118話決着

 生き残りは……いないか。


 奴ら二人に始末されてしまったようだな。


「チッ! すまねえ!」


「いや、俺も逃してしまいましたから。それに、深追いはしない方が良いです。今回の目的は、あいつらを倒すことじゃないですし」


「まあ、そうだな。けっ、相変わらず気味が悪い奴らだぜ」


「とりあえず、ここは人に任せて、ロナードの所に戻りましょう」


 生き残りの兵士に後を任せ、ロナードの所に戻ると……。


「ライト! 賊を雇い、民に犠牲を出すとは! 貴様には王になる資格はないっ!」


「う、うるさいっ! 平民の血を引くお前よりはマシだっ!」


「我が国に、妾の子が王位についてはいけないなどという決まりはないっ! たまたま、今までがそうだっただけである!」


「黙れ黙れ黙れ………黙れぇぇ——!!


(子供みたいに喚いて……あれでは、自ら王の器がないと言っているようなものだ)


「ロナード、説得は無理そうか?」


「ああ、そのようだ。すまぬな、お前達に敵を任せてしまったのに」


「いや、こちらも逃してしまったよ。さて……橋の鎖は壊してもいいかな?」


「いけるのか? 王城に使うだけあって、頑丈に作られてるぞ?」


 俺は鞘から刀を抜き……。


「ええ、これならいけます」


「うむ……不思議な武器よな。この国では見たことがない」


「作り手が、もうほとんどいないらしいですからね。それも異端だったらしいですから」


「クク、お主にはお似合いだな?」


「ええ、自分でも思います」


「では、任せるとしよう」


「もう一度聞きますが、破壊しても?」


「……仕方あるまいな。ああ、俺からも頼む。急がないと、民や兵士にも犠牲が出てしまう」


「わかりました。では——シィ!」


 気合い一閃……居合い斬りをする。

 鎖は千切れ、グワンクワンと片方の橋が揺れる。


「じゃあ、俺がこっちをやるぜ! スゥ——オラァ!」


「いや! 拳じゃ……まじか」


 ガロンが放った拳は、橋の鎖を粉砕した。


(どれだけ強力な身体強化だ? いや、それだけじゃない。インパクトの瞬間に、腰のひねりと腕の回転を加えていた……これで、弱いと言われていたのか?)


「反対側はどうします?」


「ガロン殿、俺たちを投げられますか?」


「おう、余裕だぜ」


「では、行きましょう」


 片方の降りた橋の先端に来て……。


「では、お願いします」


 まずは、俺が乗り……。


「おう——オラァ!!」


 砲丸投げの要領で、空へと撃ち出される!


「くっ! 届くか!?」


 俺は手を伸ばし……橋の先端を掴む!


「ふぅ……バランスが悪い」


 斜めになっている橋の先端にて。バランスを取る


「アレス様!」

「よいしょっと」


 飛んできたアスナを引っ張り上げると……。


「う、撃てぇぇ! 早く!」


 矢が飛んでくるが……。


「ヤァ!」


 それらは、アスナが防いでくれる。


「早く魔法を撃て! 何をしてる!? 使えない奴らめ!」


「アレス様! 急いでください! 魔法が来る前に!」


「わかってる——シッ!」


 綱渡りのように移動して、左右の鎖を斬った瞬間——


「うひゃあ!?」

「おおっと!」


 とっさにアスナを抱きしめ、地上に降り立つ。


「ふぁぁ……ゾワってしましたよー。おしっこちびってません?」


(俺も懐かしい感覚だったな。いきなり宙に浮いたし)


「おい、勘弁してくれよ」


「あっ——来ますね」


「ああ、だが——問題ない」


 警戒していた魔法が飛んでくるが……。

 軽く動くだけで、容易く躱すことができた。


「威力も精度も低いな……やはり、魔法が弱い国のようだ」


(見習いであるセレナの方が、圧倒的に上だ。これは、ロナードがレナのことを頼むわけだ。ここでは、彼女の才能が育たない)


「何をしてる! 早く魔法を撃て! 弓兵! 何をしている!?」


 上にいる王子が、物凄い形相で喚いている。

 すると……二人もやってきたようだ。


「ライト! 無駄な抵抗はやめよっ! 今すぐに投降せよっ! これ以上、国に混乱をもたらすな! 王だと名乗るなら、それくらいの気概は見せろっ!」


「ふ。ふざけるなっ! お前に投降するくらいなら、死んだ方がマシだっ! それに、この城には蓄えがある! 一年でも、二年でも、籠城してやる!」


「チッ……なんだ、あいつは。あんなのが王太子か」


「耳がいたいな……しかし、どうやら……もうダメかもしれんな」


「ロナード、流石に門は破壊しちゃまずいよね?」


「ああ、もはや材料がわからないからな。それに、いくらお主でも厳しいはずだ。上級にも耐えうる素材だと聞いている」


「そっか……ん? あれ?」


 扉が開いていく……。


「な、何故だ!? 誰が……アランドル!?」

「ライト様、もうお辞めください」

「どうやって出てきた!? 宰相はどうした!?」

「失礼」

「や、やめろ! 俺を誰だと! おい! 誰かこいつを殺せ! 王を拘束しようと……何故だっ! どうして誰もいない!?」

「すでに、貴方のお仲間は捕らえました。もう勝敗は決しましたよ。では、行きましょう」



 その光景を見て……。


「ふむ、近衛騎士団がいない思っていたが……」


「どうします?」


「ひとまず、このまま進むとしよう」




 警戒をしつつ、王城の中に入っていくと……。


「アランドル」

「これはロナード様」

「ヒィ!?」


 ライトを引きずりながら、アランドル殿が待っていた。


「さて、どういうことだ? 近衛騎士が見えなかったが」


「申しありません。我ら一同、牢屋に閉じ込められていたのです……恥ずかしながら、眠り薬によって……」


「いや、俺とて同じ手をくらった……やはり、宰相か?」


「ええ、そのようです。いまだに姿が見えないことを考えるに」


「う、嘘だっ! あいつが……!」


「なるほど……兄上、何を言われた?」


「ち、父上が、お前を極秘で王位につけるって! 母上もそう聞いたって!」


「ほう? それで……殺したのか?」


「し、仕方ないだろう!? 高貴な血を引く、俺が国王になるべきだっ! お前のような雑種ではなく! それを! あのクソ親父!」


「アランドル、王妃は?」


「それが……誰かに刺され、亡くなっておりました」


「へっ? は、母上が? だ、誰がやったんだ!?」


「なるほど……宰相と王妃はグルだった可能性があるか。口封じか?」


「な、何を言ってる!?」


「貴方は……いえ、知らない方が幸せかもしれませんね」


「兄ですらない可能性か……ライト、お前は罪を犯した」


「く、くるなぁぁ——!」


 ロナードが歩き、地面をカラカラと剣を引きずる音がする。


「どんな理由があろうと、父上を殺したお主を許すことはありえない。だが、仮にも兄弟として育った中だ……苦しまないように——俺が始末をつける」


「や、やめ——」


 剣を水平になぎ——ライトの首が宙を舞う。


 その顔は……驚愕に染まっていた。

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