃないと開かないタイプだよなぁ。


「お主への信頼の証だと思ってくれ。それに本当に貴重な物は、別のところに保管してあるからな」


「そうですか、では遠慮なく」


「ああ、俺はここで仕事をしている。好きなだけ読むと良い」






 俺は階段を下り………本棚が並ぶ部屋に到着する。


「さて……ドラゴンについて」


 闇魔法、ドラゴン、邪神、女神……この辺りか。


(ドラゴン、それは人々の宿敵である。邪神の眷属であり、見つけ次第殺さなくてはならない)


「ふむ、大して変わりはないか」


(闇魔法、邪神を信仰する魔族が使う異教の魔法。これを扱える者は、女神の敵である)


「おっかないな……ますます、教会にバレるわけにはいかないね」


(邪神、女神と敵対する存在。女神の結界があるおかげで、海の向こうから凶悪な魔物や魔族が入って来れない。ここは人間達の楽園である)


「ん? 我が国にあるのとは少し違うか……海の向こうか……気になるところだ。そして、人間の楽園ね……胡散臭いこと」


(この世界の人にとっては当たり前かもしれないが、俺からしたら違和感だらけだ)


「ん? 闇魔法について書いてある?」


(闇の因子……? なになに……気をつけなさい。闇魔法の使い手と親しくなると、闇の因子を持つことになる。それは女神の結界を揺らがせ、女神の加護を失うであろう)


「これは初めて見るな……」


(つまり、俺と親しくなると闇の因子を持つ? それが結果を揺るがす……まさか、そういうことなのか? 俺が生まれたから、予定より早く結界が揺らいでいる?)


「だとしたら……どうしたら良い? いや、まだ結論づけるには早過ぎる」


(なになに……女神の力は、信仰心によって強化される)


「これも、見たことあるが……具体的にどういう意味だ?」


(まだまだ二ヶ月はある……その間に色々と調べつつ、考えるしかあるまい)


 俺は歴史書なども手に取り、ひさすら読むことに没頭するのだった。

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