111話決意

 何とも言えない気持ちを抱えて……。


 俺達は、大使館へと帰還する。


 門の前に敵らしき者はいなかったが、一応出てきたところから入る。



「し、師匠……エミリア! あっ——」


「レナ、俺を恨んでも良い……もう、死んでいる」


 すぐさま駆け寄ってきたレナに、俺はそう告げた。


「ぅ……うあぁぁぁ——!!」


「レナちゃん!」


「良いんだ、アスナ」


 俺はレナに叩かれるまま、その場から動かない。


「どうして!? 何で!?」


「お互いに譲れないものがあったからだ」


「き、昨日まで普通だったのに……! お父様も、お兄様もいないし……エミリアもいない……どうしたら良いの……?」


 俺は膝をついて、目線を合わせる。


「レナ」


「ぅ……ごめんなさぃ」


「何も謝ることはない。俺を恨んで良い、理不尽に嘆いても良い。ただ、俺がお前を守ろう。亡きエミリアと、今なお捕まっているロナードに代わって」


「し、師匠……」


「それが友のためであり、エミリアを殺した俺の責任だ」


「し、師匠は悪くないのじゃ……エミリアが裏切ったから……」


「そうだろうか?」


「えっ?」


「元々あちら側だったなら、裏切りとは言わないんじゃないか? あと、伝言を預かっている……聞くか?」


「う、うん……」


「ごめんなさいって……そして、今まで楽しかったってさ」


「エミリアァ……!」


「もちろん、彼女はスパイだし、みんなを騙していたのだろう。でも、過ごした日々に嘘はなかったんじゃないかな? 俺は付き合いが短いからわからないけど、レナならわかるんじゃないか?」


「……我が泣いてると、いつもエミリアが来てくれたのじゃ。お風呂の時も、ご飯の時も、夜眠れない日も……」


「そっか」


「わからないのじゃ……でも、我は楽しかった。エミリアもそうだったの……?」


「それは、俺にはわからない。その答えは、レナの中しかない」


「師匠……うん……なら、そう思っておくのじゃ」


「ああ、それが良い」






 その後食事を済ませ、広い部屋に皆で集まる。


「では、僭越ながら私が纏め役を務めさせて頂きます」


 執事のセバスさんが、皆の前に立ち、話を進めていく。


「今現在、この王都は内乱中です。王太子一派と、ロナード様一派との戦いとなっております。幸い、市民などには被害は出ていません。そして、周辺の国や領地には、まだ情報はいっていないようです。現在、全ての門が閉じられています。しかし、これがいつまでも続くわけはありません。いずれ、そういったことも起きるでしょう」


「なるほど、お話の腰を折るようで申し訳ないが……まずは、セバスさんの立ち位置を確認しても良いですか?」


「ええ、もちろんです。私は、ロナード様とレナお嬢様に忠誠を誓っております。それが、亡き国王陛下の願いだったからです」


「お父様が……?」


「はい、そうです。今だから言えますが……国王陛下は何も、レナお嬢様を嫌っていたわけではないのです。ただ、いずれ道具として嫁に出す貴女に、愛情を注くことを恐れたのです……決心が鈍るからと」


「お父様ぁぁ……!」


 レナの頭を撫でつつ、話の続きをする。


「それで、貴方に頼んだと?」


「ええ、いずれ嫁に出すレナお嬢様のお世話と、敵の多いロナード様の味方になってくれと」


「わかりました」


 これまでの行動から見て、信用しても良いだろう。

 エミリアみたいなこともあるが、全てを疑っていたのではキリがない。


「では、逆にアレス殿の立ち位置を教えて頂けますか?」


「し、師匠……」


 俺は安心させるように、レナに向けて笑顔を作る。


「安心しろ、レナ。ロナードは、俺が救い出す」


「師匠!」


「では、我々に味方してくれるということですか?」


「ええ、そのつもりですが……アスナ、ダインさん、どう思う?」


「そうですねー……王太子が王位を継いだ場合、我が国も困っちゃいますねー」


 そう……おそらく、ターレスが絡んでいる。

 もしくは……教会か?

 いずれにしろ、ろくなことにはならない。


「アスナさんに賛成です。ロナード様が王位を継いだ方が、後々を考えると良いかと思います」


「そういうわけで、こっちは一致しました」


「誠にありがとうございます! これで、少し勝機が見えてきました」


「あと、質問ですが……結局、国王陛下を殺したのは誰なんですかね? あと、王妃様は何をしているのですか?」


「そ、そうじゃ! お母様は!?」


「それは……まだ、何とも言えません。王太子なのか、それともエミリアのような第三者なのか……王妃様は、王城にて王太子とご一緒にいるそうです」


「お、お母様も敵なの……?」


「申し訳ありません、それもわかりません」


「なるほど……ひとまず、ロナードを救出しないことには始まらないですね」


「ええ、しかし……場所がわかりません」


「実は、エミリアさんから最後に言われたことがありまして……王都の外れにある地下牢に囚われていると。俺は信じて良いと思いますが、調べてもらえますか?」


「なんと……いや、その可能性は高いかと。王城の牢屋では、ロナード様を逃がす者がいるでしょう。あえて王城ではなく、他のところに……調べる価値はありそうです。わかりました、では調べてみましょう」


「お願いします」


「いえ、こちらこそありがとうございます……何から何まで」


「気にしないでください、ロナードは友ですから。それにレナは可愛い弟子ですし。何より、おそらく父上もそうしろというかと」


「師匠……ありがとぅ」


「なるほど、皇帝陛下が……わかりました」


 裏にターレスか教会がいる以上、これで良いはず。

 アレが王位を継いだら……必ず、我が国との関係は悪化する。

 しかし……何が狙いだ? 傀儡にする? 戦争を起こす?




「アレス殿? 他に何かありますか?」


 いかんいかん、今はロナードの救出が最優先だ。

 後のことは、その時に考えれば良い。


「いえ、すみません」


「では、ひとまず解散としましょう。すぐに調べさせますので、戦える人達は休息をとってください。いつでも戦えるように」


 それぞれに返事をして、部屋を出て行く。







 その日の夜……部屋のドアを叩く音がする。


「し、師匠……」


「レナ? 入って良いよ」


「し、失礼します……」


「どうした? 眠れないのか?」


「う、うん……」


 そうだよな……まだ七歳の女の子だ。

 父親が死に、味方のロナードが捕まり、実の母親と兄が自分を捕らえようとしている。


「わかった。今日はここで寝ると良い」


「う、うん!」


 もぞもぞ、布団の中に入ってくる。


「えへへ、あったかいのじゃ……」


「ほら、いいから寝なさい。明日から大変だからな」


「はぃ……スー、スー」


 やはり疲れていたのだろう……撫でるとすぐに寝てしまった。


 レナ、安心して寝ると良い……ロナードは、必ず救い出してみせるから。

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