112話潜入
……俺も隣で仮眠を取り、目を覚ます。
ちょうど明け方前あたりか……。
さて、動き出すとするか。
「アスナ」
「はい、ここに」
気配を消して、部屋の隅にいたアスナが動き出す。
「ダインさんを呼んできてくれるか?」
「わかりましたー」
すぐにダインさんがきて、小声で密談をする。
「アスナ、誰も来ないか見張っててくれるか?」
「了解です。じゃあ、扉の方にいますねー」
「アレス様、こんな時間にどうなさったので?」
「ダインさん、今から……俺とアスナでロナードの救出に向かうつもりです」
「えっ? ……調べてからではないのですか?」
「いや、それも考えたのですが……あの場に裏切り者がいないとは限らない」
「なるほど……確かに。あの場に残って、あえてこちら側を装う可能性はありますね」
「ええ、何せ裏切るわけがないと思っていた人物を送り込んでいましたから。他にいても不思議じゃない」
「でも、そこまでする必要があるのですか? 色々と危険が大きすぎますよ。アレス様は帝国の者ですし……薄情ですが、ロナード殿が死んでも……いえ、申し訳ない」
「いや、ダインさんの言う通りだと思う。他国の人間である俺が、そこまでする必要はないかもしれない。これは、俺のわがままだ。自分と似た境遇の二人を救いたいという。ごめんね、色々と」
「いえ……俺は、そういう貴方についていきたいと思ったのです。わかりました、俺もついていきたいですが、隠密行動には向いていませんね」
「ええ、今回はお留守番しててください。そして、レナのそばにいてやってください」
「わかりました」
「では、急ぐとしよう。皆が起きるまでに終わらせたいからね」
「終わりましたー?」
「ああ、終わったよ。アスナ——行くぞ」
「ええ、ダインさん、行ってきますねー」
「ええ、お二人とも……お気をつけて」
俺たちは窓から、飛び降り、まだ暗い王都を駆け抜ける。
もちろん、二人を救いたいという気持ちに嘘はない。
だが、打算的な部分が大きい。
ロナードが王位につけば、禁書を閲覧できるかもしれない。
もしかしたら、何かわかることもあるかもしれない。
その道中にて……ひと気のないところで、一度立ちどまって確認をする。
「闇魔法を駆使して、ロナードを救出する」
「そうなりますよねー。どんなことが?」
「今から試すぞ——闇の衣」
黒い布が俺を覆い隠す。
「わぁ……消えた」
「触るぞ」
俺が触れると、アスナの目に俺が映るはず。
そして同時に、他の人から見えなくなっている。
「あっ、見えました」
「一度、解除するぞ……ふぅ」
「こ、これって、どういう効果ですか?」
「まず他の人から姿を見えなくする。そして、俺が触れた者も周りから見えなくなる」
「す、凄いですね……まさに、密偵に必要な技ですね」
「だが、もちろんデメリットもある」
「それはそうでしょうねー」
「第一に、魔力消費が多い。俺は魔力総量が、そこまで多くない。故に、長時間は効果を継続できない」
俺にセレナほどの魔力量があれば、話は別だったが。
多分、俺とセレナは二倍くらい差があるかもしれない。
「そうなんですか? 上級魔法とか使ってますけど……」
「闇属性は、四属性とは違って魔力消耗が激しいんだ。だからあんまり多用はできない」
「なるほど……」
「あと、存在が消えるわけじゃないから、普通に人や物に当たればバレる。それに、気配察知能力が高い人には気づかれる可能性がある」
「そっか……そう考えると、そこまで使い勝手が良いわけではないんですねー」
「そうなるな。結構、そういう制限が多いんだ。このあいだの影移動だって、相手の了承と目視出来ることが条件だし」
「では、本当にいざって時だけってことですね?」
「ああ、その認識でいてくれ。そもそも、バレるわけにはいかない」
「ですねー……色々と、一発アウトですよね」
