103話新たな友

 ……あれが、神聖騎士か。


 父上の言う通り、中々のクズだったな。


 あんなのが、我が国の中でも我が物顔で歩いているのか……。


 やはり、教会について色々と調べるべきかもしれない——多少の危険を覚悟で。




「アレス殿、申し訳ない。早速、面倒なことに巻き込んでしまった」


「いえ、俺が貴方の立場なら同じことをしたでしょう。たとえ、あとで叱られようとも」


「クク……お主ならそう言うと思った。さて、とりあえず場所を変えるか」


「お兄様、我はお腹が空いたのじゃ!」


「そうですねー、わたしもです」


「良いですね、美味しいものを食べて気分転換しましょう」


「みな、気遣いに感謝する」





 助けた親子に礼を言われ、兵士達に事情を説明した後……。


 移動して、王族御用達の個室の飲食店に入る。


 そしてひとまず食べ終えた後、先ほどのことについて話し合う。


「まずは、謝罪を。お主を利用してしまった」


「えっと?」


「俺の後についてきてくれと言ったことだ。俺一人だったら、殴りかかっていたかもしれん。そうすれば、流石に国際問題になる」


……なるほど、国賓である俺がいることで、気持ちを抑え込んだということか。


「いえ、お気になさらずに。俺も殴りたかったですし」



「ハハッ! 気があうな! ふぅ……しかし、いよいよ勝手が過ぎるな」


「いつも、あんなですか?」


「いや、あそこまででは……瘴気が溢れていることで、奴らの出動回数も増えた。そのことが、増長を促進させているのやもしれん」


「なるほど、確かに奴らの光魔法もどきは魔物に特効効果がありますからね」


「アレス殿」


「わかってます。人前ではもどきとは言いません」


「うむ、奴らはうるさいからな。さらには、世界を救う召喚された勇者と聖女の子孫で構成されている。故に、偉そうな態度を取るのも仕方ないのかもしれんが……」


「それは、また別の話ですよ。親や先祖が偉業を成し遂げたとしても、本人が偉いわけではないですから。それにたとえ偉かろうとも、それが横暴をして良い正当な理由にはなりえません」


 前の世界でもいたが……社長の息子だから偉いとか。

 そんなわけがないというのに……あくまでも、本人は別物だ。


「……それがわかる者の、何と少ないことか」


「師匠は立派なのじゃ!」


「そうですねー、そういう人が上に立ってくれるといいんですけどねー」


「そんなに大したことじゃないよ。多分、少し考えればわかるはずなんだ。ただ、教える人がいないだけでね。本当なら、親がそういうことを教えないといけない。幸い、父……皇帝陛下は、俺にそれを教えてくれたから」


 父上が横柄な態度をとったところなど見たことがない。

 常に相手の視点に立って、物事を考えてくれる。

 だからこそ、アレスとしても和馬としても、尊敬に値すると思ったんだ。


「良き父親で羨ましい限りだ」


「でも、国王陛下も悪い方には見えませんでしたが……」


「そうですねー、きちんとアレス様のことを評価してましたし」


「うむ……国王陛下としては優秀な部類に入るだろう。きちんと家臣の声にも耳を傾ける度量もあるし、民についても考えている。ただ……子供に関してはどうだかな」


「お兄様……」


「それは……」


 流石に、俺の口からどうこう言える問題ではないな……。

 すると……ロナード殿はレナちゃんの頭に手を置く。


「いや、すまぬ。他国の者の前で言うことではないな。レナや兄上を見ていると、どうしてもな……」


「俺で良ければ、お話を聞きますが……もちろん、他言無用を約束します——アスナ」


 俺は、諜報員でもあるアスナに視線を送る。


「ええ、わかってますよー。主人である貴方が言うなら、私はそれに従うだけです」


 どうやら、わかってくれたようだ。

 まあ、概ね信用していいだろう。


「そうか……父上は正妻にも愛情がなく、妾である母上を愛してしまっている。故に、兄上とレナは愛情を注いでもらっておらん。そして妾の子である俺を可愛がってしまっている。そのせいで兄上は俺を嫌っているし、もちろんその母も嫌っている。もう、俺の母上はいないというのにだ」


「わたしはお兄様が可愛がってくれるからいいの!」


「クク、そうか」


 ……そっか、道理で既視感があると思った。

レナちゃんとロナード殿は、俺とヒルダ姉さんの関係に近いのか。

 だから親近感を覚えるし、放って置けないと思うのかも。


「なるほど……ちなみに、お聞き辛いのですが……」


「うむ、そうであろうな。母上は若くして亡くなったが、それは暗殺の類ではないことは断言できる。もしそうであれば、俺は冷静ではいられない」


「大変失礼いたしました」


「いや、構わぬ。お主の事情を考えれば無理もない。そうか……お主には悪いが、俺はまだマシということか」


「まあ、俺の母は暗殺されそうでしたからね。でも、俺の母は生きてますから。亡くなってる貴方の方が辛いはずです」


「そうか……感謝する。しかし、お互いに父親には苦労させられるな?」


「まあ……父上は尊敬に値する方ですが、否定はできませんね。うちも、母上を愛した故に色々とありましたからね」


 父上が、もう少しゲルマに寄り添っていたら……。

 そうすれば、最初から皆で仲良く出来たかもしれないが……。

 まあ、ターレスがいる限りはそうはならなかったか。

 何より、過去は変えられない。

 できることは、より良い方向に向かって進んでいくことだけだ。


「うむ、完璧な人間などおらんとわかってはいるが……歯がゆいものだ」


「まあ、そんな奴は逆に信用できないですけどね」


「ハハッ! お主のいう通りだな! 多少人間くさい方が良いのかもしれん」


「ええ、周りが支えたいと思われるのも器でしょうから」


「うむ、それも一つの形であるな」


「むぅ……難しい話なのじゃ!」


 なるほど、静かだと思ったらそういうことか。

 まあ、六歳には難しいよなぁ。


「クク、お前にもいずれわかる時が来る。それにしても……お主と話すのは楽しい」


「ええ、俺もです」


 きっと、考え方や境遇が似ているからだろう。

 歳はあちらが上だが、対等に話をしてくれるし。


「なら良い。これからもよろしくお願いしたいものだ」


「わ!我もなのじゃ! 師匠!」


「ああ、もちろんだ」


 最初はどうなるかと思ったけど……この国に来てよかった。


 出来事自体は不快だが、初めて教会の騎士と会うことが出来たし。


 それに、可愛い弟子はできるし、良き友にも出会えた。


 もし彼らが困っていたなら、助けたいと思うくらいに。











 その機会がいずれ訪れることを、この時の俺は知る由もない。

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