84話歓迎

 二人と少しずつ親交を深めつつ……。


 数日かけて、カグラの領地へと到着したのだが……。


 どうやら、俺の考えは甘かったようだ。


 やはり、留学を早めて正解だったかも………。




「アレス様ー!」


「おめでとうございます!」


「我々の姫様をよろしくお願いします!」


「ブリューナグ領へようこそ!」


 ブリューナグ領の中心地である都市ブライスに入った瞬間……。


 民達が押し寄せてきて、身動きが取れないでいる。


「すごい人気ですねー? 毎回こうですか?」


「いや、そんなことはない。たしかにカグラは人気者だから、都市に入った時は歓迎はされたが……やはり、婚約したからということか?」


「皆の者! 静まるが良い!」


 そのたった一言で、民衆が静かになる。

 そんなことができるのは、この領地にはあの一家しかいない。


「アレス様——!!」


 民衆が割れた先から、赤いドレスをきたカグラが突撃してくる。


「うおっ!? おいおい、せっかくドレスを着てるならそれらしく……」


「待ってたのだっ!」


 カグラは、俺に向けて弾けるような笑顔を見せる。

 参ったな……こう真っ直ぐに言われてしまっては。


「そっか、ありがとね。俺も楽しみにしてたよ。その格好綺麗だね、よく似合ってる」


「はぅぅ……!」


「カグラ様がデレたぞ!?」


「お、オノレェェ——! 幸せにしなかったら許しませんぞー!」


「これが、お転婆姫を落とした皇子様スマイルか!」


 ……はて、どうしてこうなった?


「アレス様、申し訳ありません」


「これは、クロイス殿」


「実は、前々から一度歓迎がしたいと、領民から言われていたのですが……アレス様のお立場や、試験の最中や結界の異変等がありましたので断っていたのです」


「なるほど……」


 そういや、試験の時も倒れたりしてたな。


「もちろん、アレス様が目立つことを好んでないことは知っております。ですから、婚約した今だけ盛り上がる事を許可しました。勝手に申し訳ありません」


「いや、そういう事なら平気です。別にお祝い事なら誰も気にしないですから。無意味に目立つのを避けているだけですし。必要とあらば、問題ないですよ」


「ほらっ! 父上! 拙者は言ったのだっ!」


「うむ、カグラの言う通りであったな。ではアレス様……申し訳ないですが、一言頂いてもよろしいでしょうか?


 周りを見ると、民衆が俺を見つめていた。


「ふぅ……みなさん! 歓迎してくれてありがとうございます! 私は第三皇子アレス-アスカロン! ここにいる、皆が愛するカグヤ嬢と婚約した者だっ! 大事にすると約束しよう! そして少しの間、ここに滞在するのでよろしくお願い申し上げる!」



「ウオオオオオオ——!」


 民から大歓声が沸き起こる。


「はぅぅ……嬉しいのだ」


「領民よ! 聞いていたな! では、約束通りにいつもの生活に戻るといい! アレス様は普通に接してくれる事を願っている! もし会っても、ひざまづいたりしないように!」


 その言葉を受けて、民たちは綺麗に去っていった。


「なるほど、合理的ですねー」


 いつの間にか後ろに下がっていたアスナが前に出てくる。


「うん?」


「アレス様が自由に動けるように、一纏めにして顔見せと歓迎をしたのですよね?」


「ほう……其方は?」


「そ、そうなのだっ! 見ない顔なのだっ!」


「あっ——申し遅れました。アレス様専属メイドのアスナ-ルーンと申します。身の回りのお世話から、夜のお世話までこなす予定です」


「……おい?」


「よ、夜のお世話!? ア、アレス様!?」


「ま、待て! 君の力は尋常じゃないんだ!」


 両肩を掴まれて、思いっきり揺さぶられる!

 か、肩が外れる!


「う、浮気なのですか!? あれ? でも、結婚はしてないから……」


「カグラ、落ち着きなさい」


 ほっ、クロイス殿がいて良かった。


「父上……」


「男とはな、結婚前に遊びたい生き物なのだよ。正妻になるのなら、それくらいのことは受け流しなさい」


 ……何も良くなかった!


「そ、そうなのですか!?」


「違うから! おい! どうにかしろ!?」


「すみませんでしたー。まさか、こんなに効果があるとは。カグラさん、冗談ですからー」


「……むっ、その口調……そういえば、どこかで会ったことあるような……アスナ-ルーン……あっ——同じクラスの!?」


「ええ、アスナです。アレス様の陣営についたのでよろしくです」


「そういえば、ルーン家が陛下についたと……うむ、アレス様個人ということか」


「アレス様の味方なのだな!?」


「そういうことですねー」


「うむ! ならいいのだっ! アレス様をよろしくなのだっ!」


 この切り替えの早さはカグラの魅力の一つだな。


「ええ、こちらこそ」


「ただ……もし裏切るようなら——拙者がお主を殺す」


「……肝に命じておきます」


 ……そして、いざという時の容赦のないことも。

 あの飄々としてるアスナの顔が完全に強張っている。


「カグラ、ありがとう。心配してくれて。そしてごめんね、心配かけて」


「い、いえっ! 父上も言っていましたが、男性とは仕方ないものだと! 母上は調教すれば良いとも仰ってました!」


「……ハハ」


 色々突っ込み所があるな。


「そういうことだ。私も若い頃は……」


「あ・な・た?」


 後ろからスッと現れて、クレハさんがクロイス殿の肩に手を置く。


「ヒィ!?」


「アレス様に、何を吹き込んでいますの?」


「ま、待て! 私はアレス様の緊張をほぐしてあげようと!」


「それと、さっきのセリフはなんですか?」


「い、いや、あれは……」


「どうやら、調教が必要なようですわね——カグラ」


「は、はいっ!」


「アレス様を案内してあげて」


「畏まりました!」


「アレス様、お見苦しいところをお見せしましたわ」


「グッ……」


「い、いえ……」


 あの、そろそろクロイス殿死んじゃうじゃないかな?

 さっきから、首根っこを掴まれてるけど……。


「では、後ほど改めてお挨拶いたします。それと、御者の方とメイドさんもついてきてくださいませ。カグラ、


「母上……はいっ! ありがとうございます!」


 そう言い、クレハさんは俺のお供も連れて去っていった。


 あ、あれが義母さんになるのか……。


 いや、カグラもああなるのか……?


 うん、冗談でも言うのはやめておこう。



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