「ああ……さて、そろそろいくか」
「ええ……でも、これも罠だったりしません?」
「ああ、その可能性も考えたが……あの土壇場でつくとは思えない」
「私もそう思いますけど……色々難しいですねー」
そう……罠の可能性もある。
しかし、会議している中に裏切り者がいる可能性もある。
何より、動くなら早ければ早いほど良い。
ロナードがいつまでも無事とは限らない。
「ああ、だが……最悪いなくても良いんだ。それならそれで、候補が消えるし」
「そうですねー……ところで、ダインさんには言わないのですか?」
「闇魔法か……ダインさんを信用できないわけじゃないが」
「情報を知ってる人数は少ない方が良いですもんねー」
「そうなんだよなぁ……とりあえず、今のところはいい。おそらく、ダインさんの前で使う機会がはない。言っては悪いが、戦闘面では足手纏いになる」
「本人も言ってましたよー。だから、自分はアレス様が動きやすいように行動するって」
「そっか……有難いな」
屋根から屋根を伝い、再び夜の王都を駆け抜ける。
「城から右手……止まれ」
「ええ、分かってます」
煙突の物陰に隠れて、様子を伺う。
「見張り用の塔があるな——
下級闇魔法である闇の目は、暗闇でも見えるようにする魔法だ。
「兵士が二人か……」
「ええ、そして周辺に建物がありませんねー」
「うん? 見えるのか?」
「ええ、私は訓練してるのでー」
「まあ、それもそうか」
「どうします?」
「出来れば、情報を得たい」
「そうですね」
「そういうことだ……闇の衣」
姿を消して、アスナの手を握る。
そして静かに……見張り台に近づき……。
「なあ、どう思う?」
「あん?」
「ロナード様とランド様のこと」
「そりゃ……ロナード様が殺すわけないよなぁ」
「そうだよな……地下牢にいるんだよな」
「おい? バカな事を考えるなよ? お前も俺も家族がいるんだ」
「わ、わかってるよ……でも、俺はロナード様が好きだったからさ」
「わかるぜ……」
……やはり、完全に敵というわけではないと。
「ぐっ……」
「なっ……むぐ!」
「これで、よしと」
「……うん、平気そうです」
「じゃあ、見張りを頼む」
一人を昏倒させ、もう一人の口を塞いでいる。
「良いか? 静かにしろ——死にたくなければな」
「ウグゥ……」
剣を首に近づけると、こくこくと頷く。
「良し……ロナードはどこだ?」
「……ち、地下牢に」
「何階にいる?」
「地下三階の奥の扉にいるはず……何者だ?」
「俺はロナードを救いに来た者だ」
「な、なら、頼む……あの人は、死んで良い人じゃないんだ……地図なら、懐にある」
「わかった、ありがたく受け取ろう。だが、貴方にはここで気を失ってもらう」
「ああ、そうしてくれると助かる——ぐっ」
ひとまず昏倒させ、懐から紙を取り出す。
「さて……これが地図か」
「ふんふん、内部は狭いですねー」
そして見張りの兵士を避けつつ……。
奥の方へ進んでいくと……。
「……あれだ」
「アレですね」
視線の先には、衛兵が二人立っている。
その真ん中には、人一人入れるくらいの入り口がある。
「地下牢と言っていたから間違いないな」
「ええ、それに一度案内されましたねー」
「そういや……最初の頃に言われたな」
「手はずはどうしますか?」
「俺がいく」
「了解です」
アスナを物陰に隠し、単独で接近する。
「がっ……」
「ぐっ……」
「悪く思うなよ」
二人を昏倒させると……アスナがやってくる。
そして、兵士の懐をまさぐり……。
「鍵はこれですね……良しと」
「じゃあ、いくぞ。こっからはスピード勝負だ」
「ですねー」
覚悟を決めて、俺たちは地下牢へと入っていくのだった。
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