88話カグラの願い事

 歓迎会から一夜明けて……。


 朝から、早速デート?である。


 ……



ファイアーウォール炎の壁


 カグラの進行方向に炎の壁を出現させる。


「何のっ!」


 魔力により強化した剣で切り裂くが……。


フレイムランス炎の槍


 剣を振り終えた後をすかさず狙う。


「わわっ!?」


 慌てて、上半身をずらして躱すが……。


「甘いよ——ファイアースネーク舞い踊る炎蛇


 人体の構造上、その体勢からでは躱すことはできない。


「アッ!?」


 横っ腹に喰らい、カグラが吹き飛ぶ。


「お、お嬢様!?」


「な、何と……魔法使いとしても一流なのか」


「あの詠唱の速さ……まるでタメがなかった」


 ……相変わらず、少し気まずい。

 学校では、面と向かって褒められることなんてなかったし。

 皆、遠巻きに見るか、出来損ないの癖にとかしか言わなかったし。



「フフフ……楽しいのだっ! 最高のデートなのだっ!」


 ……いや、良いんだけどね。

 短い間しかいられないから、何かしたいことがあればと聞いたら……。

 答えは、模擬戦と言う名のデートだった……カグラらしいというかなんというか。


「まだやるかい?」


「もちろんなのだっ!」


 デートの条件はたった一つ。

 俺は魔法込みの本気モードで相手をすることだ。


「行きます!」


「はぁ……なんだかなぁ」


 まあ……こういうのが、俺たちらしいのかもね。





 そして、お昼休憩となる。


「あぁー! 悔しい! でも、楽しかったのだっ!」


「仕方ないですねー、じっとしててください」


 今日判明したことだが、アスナは水属性の適性がある。

 なので、多少だが回復魔法が使えるとのことだ。

 もちろん、セレナとは比べるまでもないが。

 それでも、この先を考えたら大いに助かる。


「全く、色々と隠し事があるね。まあ、無理もないか。多少とはいえ、魔法の適性があったら目をつけられるもんな」


「そうなんですよー、私はギリギリSクラスで入りたかったので」


「どうして、今のタイミングなんだ?」


「いや……昨日のことがありましたからねー。主人になるかもしれない人の奥さんに嫌われるのは良くないかなーって」


「お、奥さん!?」


「お嫁さんの方がいいですかねー?」


「お、お嫁さん!?」


 みるみるうちに頬が赤くなる。


「落ち着け、カグラ。なるほど、点数稼ぎか」


「ええ、そうです。おかげで、本気で出来ましたよね?」


「うむっ! 感謝なのだっ! その力でアレス様を助けるのだっ!」


「はい、もちろんですよー」


 ウンウン、関係性が少しはマシになったな。


 俺の身体が保つ限りは、頑張って稽古を続けよう。


 カイゼルがいない今、稽古相手がいることは助かるしね。





 クロイス夫婦とお昼ご飯を食べたら、カグラの部屋でお茶をすることなった。


 というか、クレハさんがそうしなさいって。


 そして、何を言われたのかはわからないが……カグラはガチガチに緊張している。


「ア、アレス様……ふ、二人きりですわね」


「ブブッ!? ゴホッ! ゴホッ!」


「うぅー……ひどいのだ」


「ご、ごめん……でも、どうした?」


「母上に怒られてしまったのだ。模擬戦とは何事ですか!って。午前中ならまだしも、午後までやるつもりかと」


 なるほど、さっきの会話はそれだったのか。

 その間は、俺はクロイス殿と話していたし。


「な、なるほど」


「婚約者になったのだから、少しは可愛らしくしなさいって……」


「別にカグラは可愛いと思うけど?」


「ふえっ!?」


「うん、そういうところとか」


 すぐに真っ赤になっておろおろするし。

 いわゆるギャップ萌えというやつか。

 というか、俺ってそういうのに弱かった記憶がある。


「あぅぅ……」


「まあ、クレハさんのいうこともわかるけどね。少しずつで良いんじゃないかな? その、なんだ……付き合いが長くなるわけだし」


「アレス様……はぃ」


 そう言って、蕩けるような表情を浮かべた。

 クレハさん、どうやら作戦は成功のようですよ。

 ……今、ドキッとしましたから。




 その後、話をしてると……。


「アレス様、少し良いですか?」


 何やら真面目な表情になる。


「ああ、なんだい?」


「拙者の……兄についてです。父上からお聞きしましたよね?」


「………ああ」


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。拙者が考えなしだったばかりに」


「それは違うぞ、カグラ。君は君で、ただ単に努力を続けただけだ。才能もあるかもしれないが、それでもお兄さんの方に責任がある。俺はエリカに抜かれたとしても、そんなことはしない」


「ありがとうございます……兄は楽しい人でした。やたら騒がしくて、いつもふざけていました。飄々としながら、暗い姿など見せることなく……それが突然消えた時、拙者は無理をしていたのかな?と……。拙者と遊んでくれた兄は、偽りの姿だったのかと」


「……どうかな。そればっかりはわからない」


「そうですよね……申し訳ありません、変なこと言って」


「いや、良いさ。俺にとっても義兄になる人だからね」


「そ、そうですよね! はぁ……兄上は、何処で何をしているのだろう」


「やっぱり会いたいのかな?」


「うーん……難しいのだ。殴ってしまいそうだし。そしたら、また出て行ってしまうかもだし。でも……多分会いたいのだ——たった二人の兄妹だもん」


 きっと、今までは我慢していたのだろうな。

 家の恥部ということで、口止めもされていただろうし。


「わかった。ならば、俺も全力で調査をするとしよう」


「はい、父上からも言われたのだ。アレス様、ありがとうございます。そして、兄上をよろしくお願いします!」


「頭をあげてくれ。可愛い婚約者の頼みだ、それくらい叶えられなくてどうする?」


「は、はぃ……」


「というか、俺も一発殴りたい」


「へっ?」


「兄が妹をなかせるんじゃねえっ! ……ってな」


「ふふ……アレス様には言う権利があるのだ」


「いや、それはどうかな」


「えっ? でも、エリカ様を大事に……あっ」


「結局、出て行かなきゃならなかったしね。泣かれて大変だったよ……だから、尚更のことだ。ここに居られるのに、自分から出て行ったことが許せん。俺なんか、我慢して家を出るというのに」


「じゃあ……会ったら一発お願いします! 家族全員の許可は出てるのだ!」


「おう、任せておけ」


 ……俺は妹を二人も泣かせてしまった。


 不可抗力とはいえ、結衣やエリカを悲しませた。


 この上、カグラまでも悲しませてなるものか。


 義兄殿、覚悟しておくか良い——必ず、探し出してみせる。



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