青年期~前編~

83話道中にて

 俺が街並みを眺めつつ、これまでのことを思い返し……。


 いよいよ、都市を出るという時……。


「どうもー、失礼しますねー」


 アスナが馬車に乗り込んできた。

 しかし、走行中の馬車に飛び乗る形で。


「おい? 危ないぞ?」


「いえいえー、これくらいなら余裕ですよー」


「全く……騙されたよ。まさか、こんな子だったなんてね」


 念のために学校でも、色々と警戒しておいて良かった。


「ふふー、それなら良かったですねー」


「で、髪の色やその他のことも偽装だったってことかな?」


「はい、そんな感じです。とにかく、目立たないことが肝心でしたので」


「なるほど……まあ、大成功だったわけだ。俺も含めて誰も気づかなかったんだし」


「先生くらいですねー、気づいたのは。やっぱり、ああ見えても歴戦の勇士なんですね」


「やはり、そうなのか。まあ、見た目はアレだったけど」


 流石に、俺のことは気づかれていないとは思うが……。


「それにしても……昨日はアツアツでしたねー?」


「……おい?」


「いえいえー、流石に現場は見てませんよー? 途中までです」


「やられた……カマをかけたのか」


「つまりは、何かしらしたってことですねー」


 これは……油断ならない相手だな。

 いや、今のは俺が迂闊だったか。

 恋愛方面から来られると、久々すぎて弱いかもな。


「さあな? お前にはまだ早いかもな?」


「むっ、これは一本取られましたねー。確かに、経験はないですから」


「やれやれ……ところで、その格好は?」


 金髪ツインテールのメイド服って……テンプレかっ!

 いや、この世界に伝わってるわけないか。

 むしろ、これこそがこの世界のスタンダードか。


「アレス皇子の専属メイドって立場で行こうかと思いましてー」


「なるほど、それならどこについてきても不自然ではないな」


「ええ、お風呂だろうがトイレだろうが平気です」


「俺は平気じゃないけど?」


「またまたー」


「いや、本気で」


「しかたありませんねー、それは我慢します」


「頼むぞ……ふりじゃないからな?」


「あららー、先手を取られましたねー。いやー、楽しいです」


「そうですかい」


 ……果たして、上手くやっていけるだろうか?


 そんなことを考えつつ、馬車は進んでいく。




 そして日が暮れて途中の砦で、泊まることになる。


 訓練でもないし、行軍でもないので、実は初めてのことだ。


 そして食事を終えたあと、良い機会なのでダインさんを誘って談笑する。


「ダインさん、すみません」


「へっ?」


「結局、他国までついてきてもらうことになって……親御さん達は平気でしたか?」


「そういうことですか!ええ、問題ありません!」


「でも、確か二十三歳ですよね? 結婚とかは良いんですか?」


 兵士としての腕も悪くないし、明るくて良い人だし。

 確か、騎士爵位を持っている人の長男だって言ってたな。

 元近衛騎士で、カイゼルが信頼していた人らしい。

 というのも、俺は会ったことがない。

 うちに雇われてすぐに、お父さんは亡くなってしまったからだ。


「うっ……それを言われると辛いです。けど、親父が言ったんです」


「聞いても?」


「ええ、もちろんです! 『あのカイゼル様がお認めになった方だ。きっと世間で言われているような方ではない。ならば、いずれ何からしらの形で大成すると。お前は自分の目で確かめて、それで判断しなさい』と」


「なるほど、是非一度お会いしたかったですね」


「ええ、親父もそう思っていたと思います。そして、私は確信しました。最初にあった時、貴方は私のことを一切聞かなかった」


「えっと……?」


「ああ、すみません。名前とか年齢とかは聞いてきましたけど、爵位とか職歴には一切触れませんでした」


「それは、カイゼルや父上からお墨付きがあったからで……」


「いえ、それは違います。私は軍学校に通ってましたし、卒業してからも上の階級の貴族の従者として働いていました。その時にはまず聞かれました、私のことを知っているのに。そして、必ず見下されました。継承権のない偽物貴族だと」


「やはり、まだ根強いのですね」


「ええ、残念なことですが……しかし、貴方には聞かれたことも見下されたこともありません。そして働いているうちに思ったのです——この先を見たいと」


「ダインさん……」


 初めて聞いたな……そんな素振りも見せないし、他人行儀な感じだったから。


「あと、その……退屈しなそうだなと」


「へっ? ……あははっ!」


「す、すみません! いや、でも、本音ではあります」


「あぁー、可笑しい。そんな言われ方初めてですよ。ええ、退屈だけはないと言っておきましょう。ただし、危険も伴いますよ?」


「ええ、もちろん承知の上です。そのために、私も鍛えてきましたから」


 仕事の合間をぬって、訓練所に通っていたことは知っている。

 お父さんと同じ槍使いで、こっそりオルガと模擬戦なんかもしてたらしいし。


「ええ、知ってます。では、これからもそういう感じで気楽してください。お互いに長い付き合いになりそうですから」


「ぜ、善処します」


「そうですよー、私とも仲良くしてくださいね?」


「うわっ!? いつの間に!?」


 音も気配もなく、すっと入ってきて壁際に佇んでいる。


「いや、いることは知っていたけど。きちんと気配を出しておいてくれ。刺客と間違って攻撃したらどうする?」


「あっ——そうでした。いけませんね、癖なんですよー」


「よ、よろしくお願いします!」


「私の方が歳下なんですから、普通で良いですよー。子爵家ですけど、あんまり気にしないでください」


「ダインさん、平気です。この子は違う意味で平気そうです——変わり者って意味で」


「むぅー、酷いですねー」


「ハハ……わかりました、これから慣れていきますね」


 この二人が、これから長く過ごすことになる人達だ。


 できれば、仲が良いに越したことはないからね。

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