94話第二王子ロナード

そして日が暮れる頃に、無事に大使館前へと到着し……。


「お、王女殿下! ご無事ですか!?」


何やら、細身で背が高い白髪のおじさんが慌てている。


「うむ! 我は無事じゃ!」


「何故、我々を縄に縛り付けて行ってしまわれたのですか!?」


「だって! 我を連れてかないっていうから!」


「貴女様は、この国唯一の王女なのですぞ!?」


「まあまあ、セバスさん、落ち着いて」


「私達を縛り付けた本人が言わないでください!」


……うん、放置されているね。

というか、縛り付けられてたって……あのメイドさん、何してんの?


「何だか、愉快な方達ですねー?」


「いや、アスナも大概だからね?」


「はは……俺、しっかりしますね」


「ダインさん、頼りにしてます」


常識人であるダインさんがいてくれて良かったな……。

変な人ばかりだと、感覚が麻痺してくるからなぁ。

……今、ブーメランが返ってきた気がする。





俺たちの目の前には、いくつかの建物が建っているが……。


どうやら、コンクリートの四角い白い建物が俺たちの住む場所のようだ。


「へぇ、吹き抜けになっているのか」


天井は高く、一階と二階が螺旋階段で繋がっている。

玄関ホールも広く、大勢の人が入れるくらいだ。


「この建物は自由に使って良いのじゃ!」


「ありがとうございます」


広すぎて、とても使いこなせる気はしないけど。

はぁ……いっそのこと、平屋の家とかで良いのに。


「ゴホン! ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私の名はセバスと申します。この大使館の管理人にして、国王陛下からアレス様のお世話係を承った者でございます」


「いえいえ、お互いに予期せぬことでしたから。ご丁寧にありがとうございます、私はアレス-アスカロンと申します。これから、よろしくお願いしますね」


言葉遣いこそ丁寧にするが、頭を下げないように気をつける。

皇族の者が軽く見られると、それはそれで困るからな。

この辺りのことが、未だに慣れないところではある。


「ふむ……」


何やら少し考える素振りを見せる。


「何か?」


「失礼いたしました。色々と情報が錯綜さくそうしておりまして……」


「そうなのじゃ! その辺りを聞きたいのじゃ!」


「よくわからないですが……とりあえず、荷物を置いても?」


「はい、もちろんでございます。では、こちらへどうぞ」





セバスさんに案内され、二階の部屋に入る。


当たり前だが、それぞれ個室となっている。


真ん中が俺で、両隣が二人となっている。


「ふぅ……ひとまず着いたな」


さて、まずは色々話を聞かないといけないな。




荷物を置いて、部屋から出ると……。


セバスさんと、アスナがすでに待っていた。


「アレス様、お隣ですねー。いつでも、お世話しますからね? 私も初めてで」


「それ以上言うと解雇するよ?」


「えー、それは困りますねー。わかりました、やめときますね。カグラさんに殺されたくないのでー」


「全く……」


「アレス様、お待たせしました!」


「平気ですよ、ダインさん。じゃあ、案内をお願いします」


「畏まりました。では、こちらへどうぞ」


階段を下り、玄関ホールを右に抜けると……。


「わぁー、すごいですねー」


「そういえば、お腹すきましたね」


そこには、食事が用意されていた。

長い机が一つだけあり、対面式になっている洋式タイプだ。


「わざわざ、ありがとうございます」


「いえいえ、まずはお食事をと思いまして」


「うむ! お腹が空いたのじゃ! アレス! 座るのじゃ!」


席にはレナ王女がすでに座っており、俺たちを手招きしている。


「ばかもん!」


とある男性が、俺たちの横を通ってレナ王女の頭をたたく。


「イタイ!?」


身長は180ほどで、大柄な体型をしている。

太っているわけではなく、引き締まった感じの方だ。

黒髪黒目で、イケメンというより男前な顔をしている。

そして……そんなことが出来るのは。


「レナ! 相手は皇子だぞ!? その態度はなんだ!? 俺は言ったはずだぞ? 相手は、お前よりも年上で皇子であり、この国に滞在するお客様であると! お前の方が偉そうにしてどうする!? 今から、城に帰るか?」


「い、嫌なの!お兄ちゃん!」


「全く! エミリア! 何をしていた?」


「寝てました」


「おい? 俺の命令は?」


「なんでしたっけ?」


「こいつがどうしても行きたいというから、色々と助けてやってくれと頼んだが?」


「ええ、だから本来行く人たちを縛り上げましたよ?」


「セバス?」


「も、申し訳ございません! 気がついた時には、全員が縛られておりまして……」


「ハァー……まあ、こいつの腕なら仕方ないか。つまり、命令違反はしてないと?」


「はい、そういうことです。悪いのは、全部レナお嬢様ですね」


「エミリア!?」


「ふむ……あとで叱るとして、まずは——申し訳ない!」


そう言い、俺に向かって頭を下げてくる。

へぇ……自分ではない誰かのために頭を下げられる人か。


「いえ、気にしてませんよ。まずは、自己紹介をしませんか?」


「これは、俺としたことが。グロリア王国第二王子のロナード-グロリアと申す」


「ありがとうございます。私の名はアレス-アスカロンと申します。今回こちらでお世話になるので、よろしくお願いします。そして、言葉遣いや態度はお気になさらずに。行き過ぎたものでなければ、こちらとしては問題ありません」


「うむ……手紙通りの男であるか」


「あっ——ロンドさんですね?」


「うむ、奴より手紙をもらった。噂とは違い、中々に器の大きい男がいると」


「そうですか、少しむず痒いですね」


「ロンドほどの男が言うから信用はしていたが……会ってみてわかった。その優しそうな瞳の奥に、己の信念を貫く意思を感じる」


「そんな大層なものではないですよ。実際は、迷ってばかりですから」


「良いことではないか。迷わない者などつまらんし、それでは上に立つ資格はない。何より、迷った者こそが行き着ける場所というものもある」


……迷った者こそが行き着ける場所……。


詳しい意味はわからないが……。


その言葉がやけに心に響く。


ロナード-グロリア第二王子か……。


うん、中々面白い方のようだ。




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