110話決着
静寂の中、風の音だけが聞こえる。
武器を構えたまま、俺たちは一歩も動けないでいた。
俺たち三人とも、正確な一撃で相手を仕留める戦闘スタイルだ。
一度動けば……そんなに時間がかからずに決着がつくことをわかっているのだろう。
「さて……らちがあかないですか」
「ああ、そうだな」
「では、どうしますかねー?」
「では——フレイム」
相手の足元から火柱が上がるが……。
「ふっ!」
軽くステップをすることで、簡単に避けられる。
「行きます!」
その隙をついて、アスナが接近戦を仕掛ける。
「甘いですね」
相手はすぐに武器を構えて、応戦する。
「くっ!」
互いに両手でダガーをぶつけ合い、明らかにアスナが押されている。
俺はその間に、エミリアの後ろに回り込み……。
「ファイアースネーク」
エミリアに固定して、魔法を放つ。
「正確ですね……!」
「この距離なら逃がさない」
手を動かして遠隔操作をする。
「ならば……」
「させませんよー!」
俺の方に対処しようとしたエミリアを、アスナが攻め立てる。
「前と後ろからですか……」
俺は常に一定の距離を取り、エミリアの後ろに回り込む。
アスナは前から攻撃を繰り返す……作戦通りだ。
「これでも攻めきれないですか……!」
「甘いですね、貴女がもう少し強ければ不味かったですが…貴女の実力は知り尽くしています。あとは、アレス殿の魔力が切れるまで待つだけです」
……そう、この遠隔操作には相当魔力を使う。
魔力を出し続けるし、操作する際にも使う。
さて……どこで勝負を仕掛けるか。
それから数分後……。
「アスナ!」
「はい!」
俺の言葉に、アスナがさらに攻め込む。
「来ますか」
「ファイアースネーク!」
もう一体の炎蛇を出現させ、両手で二体の蛇を操る。
「なるほど……それが奥の手ですか、確かにきついですが——ハァ!」
気合いを入れて、片手のダガーでアスナを吹き飛ばす!
「くっ!?」
「セァ!」
返す手で、俺の魔法を切り裂く。
「なんの!」
もう一体をエミリアにぶつける。
「甘いです」
バックステップをして、炎蛇を切り裂さく。
「熱線よ! わが意に従い敵を焼き尽くせ! ——
俺の両手から、熱光線が放たれる!
上級火属性魔法ヒートレーザー、その名の通り炎の熱線を放つ。
「し、知らない技!? ですが……追ってくる!?」
俺はレーザーを放ったまま、両手を動かして相手を追う。
「逃すか!」
「くっ!」
俺のレーザーと、エミリアの追いかけっこが始まり……。
俺の方が先に力尽きる。
「ハァ、ハァ……」
俺は膝をついて、息を切らす。
「あ、危なかったです……そっちが本当の奥の手でしたか」
その後ろから無言でアスナが斬りかかるが……。
「わかってますよ」
すぐに体制を整えて、鍔迫り合いになる。
「くっ!」
「惜しかったですね。アレが擦りでもしてたら、私の身体は欠損していたでしょう」
「も、もう勝ったつもりですかー?」
「ええ、あとは貴女を始末してアレス殿にトドメを刺すだけです——カァ!」
「きゃっ!?」
アスナが吹き飛ばされ、尻餅をつく。
「とどめです」
ダガーを構えて、アスナにとどめを刺そうとする……ここだ!
「
影から影に移動して、アスナの影から飛び出す!
「なっ——!?」
「火龍一閃」
一瞬だけ戸惑ったエミリアに、居合い斬りを食らわせる!
「かはっ……」
しかし、致命傷にはなっていない!
あの状況で、とっさに下がったんだ!
