97話ロナード殿との会話

 鍛錬を終えると……。


「ぜぇ、ぜぇ……なんで、息を切らしてないんですか?」


「こ、これは……体力までもあるんですねー」


 二人は寝転んで、息を切らしている。


「まあ、この程度ならね。カイゼルの扱きは、こんなものではなかったし。二人とも、俺を退屈させないてくれよ?」


「あっ、今ムカつきましたね」


「むぅ……安い挑発ですけど、効果的ですねー」


「うむ! 見事なのじゃ!」


「あちゃー、私でも勝てませんね」


「ありがとうね、二人とも」


 意外にも、大人しく見ててくれたし。


「う、うむ……あ、あの!」


「ん? どうしたの? レナちゃん」


 きちんと膝を曲げて、目線を合わせる。


「うぅー……」


「あらあら〜、お嬢様ってば照れてますね?」


「て、照れてないもん!」


 うん、やっぱり子供は子供らしくないとね。

 いずれ、いやでも大人になるけど……王族とはいえ、少しくらいはね。


「何か用事があったんじゃないのかな?」


「わ、我にも戦いを教えて欲しいのじゃ!」


「へっ?」


「あ、アレス殿は、魔法も使えると聞いたのじゃ」


「まあ、使えますけど……ということは?」


「ええ、お嬢様は地属性の魔法に適性がありますよ。ただ、必要ないということで教えていませんが」


「なるほど……それは、許可を得ないと無理かなぁ」


「や、やっぱり……」


「うーん……どうして、そう思ったんだい?」


「その……ア、アレス殿と仲良くなれるかなぁって」


「そっか、ありがとね」


「あぅぅ……」


「なるほど、無意識キラータイプですか」


「ハハ……別にそういうわけではないですよ? ただどんな相手でも、なるべく真摯に向き合っているだけです」


「ふむ……お嬢様の始めの態度も軽く受け流したことといい……面白い方です」


「そ、それはどうも?」


 褒められたんだか、微妙な感じだけど。


「だ、ダメですか……?」


「いや、そんなことはないよ。じゃあ、国王陛下に会うときに聞いてみるよ」


 俺がそう言うと、パァっと顔を明るくする。


「わぁーい! ……あっ——さ、さらばじゃ!」


 そう言い、ピューと走り去っていく。


「あらあら、素が出て恥ずかしかったんですねー。では、私もこれにて」


「あっ、風呂って勝手に入って良いですか?」


「ええ、もちろんです」





 二人が去ったあと、許可を得たので風呂に入る。


「ふぅ……良い湯だ」


 そのまま、浸かっていると……。


「邪魔するぞ」


「へっ? ……ロナード殿?」


「風呂に入っていると聞いたのでな」


「言ってくれれば、すぐに出ましたのに……」


「いや、俺も入りたいと思っていたからな……フゥ」


 そう言いながら、俺の隣に座る。

 それにしても……良い体つきをしているな。


「むっ?」


「あっ、すみません。鍛えられた身体だと思いまして」


「うむ、これでも将として戦いを生業にしているからな。たまにだが、剣闘士もしているしな」


「そのお年で将ですか……凄いですね。それと、剣闘士とは……?」


 前世のイメージ通りならわかるが、一応聞いてみる。


「そうか、そちらの国ではあまり知られていないのだな。うむ……では、まずはそこに連れて行くとするか」


「えっと……?」


「闘技場があるから、そこに行くとしよう。その行きに、これからについても説明しよう。国王陛下から言付けを預かっているしな」


「なるほど、わかりました。では、出るとしましょうか」


「うむ、良い湯であった。やはり、気を使わない相手は楽で良い」


「ああ、それはよくわかります。お世話係の人には申し訳ないですが、一人の方が気楽なんですよね」


「ハハッ! やはり、お主とは気が合いそうだ」


「それに自分の身は自分で守りたいですから。自分のために、誰かが犠牲になるなんて嫌ですし」


「うむ……皇族にあるまじき発言だな?」


「わかっていますよ、自分が歪んでいることは」


「そうか……まあ、俺も似たようなものだ。さあ、行くとしよう」







 風呂を済ませ、準備をして、三人で馬車に乗る。

 ダインさんは、自らお留守番を買って出てくれた。

 貴重品や荷物などもあるからと。

 相手を信用していないわけではないが、一応他国だしね。


「レナ王女は良かったのですか?」


 最後まで行きたいとただをこねていたが……。


「うむ、甘やかし過ぎると良くないからな」


 そう言いつつも、少し凹んでいる様子だ。


「難しいですよね……自分の立場や相手の立場を考えてしまうと」


「そうだな……親の愛を知らぬ彼奴には、出来るだけ甘やかしてやりたいが……そういうわけにもいかん。この国唯一の王女にして——貴重な政治の駒となるのだから」


 ……これは、はっきり言って他人事ではない。

 姉上だって、たまたま相手が良かっただけで……。

 それに、将来的にエリカがそうなる可能性が高い。

 父上や母上が、どう思おうとも……。


「ふふ〜二人共兄馬鹿ですねー」


「おい、俺はともかく……」


「アレス殿、気にするな。風呂の前で待機していたから、その時に言っておいた。少なくとも一年の付き合いになるのだから、砕けた口調で良いと。それに、奴で慣れている」


「そういうことですよー」


「ったく、そういうことは早く言ってくれ」


「すみませんねー」


「クク、お互い癖のある部下には苦労するな?」


「ええ、全くです。ですが、変わり者のにはこれくらいが丁度いいのかと」


「ハハッ! 違いない!」


「むぅ……複雑ですね」


「さて……例の件について話しておくか」


「許可の件ですね?」


「ああ、そうだ。一応、普通の図書館の出入りは自由だ。あとは、街の中も見張りがつくが自由て良いと。外に行くには、俺が同行する必要があるとのことだ」


 ……随分と破格の待遇だな。

 もっと動きを制限されると思っていたが……。


「ありがとうございます。それで、十分です。ロナード殿には迷惑をかけてしまいますか。……」


「なに、気にするな。俺とて用事がないと自由には動けん。それと、気になってるようだから言うが……国王陛下は、アスカロン帝国と友好を深めたいと思っている」


「なるほど、それで待遇がいいのですね」


「一部の……まあ、ほとんどの貴族は反対しているがな。長年の宿敵に膝をつくのか!とな。そもそも、国土の広さや戦力も違うのに、一体なにを言っているのだが。何より、今はそんなことを気にしてる場合ではない」


「……女神の結界ですね?」


「ああ、それもある。しかし、問題は教会だ」


 そっか……国の位置的に、教会とグロリア王国は隣になるのか。

 我が国はノスタルジアを挟んでいるので、中々情報が入ってこないが……。


「やはり、浄化を傘に着て好き勝手にしていると?」


「うむ、その通りだ。光魔法の使い手は、奴らしか持っておらぬ。こっちで、対処すると押し留めているが……民の不安は増すばかりだ」


「こちらでもですか……国に行ったことはありますか?」


「ああ、少しだけだかな。教会の神父や神聖騎士が偉そうにしていたな。確か『ここに住める貴方達は幸せ者です。何故なら瘴気のほとんどない聖なる土地なのですから。これも女神様のおかげですね』とか言ってたな」


「噂は本当なんですね」


 教会の土地には、瘴気がほとんど出ない——つまり魔物がほぼ出ない。

 そりゃ、民が信仰するのも無理はない。


「だが、どうもきな臭い」


「ええ、わかります。うまく出来すぎていますね」


「そういうことだ。俺はそこまで気にしていなかったのだが、ロンドと会って考えが変わった。言われてみるとこの世界は、何かがおかしい気がすると」


「同感です」


「うむ、お主と会えたことは僥倖だったかもしれぬ。おっと……そろそろ着くな」


 闘技場か……真面目な話の後だけど……。


 やはり、男として少しワクワクしている自分がいるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る