109話その答えは……
……玄関ホールの階段から見下ろしてくる彼女の目は冷たい。
あっちが本性ということだろうか?
それよりも、今は……!
「アスナ!」
「だ、大丈夫ですよー」
「俺の後ろにいろ」
抱きあげて、自分の後ろに下ろす。
「あ、ありがとうございます……」
「礼を言うのは俺だ。助かった、今のうちに傷を治しておけ」
「めんどくさいですね。仕留められませんでしたか」
あのナイフは、俺の心臓をめがけて飛んできた。
アスナが咄嗟に庇わなければ、危なかっただろう。
アスナは回復魔法が使えるとはいえ、セレナほどじゃないからな。
「あのタイミングを見計らってたな?」
「ええ、そうです。アレス殿は警戒心も強いし、隙が少ないので。なので、戦闘が終わったところを狙ったんですけど……やっぱり、彼女が弊害になりましたか」
「エミリア! 無視するな! どうしてじゃ!?」
ダインに押さえつけれたレナが、涙を流して訴えている。
「お嬢様、申し訳ありません。私、こっち側の人間なので」
「い、意味がわからないのじゃ! きっちり説明するのじゃ!」
「えぇー……まあ、簡単に言えばスパイだったってことです」
「お、お主は何十年も前からいるのに……」
「ええ、信用を得るためには必要でしたから。幸い、ロナード様に味方が少ない良い時期を狙いましたし」
「なるほど、誰の命令か知らないが……それで潜入をしてたわけか」
「ええ、そうです。まあ、このタイミングでやる予定は無かったんですけど。いやーめんどくさいですね」
「ずっと……嘘をついていたのか? わ、我を笑っていたのか?」
「お嬢様……そうですね、最後にこれだけは言っておきます。まあ、ふつうに楽しかったです。今までお世話になりました」
「エ、エミリア……! ま、まだ間に合うのじゃ! 今からでも……!」
「お嬢様、申し訳ありません。それは出来ないのです」
「うぅー……」
「レナ、覚悟を決めろ。あの目は、覚悟を決めた者の目だ」
「師匠……!」
「さて……やるとするか。アスナ、いけるな?」
魔力を貯めつつ、アスナの回復を待っていた。
「ええ、いけます」
「抜かりがないですね……少し感傷に浸っている間に」
「悪く思うなよ、こっちも死ぬわけにはいかないんだ」
奴の狙いは俺ということは……俺とロナードを殺して、罪をなすりつけるためか?
……それとも、ターレスか? 俺を殺すことによって何が起きる?
「ええ、そうでし」
「
奴が言い終わるまえに、詠唱短縮をして魔法を放つ。
「くっ……! 追尾してくるやつですか!」
俺の炎蛇から逃げるように、窓を突き破って外へと出て行く。
「逃すか! ダインさん! ここを頼みます! アスナは俺についてこい!」
「「了解です!!」」
「し、師匠……」
泣いているレナを、一瞬だけ見る。
「レナ……すまない、俺はエミリアを——殺す」
おそらく、手加減なんかしたら俺がやられる。
何よりあれほどの手練れが、もし俺の大事な人に向けられたら……。
今ここで、確実に仕留めておかないと。
「あっ——」
返事を聞かずに、俺も階段を駆け上がり、窓から飛び出す。
「アスナ、遅れるなよ?」
「ええ、もちろんですよー」
俺の炎蛇は、まだ生きている。
もちろん、その間も俺の魔力は減り続けるが……。
エミリアを見失うよりはマシだろう。
追って行くうちに都市を出て行き、ひと気のない森へと到着する。
「おびき寄せられましたかね?」
「その可能性は高いな」
「どうします? 引き返しますか?」
「いや……ここは、敢えて誘いに乗ってみよう」
「でも、かなり強いですよ? 何度か模擬戦しましたけど、私では勝てないですねー」
「ああ、俺も見ていたが……本気を出していないだろうしな」
「危険が大き過ぎないですか?」
……確かに、勝てるかどうかはわからない。
だが、アレは流石に知られていないはず。
しかし、そのためには確実に仕留める必要があるし……。
アスナに、許可を得る必要がある。
「アスナ、こんな時だが……大事な話がある」
「えっ? ……はい」
「俺は——闇魔法が使える」
「……へっ?」
アスナは、目を見開いたまま固まっている。
……伝えるかずっと悩んではいた。
しかし、先程庇われたことで決心がついた。
アレは、演技では無理なタイミングだ。
命がけで助けようとした彼女に、俺も誠意を示さなくては。
「そ、そうなんですね……だから、なるほど……」
「何か心当たりがあるのか?」
「……学生時代のご主人様を調べている時に、突然消えたりすることがあったんです」
なるほど、俺が透明化を使用した時か。
あの時すでに、アスナは俺を調べていたわけか。
「そうか」
「ずっと、貴方を見ていました。時折見せる暗い影……そういうことでしたか」
「あんまり自覚はないんだけどね。さあ、というわけで作戦会議だ。あいつは、俺が使えることは知らない」
「でも……知られるわけにはいかない?」
「正解だ。使うなら——確実に仕留められる時だけ」
「了解です。具体的には?」
俺は作戦内容を伝える……といっても、シンプルなものだが。
「単純ですけど、効果はありそうですねー」
「ああ、初見であれば通じるはずだ」
「……ちなみに、なんで教えてくれたんです?」
「さっき庇ってくれたろ?」
「ですが、帰ったら他の人に報告するかもですよ?」
「報告する奴は、そんなこと言わないさ。それに、それなら俺の見る目が無かっただけの話だ」
「そ、そうですか……嬉しいです」
「ほら、行くぞ。あんまり遅いと、あっちも動くかもしれない」
そして移動を開始し……森に囲まれつつも、開けた場所にてエミリアは待っていた。
「なるほど……いつでも、魔法は防げたということか」
「いえ、そうでもありませんよ。ただ遠隔操作は出来ないようなので、そこまでではありませんでしたが」
炎蛇は目視してないと操作は出来ないとはいえ、れっきとした中級魔法だ。
それは軽く対処するとは……やはり、侮れないか。
「俺をおびき出すためか?」
「ええ、後々面倒なことになるので。今の追尾で、魔力も減ったでしょうし……まあ、どうにかなるかなと」
「私もいるんですけどねー」
「貴女の手の内は知っているので」
そうか……それを知るために、アスナに近づいていたのか。
「全部は見せてないですよ?」
「ええ、わかってます」
「お前……ターレスを知っているか?」
「……さあ、どうでしょう」
「……まあ、良い。口を割るようなタイプには見えないし」
そのまま、数秒間沈黙が流れ……双方、武器を構える。
俺たち以外誰もいない場所で、戦いが始まろうとしていた。
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