99話力を証明する

 馬車に乗り、ロナード殿に疑問をぶつける。


「レナ王女は、連れて行かなくて良いのですか?」


「うむ……扱いが難しくてな。軽々しく王城へは入れないのだよ」


「それは、女性だからということですか?」


「それもある。王女が政治に興味を持っては困るからな。ただ、父上が問題でな」


「そうですか……」


「まあ、よくある話だ。父上は政略結婚の正妻の子よりも、妾である俺の母上を愛してしまった。正妻に似たレナを嫌いではないが、どう扱って良いのかわからないのだろう。どうしても、政治の道具としてみてしまうしな」


「……そんなことまで話しても?」


「なに、お主なら少しは理解出来ると思ってな。確か、似たような情報があったが?」


 俺の父上が、母上を愛しているようにか。

 ただ、父上と違うのは……父上は、子と母親は別と考えていることだ。

 故に俺も、ヒルダ姉さんと母親は別と考えることができたのだから。


「確かにそうですが……いえ」


 流石に他国の国王を批判するわけにはいくまい。


「気にするな、俺とてそう思う。我が父上ながら、なんと器の小さいことか」


「……それがあるから、レナ王女を?」


「うむ、それがないとは言えん。ただ、単純に妹とは可愛いものだ……そうではないか?」


「ええ、その通りですね」


「生意気であろうとそうでなかろうと……俺は、レナが伸び伸び生きられるようにするつもりだ——たとえ、短い間だとしても」


「ご立派ですね……それに比べて俺は……」


 結衣やエリカに、なにをしてやれただろうか?

 かたや目の前で死んで、エリカとはこうして離れ離れになってしまった。








 馬車は進んでいき……。


「到着したようだな。では、ついてきてくれ」


「ええ、案内をお願いします」


 アスナは黙って、俺の後をついて来る。


 城の門をくぐって、検査を受けることなく進んでいく。


「お疲れ様です!」


「ロナード様! どうぞお入りください!」


「うむ、皆もご苦労」


 ……どうやら、ロナード殿は兵士達に好かれてるようだな。

 それが、兵士達の態度や顔に如実に表れている。




 中に入ると……。


「お待ちしておりました」


「アランドル、出迎えご苦労。アレス殿、我が国の近衛騎士団長アランドルだ」


「お初目にかかります、アレス様。ご紹介頂いた通り、私が近衛騎士団長のアランドルと申します」


「ゼスト殿、初めまして。アレス-アスカロンと申します」


「ご丁寧にありがとうございます。それでは、私についてきてください」

 

視線を感じつつも、大人しく後をついていく。


「あれが……」


「随分と噂と……」


「いや、しかし……」


「だが、ロナード様がお認めになったと……」


「すまぬな、アレス殿」


「いえ、お気になさらずに。誰だって気になるでしょうから」


「感謝する」


 そして、そのまま見覚えのある場所に着く。


「謁見の間か……」


 どうやら、公式の挨拶ということか。

 プライベートの話ができるかどうか……。


「では、このままお進みください。付き添いの方は、私とここで待機でお願いします」


「アスナ、武器を頼むね」


「はい、畏まりました」


「何か、特殊な作法はありますか?」


「いや、気にすることはない。お主は国賓扱いだし、皇子であるからな。目線を下げることも必要ない。普通の礼儀さえあれば問題ない」


「わかりました。では、お願いします」


 武器を預けて、ロナード殿についていく。


 赤い絨毯の上を、背筋を伸ばして進んでいく。


 視線はやや上を、一点を見つめ、礼儀を損なうことなく堂々と。


 俺の行動次第では、我が国そのものが舐められてしまう。


 たった今、この国の重鎮達が俺に視線を注いでいるのだから。


「国王陛下、アレス殿をお連れしました」


「うむ、ご苦労。アレス殿、遠路はるばるご苦労であった。そして、挨拶が遅れたことを申し訳なく思う」


 ……これが、バラン-グロリアか。

 金髪碧眼の英国風な風貌をしているな。

 割と、スマートな体型をしている。


「いえ、お気になさらないでください。ロナード殿をはじめとした方々に、よくして頂いております」


「うむ、ならば良い。急遽予定変更があって、時間が取れたのでな。我が国は、どうであるかな?」


「そうですね……我が国と違い、草原が広がっていたのは驚きましたが……それがかえって自然というか、気持ちの良い風や、良い景色を楽しめるので良いと思いました。そして街の中は様々な建物があり、それもまた違うのだなと感心いたしました」


