119話その後

 こうして、ギリギリ内乱になる前に決着はついた。


 幸いにも、民にはそこまでの被害はなかった。


 あの賊達も、狙いはロナードや俺だったのか、街には手出しをしてなかった。


 だが、犠牲も大きかった。


 宰相が去り、王妃が亡くなり、一部の高位貴族達は死刑になった。


 そのことにより、国の経営が成り立たない危機になった。


 俺はロナードの手伝いをしつつ、国に手紙を送ったり……。


 アスナと共に、魔物退治に出たり……。


 そんな日々を過ごしていたが……。






「ふぅ……ようやく、少しは落ち着いてきたか」


「そうですねー。もう、二ヶ月も経ちますからね」


 二ヶ月経ったことで、グロリア王国も落ち着きを見せてきた。

 もちろん、ここまでくるのには苦労したが……。


「アレス様」

「ダインさん? どうしました?」

「ロナード様がお見えになりました」

「わかった、すぐに行くように伝えて」

「かしこまりました」




 身支度を整えて、待っている部屋に行くと……。


「お兄様! 我もお手伝いがしたいのじゃ!」


 レナが、ロナードの膝に乗って、元気そうにしている。


(良かった……本当に。母親が死んだとわかった時は、塞ぎ込んでしまったが……不幸中の幸いか、元々可愛がってもらっていないことで、そこまでのショックはなかったようだ。それよりも、ロナードが生きていてくれて良かったと……薄情などとは思うまい。いくら生みの親だろうが、愛情を注いでやらなければそうなるのは必然だ)


「待て待て、お前にはまだ早い。今は、しっかりと学ぶ事だ。いずれ、レナの力を借りることもあるだろう」

「ロナード、お疲れ様。ガロン殿も」

「おう、義弟もな」

「うむ、アレスすまないな。結局、お前の力を色々借りてしまった」

「別に大したことはしてないですよ」


 俺はロナードに敵対する貴族からレナの護衛し、遊び相手になったり……。

 引き続き魔法を教えたり、アスナを使って裏切り者を探し出したり……。


「しかしガロンとて、元はお主の国の者だ」

「まあ……でも、本人が望んでいますから」

「おう、俺はロナード、お前の力になろう。まだ、借りは返していない。今ここで父上の元に帰ったなら……それこそ、ぶん殴られてしまうな」


 ガロン殿は、ひとまずここに残る予定だ。

 今すぐに引っ張って、連れて帰ろうかと思ってたが……。

 クロイス殿に手紙を送ったところ、生きているなら良いと。

 そして、恩を返すまでは帰ってくるなと……やれやれ、実直なブリューナグ家らしい。


「それで、どうなりそうですか? そして、教会の者は?」


 そう、俺が残った大きな理由はこれだ。

 奴ら、国が大変だろうから、手を貸そうか?などと言ってきた。

 そんなことになったら益々増長するので、俺は父上の許可を得てロナードに助力していた。


「ひとまず、何も言わなくなったな。しかし、証拠こそないが……奴らが仕組んだことで、何食わぬ顔で助けようなどと言うとは……舐めてるな」

「自作自演の可能性がありますからね」

「うむ……ガロン、レナを部屋に返してやってくれるか?」


 静かだと思っていたら、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


「ああ、良いぜ。よっと……」


 ガロン殿が、出て行くと……。


「アレス、少々二人で話したいことがある」

「……わかった。アスナ、見張りを頼む」

「はーい、私にお任せくださいねー」


 続いて、アスナも部屋を出て行く。


「さて……まずは、感謝する。そして、我が国のゴタゴタに巻き込んで申し訳なかった!」


 いきなり地面に膝をついて、土下座をしてくる。


「ちょっと!? やめてください! 貴方は、もう国王なんですから!」

「だから、人払いをした。お主が嫌がることは承知の上だ。しかし、この一回だけは受け取ってくれ。でないと、俺はお主の友ではいられない」

「ロナード……わかりました。受け取るので、もう立ってください」


 俺はロナードの手を取り、無理矢理立たせる。


「すまんな、アレス。お前には世話になりっぱなしだ。なので、どうしても謝りたかった」

「わかりましたから。前も言ったでしょ? 俺にだって利点があると」

「それだ。ようやく落ち着いてきたので、お主の願いを聞こうと思う。ここには、俺しかいないから遠慮なく言うと良い」

「では……国王しか入れない書斎に」


 そう、それが元々俺がこの国にきた目的だ。

 色々な国の禁書を読み、繋ぎ合わせれば……何か、見えてくるかもしれない。


「なるほど……普段ならあり得ないことだが、特別に許可しよう。ただし……」

「ええ、他言はしないと約束します。たとえ、相手が皇帝だろうとも」

「ならば良い。では、日を改めて調整をしよう。家臣たちにも、知られるわけにはいかないからな。しかし、代わりになる褒美がいるな」

「いえ、それには……」

「いや、怪しまれないためにも必要だ。何より、個人的には足りないくらいだ。こっちで考えておくから、遠慮なく受けとってくれ」

「……では、遠慮なく」

「ああ、そうしてくれると助かる」




 その後は、席について話し合いをする。


「というわけで、これからの予定だが……」

「ひとまず調べ物があるので、しばらく滞在しようと思います」

「わかった。こちらも、なるべく早く調べられるようにする。お主の期間も、あと二ヶ月ほどに迫ってることだしな」

「そうか……もうすぐ一年になるんですね」

「クク、すっかり成長したな?」


 俺の身体は、徐々に大人の身体へと変わってきた。

 声も低くなってきたり、顔つきが大人っぽくなったり、体格が増したり、身長も170近くになった。


「まあ、もうすぐ十四歳になりますからね」

「まだ十四歳だと思うべきなのだろうな。成人していないというのに、すでに大人のようだ。先が楽しみな男よ」

「いえ、早熟なだけかもしれないですし。もちろん、研鑽な重ねていきますが」

「うむ……やはり、お主に頼むべきか」

「なんですか?」

「先程偉そうなことを言ったが……まだまだ国内は混乱している。俺に敵対する者も多く、時間がかかりそうだ」

「ええ、それは仕方ないかと。特権階級の意識を変えるのは至難の業ですから」

「奴らは、俺の弱点をついてくるだろう……レナを」


 そして、一度言葉を切り……ロナードは俺に告げる。


「レナを預かってくれまいか? ——お主の国で」

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