105話動き出す物語

 生活に慣れてくると、月日が経つのは早いもので……。


 俺達がここに来てから、半年が過ぎた。


 アスナやダインさんとも交流を深め……。


 弟子であるや友であるとも仲良くなった。


 そして、教会との出来事があったあと、とある頼みごとをした。


 そう、カグラの兄上のことである。


 それらの調査をロナードに頼み、快く引き受けてくれた。


 その間、俺のすることは観光巡りを名目にした周辺地域の調べ物。


 図書館に篭り、ひたすらに調べ物をすること。


 アスナとダインさんと鍛錬、レナとの稽古。


 そして、個人鍛錬に励む。


 一日中やることは多く、あっという間に過ぎていく。


 そんな中、二週間ぶりにロナードがやってきた。






「ロナード、お久しぶりです」


「クク、大分呼び捨てにも慣れてきたな?」


「まあ、未だに良いのか疑問ですけど。貴方の方が年上ですから」


「なに、俺が頼んだのだから気にするな。もっと言えば、その敬語もやめてほしいくらいだ」


「いやいや、それは勘弁してください」


「わかっている。こうやって軽口をたたける相手がいるだけ嬉しいことだ」


「それには同意します」


 王族にしろ皇族にしろ、皆から気を使われる存在だからな。

 それがたとえ、信頼している者でも。


「さて、では要件を伝えるとしよう。お主に頼まれていたことの許可が下りたぞ」


「ほんとですか? ありがとうございます」


 以前より、魔物討伐の参加を打診していた。

 危険だが、実戦に勝る稽古はないからな。

 手紙によると、オルガやカグラ、セレナもそろそろ実戦を積んでいるはずだ。

 こんなところで遅れをとるわけにはいかない——仲間でありライバルなのだから。


「いや。こちらこそ助かる。というわけで、明日の朝から出掛けることになる。今日のうちに準備をしておいてくれ」


「わかりました」


「うむ、ではレナの顔を見て行くとしよう」


「なんなら、稽古を見ていきますか?」


「ほう? 良いのか?」


「ええ、おそらく問題ないでしょう」


 レナの要望で、ある程度上達するまではロナードに見せないようにしていた。

 びっくりさせるんだって張り切っていたなぁ。

 その気持ちはわかるので、俺も協力を惜しまなかった。





「お兄様!」


「レナ、元気そうだな? それに、少し背が伸びたか?」


「そうなのじゃ!」


 レナはロナードに頭を撫でられてご機嫌だ。

 師匠として、少しだけジェラシーを感じる。

 いつの間にか、そういう存在になっていたが……。

 半年も一緒にいて、師匠と弟子をやっていれば無理もないことだと思う。


「ご主人様も背が伸びましたよねー?」


 両どなりに、アスナとダインさんが寄り添う。


「そうかもね。でも、アスナこそ伸びてるよな?」


「まあ、半年も経ちましたからねー」


 アスナは160センチってところかな。

 相変わらず、すらっとした体型をしている。


「俺は変わんないですけど」


「そりゃ、ダインさんは大人だからね」


「でも確かに、俺の背にも追いついてきましたね」


 おそらく、今の身長は165前後ってところか。

 十三歳でこれなら、前世の身長くらいはいけそうだな。

 確か和馬の時も、似たような感じだった。

 ただし……こんなに細身でもないし、イケメンでもなかったが。

 きっと結衣が今の俺を見ても、誰かわからないに違いない。


「ふふ〜、私はおっぱいも大きくなりましたよ? どうですか? 触ってみます?」


 そう言い、腕を絡めてくる。


「やめておくよ……俺はまだ死にたくはない」


 そりゃー、思春期ですから。

 段々と、そういう欲求を抑えるのも難しくなってきた。

 しかし、結果的にそうなるとしても……二人のいないところでするのは違う。


「そうですねー、私も死にたくないです。まあ、カグラさんから許可は取ってますけど」


「はい?」


「今なら話しても良いですね『もし忠臣になり、アレス様に認められたなら……そういう関係になっても怒りはしない。もちろん、アレス様が求めた場合のみだ。もしくは、抑えきれなくなった時だ』だったと思います。要は、他国で見ず知らずの女に手を出すくらいなら私の方がマシってことですね」


「はぁ……しっかりしてますな。さすがはブリューナグ家のご令嬢ですね」


 まあ、ハニートラップがないとは限らないしね。

 ……ヘイゼル兄上は、それによって狂わされたみたいだし。


「ハハ……少し複雑だけどね」


 ……うん、これは俺が信頼されていないというわけではない。

 婚約者として、正妻として、貴族としての考え方だ。

 きっとご両親から言われたに違いない。

 まあ、だからといって手を出すつもりもないけどね。





 その後、レナが特訓の成果を見せる。


「いでよ——ゴーレム!」


 地面に手を置き、魔力を注いでいる……すると。


「おおっ!」


「うん、成功だね」


「お嬢様、お見事です」


「で、できたのじゃ!」


 体長一メートルくらいの土の人形が現れた。

 まあ、下級ならこんなものだろう。


「うむ、見事だ。レナ、よく頑張ったな?」


「お兄様……はいっ!」


「俺からもだね。レナ、頑張ったね」


「師匠……ありがとうございます!」


「だが、これはどの程度の強度だ?」


「うーん……少し見ててください——ファイアーボール」


 魔力を最小限に抑え、火の玉をぶつけると……。


「むっ……おお、崩れておらん」


「まあ、ゴブリン程度なら壁になってくれるでしょう」


「こやつは戦えないのか?」


「うぅー……まだ、それは無理なのじゃ」


「下級の下級ですからね。今は術者を守ることしか実行できません。これから上がっていく中で、頭が良くなっていきますし、強さも増していきます」


「なるほど……いや、半年でこれなら十分だ。アレス、感謝する」


「いえ、こちらこそ助かりました」


「何か得られるものがあったのか?」


「教える中で、魔力の効率化、発動の省略化、威力の調整などが鍛えられましたね」


「ならば良い。では、明日を楽しみにしている」


「ええ、こちらこそ」








 翌朝……アスナと共に、ロナードと合流する。


「では、ロナード殿。そして、兵士の皆さん。今日はよろしくお願いします」


 流石にプライベート以外は『殿』をつけている。

 それが気にくわない人もいるだろうし。


「「「よろしくお願いします!」」」


「ああ、よろしくな。では、行くしよう」


 馬に乗り、アスナを後ろに乗せる。


 さて……国を出てから半年だ。


 つまり、実戦をするのも半年振りということだ。


 久々の感覚に、俺は不謹慎にも高揚するのだった。

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