107話後処理

 ……ふぅ、短期決戦に持ち込んで正解だった。


「くっ……」


 思わず膝をついてしまう。


「危なかった……」


 見た目ほど簡単な勝利ではなかった。

 相手が俺を舐めているうちに、最大の力を発揮して短期決戦に持ち込んだ。


「早く仕留める必要があったからな」


 強力である光魔法を多用される前に、そして俺の魔力が尽きる前に。

 あの鎧と光魔法の防御を貫くには、大量の魔力を消費した。

 オリジナルで編み出した『火龍一閃』を使うほどに。

 さらには証拠隠滅のために、『クリムゾン』まで使った。


「長期戦になったら……どうなっていたか」


「ご主人様!」


「アスナ、今なら俺を仕留められるよ?」


「まったく、そんなことしませんよー。ほら、行きましょ」


「ありがとね」


 肩を借りて、ロナードの元に向かう。




「アレス殿!」


 そこには全身血まみれのロナードがいた。

 そして、無数の屍も……その中には、一般人もいる。


「お怪我は……なさそうですね」


「ああ、何とかな。そっちも……平気か?」


「アスナ、もう大丈夫だ。ありがとね」


「いえいえー」


 肩を外し、一人で立つ。


「ふぅ……少々魔力を使い過ぎましたね」


「なるほど、そういうことか。確かに、ここからでも見えるほどの炎であった。あれが、お主の本気ということか」


「ええ、今の俺ではあれが限界ですね。まだまだ精進が必要です」


「その若さであの実力……それを驕らないか」


「師匠に言われましたから。戦場では、驕った者から死んでいくと。だから、あの男は死にました。最初から本気でやっていれば、俺が負ける可能性もありましたからね」


「良い師匠のようだ。さて、問題はここからだな」


「一般人の生き残りは?」


「半分といったところか。だが、若い衆が戦って死んでしまった。これでは、ここには住めまい」


「そうですか。では、ほかの村々に?」


「そうなるな……そして、彼らには悪いが——無かったことにしてもらわねば」


「それは……そもそも、奴らは来なかったということですよね?」


 戦う前の『殺してくれ』から、そういう予想はしていた。


「ああ、お主が理解してくれて助かった。そうだ、まずは礼だった……指揮官を倒してくれたこと、感謝する」


 馬から降りて、きっちりと頭を下げてくる。


「いえ、適材適所というやつです。おそらく、俺が相手をするのが最も犠牲が少ない方法でしたから」


「そう言ってくれると助かる。末端とはいえ聖騎士だからな……」


「確か、血が濃い人がなるんですよねー?」


「そうらしいね。聖女や勇者の先祖返りや、子孫同士の掛け合わせで生まれるらしい」


「ああ、そうだ。そいつらはさまざまな光魔法を使用できる。あれの恐ろしいところは、攻撃魔法以外にある」


 そう……基本的には四属性には攻撃魔法しかなく、ゲームのような補助魔法はない。

 しかし、光と闇だけは別だ……あとは水属性の回復系もか。

 闇魔法は、俺のように暗くしたり隠れたり、相手を弱らせる魔法もある。

 光魔法は、相手を強化したり、光の盾を発動させたりできる。


「特に強化と盾は怖いですね」


「ああ、一般兵士が強くなるからな」


「それが大軍だったら……恐ろしいことになりますね」


「幸い、そこまで多用できるものではないのが救いだが……本物はできるらしい」


「聖女に勇者ですか……」


 ……いずれ、会うことがあるのだろうか?


 そして、俺は……その時、どうするのだろう?


 女神や邪神について、まだまだ知らないことが多すぎる。


 召喚される日が来るまでに、色々調べておかないと。





 その後、村人たちを近くの町に送り届ける。

 幸い空きがあり、快く受け入れてもらえた。

 もちろん、ロナードがきっちりと援助を与えると言ったことも一因だろう。


「ふむ、このまま泊まっていかないかと言われたが……」


「確かに、暗くなってきましたね」


「どうしますー?」


「一刻も早く報告に戻るべきだが……すり合わせを行うべきか」


「そうですね」


「ふふ、悪巧みですねー?」


「人聞きの悪い……これも、双方のためよ」


 ひとまず、移動をして密談を始める。






 そして一夜明けて……王都に帰還する。


 ……まあ、こうなることも想定してたけど。


 俺たちは王都の兵士たちに囲まれていた。


「ロナード様、国王陛下が御呼びでございます」


「わかった。案内を頼む」


「アレス殿もご一緒にとのことです」


「わかりました。アスナ、先に帰っててくれ」


「了解です」





 ロナードと共に、俺は城に向かい……。


 そのまま、とある部屋の中に通される。


「きたか」


「何をしていた! こっちは貴様のせいで大変だったんだぞ!?」


 見たところ、ここは国王陛下の私室か?

