106話教会の騎士

馬を走らせること、数時間……。


ところどころにある瘴気を見つけ、魔物たちを倒していく


徐々に感覚が研ぎ澄まされ、戦闘の感覚を掴んでいく。





すると……別方向から馬が駆けてくる。


「皆の者! 止まれ!」


ロナード殿の声に、全員が一時停止をする。


「なんですかねー?」


「随分と焦っている様子だな」


近づいてきたのは……傷だらけになった兵士だった。



「そこにいるのは……ロナード様!?」


「うむ、何があった?」


「そ、それが! 村に魔物が現れて! そこに教会の騎士が……!」


「わかった。アレス殿」


それだけで、言いたいことはわかる。

それだけ濃い付き合いをしてきたからね。


「ええ、アスナ」


「了解です……ヒール」


兵士に向かって、回復魔法をかける。


「あ、ありがとうございます……」


「いえいえー」


「さて、疲れているところ悪いが案内できるか?」


「も、もちろんです!」


「アスナ、お前が前に乗ってくれ」


「へっ? ……なるほど、了解です。変なところ触っても良いですよ?」


「いや、そこは触っちゃいけないっていうところだから」


「クク、なかなか良い関係だ。主人を上手くリラックスさせたな」


「えへへ〜、褒められましたよ?」


「へいへい、ありがとうございます」


「感謝する。おかげで、俺の兵士たちも緊張がほぐれたようだ」


周りを見渡してみると、兵士達が苦笑している。

確かに、緊張感はほぐれたけどね。

適度な緊張感は必要だが、あり過ぎてもいけない。

程よい状態のまま、俺達は移動を開始する。









馬を走らせること、数十分……。


「ゴブリンにオークか……」


「ロナード様! この奥に村が!」


「わかった。お前達、半分はここで待機だ。逃げてくる者がいたら、それを守れ」


「「「はっ!!!」」」


「残り半分は俺についてこい!」


「「「かしこまりました」」」


「アレス殿、すまぬが力を貸してくれるか?」


「ええ、もちろんです。では、露払いはお任せを。アスナ、そのまま突っ込んで良い」


「了解です……行きますよー!」


馬を走らせ、魔物の群れに近づいていく。


「使う魔力は最小限に……飲み込め——炎の波フレイムウェイブ


俺の手のひらから炎が吹き出し、それが波となり、魔物達を飲み込んでいく。


「ギヤァガァ!?」


「グゲェェー!?」


今放ったのは、火属性中級魔法フレイムウェイブ。

広範囲に広がり、距離が遠くなるにつれて威力が下がる。

その代わりに、近くにいる者には大ダメージを与える。


「おおっ……! 見事だ」


「どうもです。では、お願いします」


緊急とはいえ、あまり俺が出しゃばるべきではない。


「よし……皆の者! アレス殿が道を開いてくれた! 我に続けー!」


「「「おうっ!」」」


俺が開けた穴を、ロナード達が広げていく。


「ふぅ……」


「平気ですかー?」


「ああ、問題ない。俺たちも行くとしよう」







そのまま、魔物を蹴散らしつつ……奥へ向かうと。


「や、やめテェェェ——!?」


「ぎゃあああァァァ!」


「ヒャヒャヒャ!!」


「邪魔だァァァ!」


……なんだ、これは。


鎧を着た者達が……魔物ごと人を殺している。


それどころか、下半身を剥き出しにして襲っている者もいる。


「何をしている!!」


いち早く立ち直ったロナードが突撃する。


「ご主人様!」


「わかってる! 見過ごすわけにはいかない!」


後を追うように、騎士に迫る!


「あん? ……ケオス団長! 兵士が来やしたぜ!」


「おやおや……」


「さっきの奴が報告したんじゃないっすか?」


「そうですか……まあ、良いでしょう」


俺達は目を合わせ、一瞬で判断する。


「他の者は、救助を! アレス殿!」


「ええ! アスナ! 怪我人を!」


「了解です!」


「ロナード殿は指揮をお願いします!」


「しかし……」


「俺では民や兵士は言うことを聞きません! 何より、指揮官は魔法を使うはずです! 俺が相手をします!」


ロナード殿は強いが、純粋な戦士タイプだ。

それに……俺の本気の戦いには邪魔になる。


「くっ……すまぬ! 責任は俺が取る! できれば殺してくれ!」


「ええ、わかりました」


俺は馬から飛び降り、指揮官と思わしき者と対峙する。


「おやおや、ロナード殿下にアレス皇子ですか」


こいつ、人の神経を逆なでするような口調だが……。

隙がまるでない……相当の手練れとみた。


「……何故、俺の名を知っている?」


「ふふ、貴方は有名人ですからね」


「貴様、一体何をしている? 民達が何かしたというのか?」


「そうですね……魔物を殺す邪魔をされたので」


「なに?」


「この辺りに瘴気が発生したというので来たんですよ。兵も少なく役立たずなあなた方に変わってね。そしたら魔物が村に逃げ込んだので……面倒なので囮になってもらって、一緒に殺してしまおうかと。彼らも本望でしょう、我らが神聖騎士団の役に立てるのだから」


