85話カグラとデート



 さて、皆が去ったのはいいが……。


 あれって、そういう意味だよな?


 娘をよろしくって顔してたし……。


 ここは、俺が察してあげるべきだな。




「あ、あの、アレス様……」


「カグラ、デートしようか? ついでに、都市の中を案内してくれるかい?」


「は、はいっ! えへへ……誘ってもらえたのだ」


 どうやら、正解だったようだ。

 これでもかというほどの笑顔だ。

 俺はきっと、このギャップにやられたのかも。

 あと、俺にしか見せないことも……。



 二人で手を繋いで、都市の中を歩いていく。


「なるほど、そのようなことがあったのですね」


「ああ、俺も驚いたよ」


「ルーン家も、色々と複雑みたいですから。彼女は次女で、後継と見なされているのは長女のローラ嬢だったはずです」


「へぇ、そうなんだ。俺は立場上、貴族との付き合いはないから、カグラがいてくれて助かるよ」


「は、はいっ! 拙者でよければ何なりと! えっと、あとは……優秀な人だとは聞いていますが、アレス様にアスナ嬢をつけたということは……もしかしたら、それすらも偽装かもしれないですね」


「なるほど、俺につくというからには一番優秀な人材を送るか」


「ええ、相手はアレス様に評価して欲しいということですから」


「そっか、ありがとう。おかげで少し整理ができたよ。なにせ、色々急だったものだから」


「いえっ! えへへ、勉強した甲斐があったのだ」


 可愛いな、おい。

 こう……何というか、ムズムズする。

 俺のためにやってくれたんだなと思うと……嬉しくなるな。



「よし、この話はここで終わりにしよう」


「へっ?」


「折角のデートだしね。カグラは、ここでどんな風に育ったんだい?」


 今度は俺の番だ、カグラを楽しませないとね。


「あっ——あ、あのですねっ! あそこで父上と母上と遊んでて……」


 俺は楽しそうに話すカグラにほっこりしつつ、都市の中を歩いていく。


 ただ……思い出話なのに、一度も兄の話が出ないことが気になった。







 そして、日が暮れ始める。


「もう、こんな時間ですか」


「大丈夫さ、二週間はいる予定だから」


 本当なら、もっといる予定だったけどね。

 しかし、これでも引き伸ばした方だ。


「うぅー……何なのだっ!」


「カグラ……」


「アレス様は何も悪いことしてないのにっ!」


「ありがとう、カグラ。少し、あっちに行ってみようか」


 カグラの手を引き、ひと気の少ない丘に登っていく。


「あっ——ここは」


「うん?」


「い、いや、昔来たことがあったので……」


「そっか……カグラ、君がいつも怒ってくれること嬉しく思う」


「だって、アレス様が怒らないから……」


「はは……俺はね、皆が仲良く出来ればいいと思っているんだ。もちろん、降りかかる火の粉を振り払うことに躊躇はない。そのために大切な人を守ることも、最強を目指すことも。でも、自らが進んで争いをする気は無いんだ」


「ええ、わかっております……」


「一部の人たちから、日和見主義とか情けないとか言われてることも知ってる」


「……はい」


「でも、俺が我慢することで丸く収まるなら良いと思っているんだ。ごめんね、情けなくて」


「そ、そんなことはありませんっ! 拙者は、強くて優しい貴方を好きになったのです!」


「カグラ……」


「本当の強さとは誇示する武力では無いと、アレス様が教えてくれましたっ! それを持ちつつも、それを制御できる者が本当に強い人だと!」


「ありがとう、カグラ。ただ、できてるとは言えないんだけどね」


「そうなのですか?」


「そりゃ、そうさ。大切な人……カグラとかが危険な目にあえば、俺は躊躇いなく剣を取るだろうし。色々と中途半端なのは、自分でもわかってるんだ。だから、中途半端に目をつけられる……難しいね」


 そう、口では目立ちたく無いとか言っているが……。

 最強を目指したり、下位貴族や民の生活を改善しようとしている。

 矛盾していることは自覚している。

 ただ……どうしても、許せないことはある。


「せ、拙者も同じです。アレス様が目立ちたく無いことは知ってるのに……それを嫌だと思う自分がいるんです! 拙者の好きな人はすごい人なんだ! 拙者の仕える主人は立派な方なんだっ!って言いたいんです」


「そっか、すまないね」


「謝るのは拙者の方です! 今回だって、拙者が無理を言って祝ってもらったのです……」


 そうか、あの民衆はカグラの希望だったのか。


「いや、それくらいは平気だよ。というか、カグラと婚約すると決めた時からある程度は覚悟はしてたし」


「ほっ……そ、それなら良かったのだ」


「一応立ち回りつつ、自分の確固たる地位を確立する予定ではあるから。こんなに可愛くて良い子なカグラが、こんな男に捕まったと言われないくらいにはね」


「はぅ……ま、待ってます」


「というか、じゃないと……領民に殺されそうだよ」


「ふふ……それは言えてるのだ。拙者、領民には好かれているので」


「おや? ここにも好いている人がいるけど?」


「へっ? ……あ、あの、その、えっと……」


 俺は意外とこういう奴だったのか。

 あわあわしてるところを見るのは……意外と楽しい。


「さて、どうしようかな? 婚約者さん?」


「うぅ……意地悪なのだぁ……」


「ごめんごめん。じゃあ、行こっか」


「あ、あのっ!」


 俺が手を引こうとすると、カグラに逆に引かれる。

 結果草むらに倒れ込み、至近距離で見つめ合うことになる。


「きゃっ!?」


 カグラから聞いたことない声がする。

 どうしよう、めちゃくちゃドキドキする。


「ご、ごめんね、すぐに退くから」


 しかし、手を強く掴まれてしまう。


「カグラ?」


「セ、セレナとはしましたか?」


「へっ?」


「そ、その……口づけを」


「う、うん……まあ」


「なら、拙者にも……」


 顔を真っ赤にしながら、そんなセリフを言う。

 しかも全身をガチガチにしながら……。


「クク……」


「わ、笑いました!? ひどいですよぉ〜!」


「ごめんごめん、つい可愛くてさ」


「へっ?」


 これ以上、恥をかかせるわけにはいかないな。

 怖がらせないよう、痛がらせないように——触れるか触れないくらいのキスをする。


「あ——あぅぅ……!」


「さあ、起き上がろうか? 愛しの婚約者殿」


「ず、ずるいのです……」


 どうやら、俺はカグラが恥じらうのが好きらしい。


 きっと、俺だけにしか見せない顔だからだろう。


 普段の凛々しい感じも、たまに抜けてるところも……。


 こういう風に照れてるところも可愛いと思う。


 何より……この子のために頑張ろうと思える。


 しっかりと、自分の基盤を築いていかないとね。


 カグラが誇れる俺であるために……。

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