 しかし、国王陛下の横にいる男性は……態度からいって王太子か。


「国王陛下、遅れて申し訳ございません」


「うむ」


「俺を無視するな!」


「ライト! 黙っておれ! 他国の皇子がいるのだぞ!」


「くっ……はい」


「アレス殿、申し訳ない」


「いえ、お気になさらずに」


「…………」


 俺のこと、めっちゃ睨んでるけどね。

 見た目も細っこいし、神経質そうな人に見える。

 ただ初対面なのに、なんで俺は嫌われてるの?


「さあ、ロナードよ。弁明はあるか? 教会の者が殴り込んできおった。我が部隊の一部が帰還しないとな」


「はて? なんのことでしょうね。そもそも、他国である我が領地にいることがおかしいのでは?」


「うむ、やはりその方向で行くか。アレス殿?」


「私はただ野盗を退治しただけです。まさか、誇り高き教会の騎士が、了承もなしに国境を越えるわけがないかと」


「な、な、な……」


「ライト、お主に足りぬのはこれだ。お主は奴らの話に動揺し、隙を見せた。あそこは知らぬ存ぜぬで通すか、アレス殿のように言い回しをするべきだった」


「ぐぅ……!」


 歯をくいしばって睨みつけてくる。


「もしや、すでに何か対価を?」


「余が体調を崩していてな……その時に、ライトが対応した」


「兄上、何を言ったので?」


「お、俺は何も言ってない! ただ、帰ってきたら詳細を確認すると……」


「それでしたら問題ないですかね。それは必要なことだと思いますし」


「うむ、それも一理ある。わかった、あとはこちらでやっておくとしよう」


「お手数をおかけします」


「よろしくお願いします」


「……チッ」





 一礼をして、その部屋から退出する。


 そして、王城の手前で立ち止まる。


「すまぬな、色々と」


「いえ、俺は俺の意思でやりましたから。もし貴方が俺の立場でも、同じことをしたでしょ?」


「ああ、友を助けるのは当然だ」


「なら、言いっこなしですね」


「だが、借りができた。お主が窮地の際には助けると約束しよう」


「そんな日が来ないと良いですけど」


「ハハッ! それもそうだな!」


「ところで、俺って嫌われてます?」


「すまぬな、俺と仲がいいからだな」


「あっ、そういうことですか。でも、それは別の話だと思いますけど」


「耳が痛いな……そう、それがアレスに悪い態度を取っていい理由にはならないのだが。兄上は感情的になる癖があるし、甘言にも弱い」


「ふむ……そうですか」


「おっと、こんなところで話す内容ではないな。では、またな」


「ええ。では、また後日」





 迎えに来たアスナと共に、街を歩く。


「どうでした?」


 小声でアスナが問いかけてくる。


「まあ、概ね平気かな」


「では、しらを切る感じですか?」


「ああ、そういう方向でまとまったよ」


「でも、これで力関係がわかってしまいましたねー」


 そう……本来なら、こちらから攻め立てても良い案件だ。

 無断で国境を越え、罪もなき人々を殺したのだから。

 だが、それを言ってしまうと……問題があるほどに教会の力が強力なのだろう。


「ああ、そうだな。しかし、他人事ではない。我が国にでも、そういったことは起きているのかもしれない」


 俺が知らないだけで、似たようなことは起きているのかも。

 帰ったら、父上に確認した方が良いな。


「このあとはどうするんですかー?」


「うーん、特にはないかな。今から図書館行っても遅いし」


「じゃあ、買い物しません? それで、カグラさんとかに送るといいですよー」


「おっ、なるほど。確かに、そういったことはしてないな」


 調べ物や、鍛錬、弟子の指導などで忙しかったし。


「じゃあ、いきましょー!」


「おい! 引っ張るなって!」


 ……それにしても、アレが王太子か。


 ロナードも苦労してそうだなぁ。


 俺はヘイゼル兄上は兎も角、ライル兄上とは和解?出来た。


 ロナードたちも、いずれそうなると良いけど……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る