「狂信者め……!」


……これが、教会の者だというのか。

いや、前の世界でも過去には似たような者はいたはずだ。

だが、目の前にすると……こうも、胸糞悪いものか。


「ケオス団長、どうしやす?」


「そうですねぇ……殺してもいいでしょう。どうせ、いずれは死ぬのですから」


「……どういう意味だ?」


「あなたが知る必要はありませんよ」


そこで、気配が変わる。


「そうか……だが、死ぬのはお前だ」


「アハハッ! 聖痕もない出来損ないの分際で! 」


「団長が出るまでもないですぜ、ここは俺が」


「閉じ込めろ——炎の柱フレイム


「ぎゃあやヤァァァ!?!?」


そいつの足元から火柱が上がり、炎に包まれる。


「へぇ? 雑魚とはいえ、光魔法に守られた奴を一瞬ですか」


「悪く思うなよ。もう戦いは始まっている」


「ええ、もちろんです。呑気にしている奴が悪いですよ」


「「…………」」


お互いに見つめ合い沈黙する。

そして……同時に構える。


「邪悪なる者を貫け——ホーリーランス!」


「我が敵を貫け——フレイムランス!」


光の槍と、炎の槍がぶつかり合い……。


「くっ! ファイアウォール!」


咄嗟に詠唱短縮をして、炎の壁を作る。


「ふふ、火属性の魔法に負けるわけがないでしょう。それも、同じ中級なら。末端とはいえ、私は聖騎士ですよ?」


光魔法は、四つの属性魔法の上に立つ。

しかも聖騎士か……それは、確か教会の中でも限られた者に与えられるものだ。


「なるほど……フレイムランス」


威力は下がるが、詠唱短縮を図る。


「省略しても無駄ですよ! ホーリーランス!」


先程と同じようにぶつかる瞬間に、俺は目を閉じ……。


「フレイム」


真下から火柱を上げて、爆発させる!


「チィ!?」


奴は眩しさに目を塞いだが、準備をしていた俺は——目を開けて奴に迫る!


「ば、馬鹿め! 我が鎧は特注だぞ!? 剣などで切れるわけ」


奴が構える前に懐に入り、居合の構えをとる。


「切り裂け——火龍一閃」


「がない……ピギャキャキャ——!!!」


俺の魔力を込めた一撃により、奴の腕が宙に舞う。


「ああァァァ! 腕がァァァ! 早く光魔法をォォォ!!」


「ふぅ……どうにかなったか」


光魔法は圧倒的な回復能力を持つという。

噂では、腕すらも生やすという。

仕留めるなら、一気に決めないと。


「く、くるなァァァ! 俺に手を出したらすぐに教会本国から刺客がくるぞ! お前の家族も仲間も皆殺しにされるぞ!?」


この手の者は反省をしない。

ここで生かしておく方が、後々面倒なことになる。

何より……ロナードは、全員を生かして帰すつもりはない。


「ほう……? では、なおさら帰すわけにはいかないな——ファイアーウォール」


俺と奴を中心にして、火で囲い込む。

これで逃げることはできないし、仲間が回復しにも来れない。


「な、なんのつもりだ?」


「俺は甘い男だが……大事な者に手を出すなら容赦はしない」


「ヒイ!?」


後ずさる奴に、魔力を最大まで高めつつ、ゆっくりと近づく。


「お前はここにはきていない。それに情報を手に入れるには、別の奴が一人でも生きていれば良い——それが、お前である必要はない」


「ま、まさか……や、ヤメロォォ——!」


「骨も残らずに消えろ——蒼炎クリムゾン


上級単体魔法クリムゾン……蒼い炎で相手を焼き尽くす。

俺が今現在使える最大火力の魔法だ。


「あ、ァァァ! ……あ、あ、ァ……」


それが収まった時……そこには何も残っていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る