「うむ、良きかな。何か、困ったことはあるか? 要望があれば聞こう」


 ……よし、表情が柔らかくなった。

 どうやら、掴みはオッケーだったようだ。


「そうですね……私は剣士であり、魔法使いなのです。剣の稽古の相手もそうですが、魔法の鍛錬もしたいと思っております」


 視線をちらりと向け、様子を伺う。


「うむ、しかし我が国には魔法を使いこなせる人材が少ない。まあ、とりあえず続けよ」


「はい、ありがとうございます。私の魔法は、もう教わることはほとんどありません。これは傲慢でもなく、単なる事実として。故に、これを向上させるには……教える側に回ることです」


「なるほど……レナを指導したいと?」


「はい、才能もありますので」


「国王陛下、発言をよろしいですか?」


「ロナードか……許可する」


「ありがとうございます。この男は、妹を預けるに相応しい男かと」


「お主が言うほどの男か……わかった、許可しよう」


「「ありがとうございます」」


「よい。だが、条件がある」


「何でしょうか?」


「実際の魔法を見せてはくれまいか?」


「なるほど、道理ですね。では、どちらで?」


「では、場所を移すとしよう」






 その後移動して、訓練所に到着する。


 俺を取り囲むように、みんなが興味深々で眺めている。


「では、私は火属性の魔法を扱います。水属性の方がいれば、膜を作ってください」


「うむ」


 国王の返事により、魔法使い達が俺を囲む。


「まずは……フッ!」


 全身に燃え盛る炎を纏う。


「くっ……!」


「な、何という熱だ……!」


 魔法使い達が水の膜を強化して、温度を下げようとする。


「うむ……我が国の宮廷魔道士長メイガン、どう思う?」


「……恐ろしいほどの魔力制御ですね。見てください、彼の衣服を」


「……燃えていないか?」


「ええ、おそらく魔力の膜を張った上から炎を纏っているのでしょう。火属性とは、その威力から制御が難しいとされています。それを、ここまで制御出来るとは……」


 ……ほっ、良かった。

 それをわかってくれる方がいたか。


「ありがとうございます。では、水属性の方々、そのまま魔法を当ててみてください」


「うむ、許可する」


「「「「ウオーターボール!」」」」


 四方向から魔法が飛んでくるが……その全てをかき消す。


「何と……密度も高い。完全に、水の威力を消しています」


「ふむ……他には何かあるだろうか?」


「では——舞い踊る炎蛇ファイアースネーク


 炎の蛇を自由自在に操る。


「おおっ!?」


「こ、これは……!」


「メイガン、どうだ?」


「魔力密度、それを制御する力共に文句の付け所がありません」


「そういうタイプの魔法使いということか?」


 ……もっと、わかりやすい方がいいか。


「いえ、他にもございます。では、壊していい物はありますか?」


 メイガンさんという壮年の男性が、指差す方を見ると……。

 そこには、いくつかのゴーレムが鎮座していた。


「では、あれに向かってお願いします」


「わかりました——灼熱の光インフェルノレイ


 セレナとの特訓により、制御された上級魔法が発動する。

 詠唱速度も上がり、正確性も増したはずだ。

 空中に、火の玉がいくつか出現する。

 そして、それらが降り注ぎ——ゴーレム全てを粉砕した。


「な、何と……上級魔法を……しかも、制御している」


「ふむ、申し分ない威力だな。まったく、どこが出来損ないだというのだ。とんだ麒麟児ではないか」


「ええ、その通りですな」


「ありがとうございます……それでは?」


「うむ、もちろん許可する。良いものを見せてもらった。ワガママな娘だが、よろしく頼む」


 そう言ってばつが悪そうな表情を見せる。


 ……そっか、別に嫌ってるわけではなさそうだ。


 国王とて人だ……複雑な思いがあるに違いない。


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