「浅かったか……! アスナ!」
「シイッ!」
俺が授けた小太刀を投げ……それが心臓あたりに突き刺さる。
「ぐはっ……ま、まさか……」
そのまま——仰向けに倒れる。
「ふぅ……危なかったな。アスナ、よくやった」
「ありがとうございます……結構ギリギリでしたねー」
確かに……俺の魔力も残り僅かだし、あれでとどめを刺すつもりだった。
あれも防がれていたら……こっちがやられていただろう。
「ふ、二つの炎蛇からの……炎の熱線……あれが切り札だと思い込んでしまいましたね……まさか、あんな技があるなんて……ゴフッ」
口から血を吐いて、息も絶え絶えだ……もう、長くない。
「それで、お前は何だ?」
「……教会の使いとだけ言っておきます。それ以上は、私の口からは答えられません」
「そうか……では、何か言い残す事はあるか?」
尋問したところで答えるわけがないし……もう、その時間もない。
「で、では……お嬢様にお伝えください……偽りの日々でしたが、と、とっても楽しかったと……あ、貴女の成長を見守ることが出来ずに……悲しませてしまい、申し訳ありませんと……」
……そうだよな。
俺から見ても、二人は仲が良かった。
いくらスパイだろうと、そこには嘘はなかったんだろう。
「わかった、必ず伝える」
「あ、甘い、男ですね……」
「ああ、よく言われる。だが、俺は俺の意思を貫く」
「そ、それが、続けば良いですがね……でも、嫌いじゃないですね……お、お礼と言ってはなんですが……さ、最後に助言しましょう……」
「なに?」
「ろ、ロナード様は、王都外れの地下牢に……王城から右手の方向……もし、助けるなら、早くした方が良いですよ……?」
「そうか、わかった。助言、感謝する」
「いえ……こちらこそありがとうございます……レナお、じょう、さま……」
そして——静かに息を引き取った。
「きっと、本気でレナちゃんのこと好きだったんでしょうね……」
「ああ、そうだと思う」
「複雑ですね……少し気持ちがわかるので」
「うん?」
「私も、似たようなものでしたから。入学する際に、アレス様を観察して報告せよと父から命令されました。どんな行動をしているか、誰と仲が良いかと……まあ、大したことじゃないですけど」
「ああ、言ってたな」
「で、いざ卒業するときに……私は、ご主人様につけと命令されました。どのような人物かを見極めよと……結果的に私は……少しだけ命令違反をします」
「そっか……伝えないつもりか?」
「ええ、私は貴方に忠誠を誓いましたから。貴方は知らなかったですけど、ずっと見ていたんです。そして、その……貴方達を見て、とっても羨ましかった。私だって、楽しく学生生活を送ってみたかった」
「アスナ……」
「でも、良いんです。いま、とっても楽しいですから。理解のある主人、やりがいのある仕事……でも、もしも……スパイになって来いと言われていたら……」
「迷うかもしれないか?」
「はい……きっと、エミリアさんもそうだったんじゃないかなと」
「そうかもね……さて、完全に俺につくということで良いのかな?」
「はい。これからも、誠心誠意仕えさせていただきます」
「わかった、こちらこそよろしくね。言っておくけど、この力を明かしたからには……ビシバシ働いてもらうからね?」
「ええ、それこそが望みです。こんなにやり甲斐のありそうな仕事は、そうそうないですから。何より、ご主人のような人の下で働けるのは幸せですから」
「そうなのか?」
「ええ。無駄に怒鳴ったり、叱責したり、相手のせいにしたりしないですから。何より、私をモノ扱いしないでくれますから」
「そんなのは当たり前のことだと思うが」
「その当たり前が出来ない人が多いんですよ」
「まあ……否定は出来ない」
「さて……では、そろそろ行きますかー?」
硬い空気が無くなり、口調も軽くなる。
「そうだな……死体は持って帰ろう。レナにも……辛いが、会わせてやった方がいいと思う。でないと、実感が湧かないだろうし」
「ええ、それが良いでしょうねー」
俺はエミリアを担いで、その場を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます