95話疑問と予感

 ひとまず食事を済ませた俺は、長年の疑問が再燃する。


 ……この国でもそうだが、当たり前のように前世と近い食事が出てくる。


 国によりけりだが、イタリアンやフレンチ、和食や中華まで……。


 今までは、そこまで考える余裕がなくて放っておいたが……。


 この辺りも、よくよく考えてみたらおかしい気がする。


 この世界には、牛や豚、鳥や魚、馬などいるのに……。


 ……ライオンやキリンや象みたいな生き物がいない。


 何というか……


 まあ……そういう世界だと言われれば、それまでの話なのだが。






「アレス殿?」


 はっ! いかんいかん、つい考えに没頭してしまった。

 今は食事を済ませて、これからについて話し合いをするところだった。


「す、すみません」


「やはり、お疲れの様子。明日にした方が良いのでは?」


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。たしかに疲れていますが、今すぐ寝てしまっては時間がずれてしまいますから」


「それもそうか。では、ひとまず部屋を移すとしよう」


「ええ、わかりました。連れの二人はどうしたらいいですか?」


 一応、皇族と王族の会話だからな。

 聞かれたらまずいこともあるだろうし。


「うむ……口を挟まないのであれば許可しよう。流石に、他国で護衛なしというのは問題があるだろう」


「ありがとうございます。二人とも、いいね?」


「「はい、畏まりました」」


 流石のアスナもふざけることなく、恭しく頭を下げた。


「お、お兄様! 我も!」


「ハァー……済まぬが、此奴も良いだろうか? もし無礼を言うようなら遠慮なく叱ってくれて良い」


 ……ため息をつきながらも、その目は優しい。


「いえ、問題ありませんよ。同じ妹を持つ身として、気持ちはわかりますから」


「アレス殿、感謝する。そういえば、レナと歳の近い妹がいると書いてあったな。その辺りも含めて、色々と話し合うとしよう」






 その後部屋を移し、ロナード王子とレナ王女の対面のソファーに座る。


 あちらにはセバスさんと、エミリアさんが後ろに立っている。


 こちらには、アスナとダインさんが付いている。


「さて、まずは何から話そうか?」


「では、こちらから質問をしてもよろしいですか?」


「ところで……俺とお主は対等だ。なので敬語はいらん。俺も堅苦しいのは嫌いでな」


 見た目といい、言動といい、男らしい感じの人だな。

 とてもじゃないが、王子には見えない。

 戦いにて、先陣を切るようなタイプだ。


「ですが、あなたの方が歳上ですから。そういえば、おいくつですか?」


「十七になるな」


「では、四つも上ですから。もちろん、どうしてもというなら考えますが……」


「ふむ……卑屈になっているわけでも、下手に出ているわけでもないと。自然体で、そのように思っているということか……面白い」


「へっ?」


「いや、手紙で書いてあった通りだと思ってな。たとえ平民であっても、目上の者には丁寧に対応するとな」


「そうですね、それもお聞きしたかったのです。レナ王女に噂と違うと言われたので」


「うむ! そうなのじゃ!」


「ああ、そうだな。まずは、国全体としては聖痕のない出来損ないという情報が入っていた。しかし、手紙には強き心と強き力を兼ね備えつつも、優しさを持って人に接する者だと」


「それは間違いではないですね。実際、聖痕はありませんし。それがないと、我が国では皇位には就けないですから。ただし、俺自身はそれをマイナスには捉えていません。少し過大評価ですが……それがあったからこそ、色々なことに気づくことができたのだと思います」


 俺が聖痕のあった皇子だったら……どうなっていただろう?

 傲慢になっていたかもしれないし、セレナやカグラと婚約することもなく……。

 オルガのような友も出来ずに、ザガンのような奴とつるんでいた可能性も……。

 あり得ないとは思うが、人は環境によって左右される生き物だ。

 いくら俺が前世の記憶があるとはいえ、そうならなかった保証はない。


「うむ、それなら俺にも理解ができる。俺は妾の子でな。我が国では、王位には正妻の子しかつけん。しかし、俺はこの身分を気に入っている。その分、自由に動けるからな」


「おかしいのじゃ! ノワール兄上よりもローレン兄上のが優秀なのに!」


「レナ!」


「ご、ごめんなさい」


「全く、お客様の前で軽々しく言うものでない。というか、お前の実の兄だぞ?」


「うぅー……でも、全然構ってくれないのだ」


 ……なるほど、どこの国も複雑なことになっているようだな。

 そして、彼女の気持ちもわかる。

 俺も姉上に出会うまでは、一人ぼっちで寂しく思ったものだ。

 そして、エリカ……寂しくさせてすまない。


「それは仕方あるまい。兄上は王位を継承する者として、日々忙しくしている。アレス殿、すまぬな」


「いえ、お気になさらずに。我が国も似たようなものですから」


「うむ、いつの世も繰り返される定めのようだな」


「レナ王女……レナちゃんって呼んでもいいかい?」


「ふえっ!?」


「ははっ! いいぞ、許可する!」


「お、お兄様!? あぅぅ……ゆ、許すのじゃ!」


「ありがとう。じゃあ、これからよろしくね。でよかったら、話し相手になるよ」


「おっ、口調が変わったな。うむ、それくらいでいい」


「ええ、そうすることします。どうやら、色々と気が合うと思ったので」


「同感だ。ロンドの言う通りだったな。奴め……きっと、貴方と気が合うかと思いますと書いていたぞ」


「はは……あの方も、不思議な方ですよね」


「うむ、俺やお主と同じく異端であろうな。さて……そろそろ、いい時間だ。最低限、これだけは聞いておきたいことはあるか?」


「そうですね……まずは、俺の自由はどの程度まで許されますか?」


「ふむ……例えば?」


「この国の図書館の閲覧や、街の散策、この都市の周辺を見たりとかですね」


「なるほど……わかった。では、明日までに父上に確認をしておく。ちなみに、父上から言付けを預かっている。多忙ゆえに、面会は少し待ってくれとのことだ」


「ありがとうございます。では、その際にお伝えください。こちらのことは気にせずに、そちらの都合のいい時で構いませんと」


「むぅ……できた男なのじゃ。気に入ったのじゃ! その時は我が案内するのじゃ!」


「お前に任せるのは不安だが……適任者が他にいないか」


 こうして、早くもロナード王子と邂逅し、友好を深めた。


 ……気のせいかもしれないが。


 何かが動き出しそうな予感がする。

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