101話時が経ち……

 俺がここにきてから、はやくも一ヶ月が経過した。


 当初は行動の制限により、暇を持て余すと思っていたが……。


 国王陛下は約束通りに、俺に自由を与えてくれた。


 そんなに悪い方ではないというのが、今のところの印象だ。


 先週も会ったが、レナちゃんのことを気にしていたし。






 そんな俺の一日は、稽古から始まる。


「セァ!」


「ヤァ!」


「甘いよ」


 槍とナイフによる攻撃を、余裕をもって躱す。


「くっ!? 後ろに目でもついてるんですか!?」


「ほんとですよー、ちっとも当たりませんねー」


「俺は身体の魔力強化が得意じゃないからね。それに剣士であり、魔法使いでもある。魔力強化に消費してしまっては、肝心の魔法が撃てなくなるからね」


 俺はひたすら避ける稽古、二人は俺に当てる稽古を繰り返している。

 流石に二人同時なら、俺の鍛錬にもなる。

 それに、二人も俺に当てられるくらいなら他の奴らにも対応できるだろう。





 稽古が終われば、軽く風呂に入り……。


 用意された朝ご飯を食べ……。


 今度は訓練所にて、教え子との鍛錬である。


「さて、いよいよかな」


「うぅー……できるかなぁ?」


「魔力はわかるようになったよな?」


 座禅を組ませ、己の内側にある魔力の流れを感じ取るのに一ヶ月かかった。

 しかし、これは早い方である。

 俺も似たようなものだし、セレナでも二週間かかったからな。


「う、うん……」


 俺とレナちゃんの関係性も大分変わった。

 一応、弟子と師匠という立ち位置なので、俺は敬語を使わない。

 レナちゃんも、大分口調が柔らかくなってきた。

 あの高圧的な態度もなくなり、すっかり女の子らしくなった。


「なら、あとは簡単だ。それを、砂でも土でもいい。それらを想像しながら、身体から放出する感じだ」


 地面にある砂を拾い、上から流す。


「何より大事なのは言葉の力だ。魔力を込めて、詠唱する。まあ、試しにやってみるといいよ」


「わ、わかったのじゃ!……撃ち砕け! 石弾ロックバレット!」


 おそらく無意識だろうが、両手を合わせて前に出した。

 そう——その感覚こそが肝だ。

 そして……石の弾が撃ち出される!


「で、できた……?」


「ああ、出来たね」


「ヤ——ヤッタァァ——!」


「おっと……」


 飛びついてきたレナちゃんを受け止める。


「ありがとう! 師匠!」


 師匠……未だにむず痒いが、なんだか悪くない気分だ。


「いやいや、君が頑張ったからさ。土魔法は汎用性が高いからね。極めれば、色々な使い道があるよ」


「ど、どういったものがあるのじゃ!?」


「そうだな……まずは場所を選ばない。あとは一点集中すれば、ある意味で単体攻撃としては最強かもしれない。何より——ゴーレムがある」


 そう、土属性の最大の利点はそれだろう。

 魔法使いとは、基本的には近接攻撃に弱い。

 体力もないし、俊敏さもない。

 しかしゴーレムがあれば、護衛にもなる。

 さらには、それに乗ることで体力温存にもなる。


「ゴーレム……」


「それに君は王族だ。絶対に裏切ることのない護衛は無駄にはならないだろう」


「うむむ……確かに師匠の言う通りなのじゃ」


「例えば、他国に嫁ぐときにも役に立つはずだ。味方が少ないかもしれないし、護衛も連れていけないこともある」


「と、嫁ぐ……」


「おやおや、お嬢様。そんなにモジモジしてどうしたのです?」


「う、うるさいのじゃ!」


「他国に嫁ぐ……何処に嫁ぐので?」


「うぅー……」


「ハハ……その辺にしといてください」


 これはアレか……フラグを立ててしまったか?

 まあ、まだ六歳だし……一過性のものだと思いたい。







 昼食を済ませたら、次は図書館に出かける。


「いやー、この生活にも慣れてきましたねー?」


「まあ、そうだね。なんだかんだで、行動の自由があるから退屈もしないし」


「アレス様ー! こんにちは!」


「わぁ……! 銀髪だぁ!」


 街行く人々に返事をしながら歩いていく。


「ふふ、すっかり人気者ですねー?」


「銀髪は珍しいらしいからね」


 意識したことないが、母上以外には見たことないし。

 何か、特殊なものだったりして……まさかね。


「というか、それが本来の髪なのか?」


 アスナの髪は漆黒で、目は金色をしている。

 出会った頃は緑色の髪、この間まで金髪だったし。


「ええ、これが素顔ですねー。この国なら隠す必要もないですし。それに、アレス様についていくことにしましたのでー」


「……そうか。じゃあ、聞くが……ノスタルジアの血が入っているのか?」


「ええ、私の母方の方に」


「へぇ、なるほど」


 もしかして、忍者の末裔とか言わないよね?

 まあ、アレも実在したかどうかは眉唾ものだし。


「それにしても、思ったより歓迎されてますよね?」


「それは思った。もっと、色々と制限されると思っていたからね」


「やっぱり、自由に動けるのが大きいですよねー。毎日街に出て、どっかしらに行ってますから」


「……皮肉なものだね。他国の方が、行動の自由と発言の自由があって……安全に暮らせるなんてね」


「アレス様……」


「ごめんごめん、別に大した意味はないんだ。少し考えさせられただけさ。さあ、行こう。意外と、時間はあっという間に過ぎてしまうからね」


「そうですねー、わたしも色々調べないといけないですから」


 二人で図書館に入り、それぞれの調べ物をする。


 これは二週間前から許可が下り、それから毎日通っている。


「ふむ……この国はそこまでの広さはないと」


 大体、我が国の半分くらいの国土といったところか。

 地図は軍事機密に関わるからないが、端から端までの日数が書いてあるからわかる。


「この国の成り立ち……ん?」


 我が国もそうだが……いつからあって、何を起源としているかが書いていない。

 まあ、何千年も経っていれば無理もないかと思うが……。


「少しおかしい気もする……」


 邪神によって、他の大陸の人間は死に絶え……。

 残ったのは、この大陸だけだという……。

 そして、我が国の祖先がアスカロンにて邪神を弱らせ……。

 それを女神が封じ込めたとされているが……。


「当時大陸を支配していたと言われる我が国に神器を与えたとされているが……」


 一体、何処からが本当で……何処が嘘なのかがわからない。


「そもそも、女神の結界により海の向こうにはいけないとされているが……」


 皆はそれを、邪神の眷属から守ってくださると言うが……。


 ……もしかしたら——


 ……いや、まだ結論には早い。


 俺は頭の隅に置き、再び書物を読むのだった。




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